過ぎ去るはエーデルワイス
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何だこの光景。横のデスクでは弥鱈立会人がすごい勢いで始末書を書き上げていて、背後からは「早く早くー」という間延びした晴乃の声が掛かる。
俺はといえば、人生初の始末書を書く気力が起きず、ただただボールペンを回している。
「やったこーとないこともっ」
「やってみよー」
「え、お前ら何」
「にがてーなあいてともー」
「はなしてみようー」
「あめはいつまでもつづかないー」
どしゃぶりもたのしもうー、とハモる二人に何も言えず、ただ目を丸くする。なぜ急に歌い出した。
「え、お前ら、もしかしておちょくってるのか?」
「ばれました?ほーら目蒲さん、一文字も進んでませんよー」
「なあお前、怒ってるのか?」
「怒ってませんよう、やだなあ」
「しかもお前ら、絶交してなかったか」
「しましたよー。でもなんか無理でしたね。頑張ったんですけど」
「無理ってお前…」
「終わりました」
「おつかれー」
晴乃はフランクにそう返すと、弥鱈立会人から始末書を二枚受け取り、キャスター付き椅子に乗ったまま判子を押しに行く。雑な印象を与えるその所作は彼女に似つかわしくなく、やはり機嫌は良くないのではないかと内心穏やかではなくなる。
「ほら目蒲さん、弥鱈君二枚終わっちゃいましたよ」
反省文の書き方、教えましょうか?と意地悪く微笑む晴乃にいらんと返し、始末書を睨みつける。
「第一、なんでお前は書かないんだ」
晴乃はキョトンとした顔で、「私被害者ですもん」と言った。
「喧嘩両成敗じゃないのか」
「何言ってるんですか、あなたのそれは立会人同士の場外乱闘の分。弥鱈君にはそれに加えて私の部屋の壁を破壊した分です。私は立会人じゃないので弥鱈君に壁ドンされたくらいじゃペナルティーつきません」
「壁ドン…」
「そうなんですよ。壁ドンなのに恐怖しか湧かないんです。人生で二回壁ドンされてますけど、二回とも恐怖ですよ」
「因みにあとの一回は…」
「あなたです」
「は?」
「あなたです」
弥鱈立会人が「うわー引くわー」と自分の事を棚に上げて冷やかすのを無視し、「やったっけか」と問えば、彼女は「ほら、山口さんに食べ物貰ってるのがバレた時に」と笑う。
「立会人さんたちは女性の扱い方講習でも受けたらいいんじゃないですかね?」
「なあ、やっぱり怒ってるよな?」
「怒ってませんってば。大丈夫ですよ」
それよりほら、書いちゃって下さいそれ。再三急かされて、俺は観念してペンを進める。
なんか晴乃、今日嫌にキツくないか。「高校ぶりでも書けるもんだな」「昔取った杵柄だね」と笑い合う声にえも言われぬ苛立ちを感じながら筆を進めていると、ポツリと弥鱈立会人が「アンタも墓穴を掘りましたねえ~」と言った。横目で彼の顔を盗み見れば、ニヤリと微笑む横顔が目に入る。
「墓穴、とは」
「私と引き合わせたばかりに伏龍の見なくて済んだ一面を見る羽目になりましたね」
晴乃はけらけらと声を立てる。
「目蒲さんにはとびきり優しくしてたんですけどねー。弥鱈君と一緒にいると素が出ちゃう」
「俺が一週間教科書無しで過ごしてたのは笑顔でスルーした癖にな」
「まあ、聖人君子は賭郎にはいないってことで」
「じゃあ、そのキツいのは怒ってるんじゃなかったのか」
拍子抜けして、俺は言う。そんな事に安心した自分に驚くが、それは彼女には筒抜けらしい。ゆるりと笑顔を向けられる。
