過ぎ去るはエーデルワイス
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その日までの俺は、上手くやれていたと思う。アメリカで大学に通う傍ら賭郎の業務をこなす日々。ただ単純に刺激的で楽しかった。大学の授業は退屈だったが、たまに興味深い講義があった。放課後街を歩くのも新鮮で楽しかったし、時折ある賭郎の任務は俺の欲を存分に満たしてくれた。
伏龍とは時折メールした。段々と疎遠になっていこうと思っていた。親父さんたちの願いも知っていたし、あの一件で彼女も賭郎のスカウトのリストに載っていることが分かっていたから、あまり近づけたくなかった。とはいえ、彼女の生活も充実しまくっている…というか、教育学が想像以上に楽しかったらしく、公演だ実習だと飛び回っているので意外と返信は遅い。俺が頑張らなくても、段々と離れていきそうで嬉し哀しだ。
ある日、殺しの任務がやってきた。今でもよく覚えている。授業から解放されたと思ったら能輪立会人から電話があり、丁度ここに取り立てを逃れてきた会員が来るから迎え討てとの指示。普通に空港に行って、普通に殺した。なんならその後普通にシャワーを浴びて、普通にピザを買って部屋に戻って寛いで、いつも通りにメールチェックして、伏龍のメールを読んで、返信を書こうとして、マジで何も書けなくて面食らった。
何を書いてもコイツには隠せない。絶対にメールから異変に気付くに決まっていて、そうしたらバイトで貯めた金使ってここに来るに決まっていて、そうしたら俺は今日のことを話さざるを得なくて。
そうしたら、アイツは賭郎に入るって言い出して、俺はそれを止めきれないに決まっている。
異変を悟られなくなる位落ち着けるまで、返信はよそう。そう思ってメールボックスを閉じた。
そこまで落ち着ける日は、ついぞ来なかった。
「…弥鱈立会人?」
銅寺立会人の声に、現実に引き戻される。
「何か」
「いや、大丈夫?」
「大丈夫ではありませんので話しかけないでください」
「あ、大丈夫だね」
にこにこ笑う銅寺立会人。コイツも中々食えない男である。
「先生は、すっごく寂しかったと思うなぁ」
「はぁそうですか。というか、その先生ってなんなんですか。今更ですが」
「どうみても先生って感じだからね。ああでも、今日の先生はどっちかっていうと、伏龍さんって感じだったね」
あの感情剥き出しな感じは先生っぽくないね。誰のせいだか知らないけど。銅寺立会人は肩を竦めた。
「俺から見たら、どっちも伏龍だよ」
口をついて、そんな言葉が出る。
「どっちも?」
「人を気遣う時も、人に訴える時も、愛情深くて強かないつものアイツだろ」
あー、これはヤバい。慌ててストップをかける脳味噌の信号を無視して、口が滑り出す。
「そういうところがこんな深淵にいたら全部潰されちまうんだぜ。なあ、アンタならどうだよ。アンタもどうせ、救われたとか、励まされたとか、そういうクチだろ。アイツがアイツじゃなくなったら、アンタどうする」
「…弥鱈立会人、物事には適度ってものがある。確かに先生の愛情深さと強かさは美徳だよ。だから、それはその環境に適した形で生き続ける。誰かが生かし続ける。大切に思う誰かが。弥鱈立会人が辛い選択をしなくても、伏龍先生はその場の適度に姿を変えて、みんなを救っていく。もちろん、君のことも。だから君も先生も、辛い道を歩む必要はないと思うな」
適した形で生き続ける。事故に見えた経緯の中でも、彼女は彼女なりの覚悟を決めてここに来たというのなら。それが彼女の選択だとするのなら。
「…俺の選択は、残酷だったんでしょうか」
銅寺立会人は「それこそ、先生しか知りませんよ」と微笑んだ。
伏龍とは時折メールした。段々と疎遠になっていこうと思っていた。親父さんたちの願いも知っていたし、あの一件で彼女も賭郎のスカウトのリストに載っていることが分かっていたから、あまり近づけたくなかった。とはいえ、彼女の生活も充実しまくっている…というか、教育学が想像以上に楽しかったらしく、公演だ実習だと飛び回っているので意外と返信は遅い。俺が頑張らなくても、段々と離れていきそうで嬉し哀しだ。
ある日、殺しの任務がやってきた。今でもよく覚えている。授業から解放されたと思ったら能輪立会人から電話があり、丁度ここに取り立てを逃れてきた会員が来るから迎え討てとの指示。普通に空港に行って、普通に殺した。なんならその後普通にシャワーを浴びて、普通にピザを買って部屋に戻って寛いで、いつも通りにメールチェックして、伏龍のメールを読んで、返信を書こうとして、マジで何も書けなくて面食らった。
何を書いてもコイツには隠せない。絶対にメールから異変に気付くに決まっていて、そうしたらバイトで貯めた金使ってここに来るに決まっていて、そうしたら俺は今日のことを話さざるを得なくて。
そうしたら、アイツは賭郎に入るって言い出して、俺はそれを止めきれないに決まっている。
異変を悟られなくなる位落ち着けるまで、返信はよそう。そう思ってメールボックスを閉じた。
そこまで落ち着ける日は、ついぞ来なかった。
「…弥鱈立会人?」
銅寺立会人の声に、現実に引き戻される。
「何か」
「いや、大丈夫?」
「大丈夫ではありませんので話しかけないでください」
「あ、大丈夫だね」
にこにこ笑う銅寺立会人。コイツも中々食えない男である。
「先生は、すっごく寂しかったと思うなぁ」
「はぁそうですか。というか、その先生ってなんなんですか。今更ですが」
「どうみても先生って感じだからね。ああでも、今日の先生はどっちかっていうと、伏龍さんって感じだったね」
あの感情剥き出しな感じは先生っぽくないね。誰のせいだか知らないけど。銅寺立会人は肩を竦めた。
「俺から見たら、どっちも伏龍だよ」
口をついて、そんな言葉が出る。
「どっちも?」
「人を気遣う時も、人に訴える時も、愛情深くて強かないつものアイツだろ」
あー、これはヤバい。慌ててストップをかける脳味噌の信号を無視して、口が滑り出す。
「そういうところがこんな深淵にいたら全部潰されちまうんだぜ。なあ、アンタならどうだよ。アンタもどうせ、救われたとか、励まされたとか、そういうクチだろ。アイツがアイツじゃなくなったら、アンタどうする」
「…弥鱈立会人、物事には適度ってものがある。確かに先生の愛情深さと強かさは美徳だよ。だから、それはその環境に適した形で生き続ける。誰かが生かし続ける。大切に思う誰かが。弥鱈立会人が辛い選択をしなくても、伏龍先生はその場の適度に姿を変えて、みんなを救っていく。もちろん、君のことも。だから君も先生も、辛い道を歩む必要はないと思うな」
適した形で生き続ける。事故に見えた経緯の中でも、彼女は彼女なりの覚悟を決めてここに来たというのなら。それが彼女の選択だとするのなら。
「…俺の選択は、残酷だったんでしょうか」
銅寺立会人は「それこそ、先生しか知りませんよ」と微笑んだ。