「さ、書きあがりました?」
立ち上がる晴乃に、丁度書き上げた始末書を渡す。彼女はいつも通りの笑顔で軽く頷くとそれをバインダーに綴じ、判子を押した。
俺はといえば、人生初の始末書を書く気力が起きず、ただただボールペンを回している。
「やったこーとないこともっ」
「やってみよー」
「え、お前ら何」
「にがてーなあいてともー」
「はなしてみようー」
「あめはいつまでもつづかないー」
どしゃぶりもたのしもうー、とハモる二人に何も言えず、ただ目を丸くする。なぜ急に歌い出した。
「え、お前ら、もしかしておちょくってるのか?」
「ばれました?ほーら目蒲さん、一文字も進んでませんよー」
「なあお前、怒ってるのか?」
「怒ってませんよう、やだなあ」
「しかもお前ら、絶交してなかったか」
「しましたよー。でもなんか無理でしたね。頑張ったんですけど」
「無理ってお前…」
「終わりました」
「おつかれー」
晴乃はフランクにそう返すと、弥鱈立会人から始末書を二枚受け取り、キャスター付き椅子に乗ったまま判子を押しに行く。雑な印象を与えるその所作は彼女に似つかわしくなく、やはり機嫌は良くないのではないかと内心穏やかではなくなる。
「ほら目蒲さん、弥鱈君二枚終わっちゃいましたよ」
反省文の書き方、教えましょうか?と意地悪く微笑む晴乃にいらんと返し、始末書を睨みつける。
「第一、なんでお前は書かないんだ」
晴乃はキョトンとした顔で、「私被害者ですもん」と言った。
「喧嘩両成敗じゃないのか」
「何言ってるんですか、あなたのそれは立会人同士の場外乱闘の分。弥鱈君にはそれに加えて私の部屋の壁を破壊した分です。私は立会人じゃないので弥鱈君に壁ドンされたくらいじゃペナルティーつきません」
「壁ドン…」
「そうなんですよ。壁ドンなのに恐怖しか湧かないんです。人生で二回壁ドンされてますけど、二回とも恐怖ですよ」
「因みにあとの一回は…」
「あなたです」
「は?」
「あなたです」
弥鱈立会人が「うわー引くわー」と自分の事を棚に上げて冷やかすのを無視し、「やったっけか」と問えば、彼女は「ほら、山口さんに食べ物貰ってるのがバレた時に」と笑う。
「立会人さんたちは女性の扱い方講習でも受けたらいいんじゃないですかね?」
「なあ、やっぱり怒ってるよな?」
「怒ってませんってば。大丈夫ですよ」
それよりほら、書いちゃって下さいそれ。再三急かされて、俺は観念してペンを進める。
なんか晴乃、今日嫌にキツくないか。「高校ぶりでも書けるもんだな」「昔取った杵柄だね」と笑い合う声にえも言われぬ苛立ちを感じながら筆を進めていると、ポツリと弥鱈立会人が「アンタも墓穴を掘りましたねえ~」と言った。横目で彼の顔を盗み見れば、ニヤリと微笑む横顔が目に入る。
「墓穴、とは」
「私と引き合わせたばかりに伏龍の見なくて済んだ一面を見る羽目になりましたね」
晴乃はけらけらと声を立てる。
「目蒲さんにはとびきり優しくしてたんですけどねー。弥鱈君と一緒にいると素が出ちゃう」
「俺が一週間教科書無しで過ごしてたのは笑顔でスルーした癖にな」
「まあ、聖人君子は賭郎にはいないってことで」
「じゃあ、そのキツいのは怒ってるんじゃなかったのか」
拍子抜けして、俺は言う。そんな事に安心した自分に驚くが、それは彼女には筒抜けらしい。ゆるりと笑顔を向けられる。
「さ、書きあがりました?」
立ち上がる晴乃に、丁度書き上げた始末書を渡す。彼女はいつも通りの笑顔で軽く頷くとそれをバインダーに綴じ、判子を押した。