過ぎ去るはエーデルワイス
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何かあると資料室に籠るのは、あの時の切間立会人の言葉の影響が少なからずあるのかもしれない。生憎、未だ徳川家定対ペリーの立会い記録は見つかっていないが、坂本龍馬が賭郎会員だったことが発覚したり金閣の財源が賭郎勝負で確保されていたりと地味に面白い。
今日も気がすむまで読み耽ろうと決め、適当なファイルを引っ張り出す。1860年代。井伊直弼の辺りか。俺は表紙を捲り、最初のページに目を通す。
あ、これダメだ。
俺は天井を仰ぎ見る。全く文字が頭に入ってこない。こんなこともあるんだな、と半ば感動にも似た心持ち。
それもそうか。
浮かぶのは何度も見てきた筈のアイツの泣き顔。社内の評価を聞くに、だいぶ穏やかになったらしかった。大人になったんだろう。もしくは、昔から俺以外にはそうだったのかもしれない。俺以外との姿なんて、俺は知らない。あの時は俺たちの世界には俺たちしかいなかったのが、離れた今は大分賑やかになった。支えてくれる人が、ちゃんといる。別にアイツは俺無しでもやっていけるし、俺だってアイツ無しで問題無い。
唯一の問題は、今月のケーキが時々無性に気になることと、甘い物好きを白状する相手がいないこと。
ふぅ、と唾液で作ったシャボン玉を飛ばす。誰にも割られることのないそのシャボン玉は、高く高くに上っていく。その行方をゆっくりと目で追っていると、不意にドアが音を立てて開いた。
「弥鱈立会人、ここにいたんですね」
「銅寺立会人ですか」
視界の端に映る影は俺を呼び、当然の様に斜向かいに腰掛けた。
「寝ました?アイツ」
「え?…ああ、うん。弥鱈立会人が行った後突然眠いって言い始めて、追い出されました」
「子どもみたいな奴でしょう」
「突然電池切れ起こすんですね。初めて知りました」
「単純ですよ、結構」
「よくご存知なんですね」
「ええ、まあ」
そこで銅寺立会人は一度言葉を切り、まじまじと俺を眺める。取り合う気になれず、手元の立会い記録に目を落とす。
「弥鱈立会人、ちょっとこっち見てみて下さい」
「は?」
「や、ちょっと実験」
俺は顔を上げ、やっぱり、という銅寺立会人の言葉に眉を顰める。
「何です?」
「目、合いませんね」
「あ~、そうですね~。それがどうかしました~?」
「うん。伏龍先生とは合うのにね」
銅寺立会人は上目遣いに俺の反応を窺う。俺は返事の代わりにシャボン玉を飛ばした。
「それだけで、凄く仲が良かったんだと思いました」
「そうですか」
「先生も、弥鱈立会人が突然結婚だなんだと言い出しても、驚かないで、フツーに反論してて。なんか」
銅寺立会人はそこで言葉を切り、頭を掻いた。その言葉を引き継いでやるのは、単なる嫌がらせ。
「嫉妬しましたか?」
う、とも、ぐ、ともつかない呻き声を出し、銅寺立会人は責めるような目で俺を見た。
「ま、いいでしょう。好きに参戦して頂けば。どちらにせよ俺とアイツの関係はこれで終結です」
「…それってさ、これで喧嘩別れってこと?」
「いえ、目的達成への執念はアイツの専売特許ではありません。俺はアイツを逃す。喧嘩別れで有耶無耶には終わりませんよ」
「あのさ、先生は君と一緒に」
「却下します」
銅寺立会人は少し驚き、すぐに立て直す。
「どうして」
「あなたとそのことについて議論する気はありません」
「じゃあ当てさせてもらうよ。君は居させたくないんじゃない、見せたくないんだ。人殺しの自分を」
ドンピシャではなかった。しかし、図星だった。
そう。アイツと連絡を取れなくなったのは、まさに初めて会員を粛清した日のこと。
今日も気がすむまで読み耽ろうと決め、適当なファイルを引っ張り出す。1860年代。井伊直弼の辺りか。俺は表紙を捲り、最初のページに目を通す。
あ、これダメだ。
俺は天井を仰ぎ見る。全く文字が頭に入ってこない。こんなこともあるんだな、と半ば感動にも似た心持ち。
それもそうか。
浮かぶのは何度も見てきた筈のアイツの泣き顔。社内の評価を聞くに、だいぶ穏やかになったらしかった。大人になったんだろう。もしくは、昔から俺以外にはそうだったのかもしれない。俺以外との姿なんて、俺は知らない。あの時は俺たちの世界には俺たちしかいなかったのが、離れた今は大分賑やかになった。支えてくれる人が、ちゃんといる。別にアイツは俺無しでもやっていけるし、俺だってアイツ無しで問題無い。
唯一の問題は、今月のケーキが時々無性に気になることと、甘い物好きを白状する相手がいないこと。
ふぅ、と唾液で作ったシャボン玉を飛ばす。誰にも割られることのないそのシャボン玉は、高く高くに上っていく。その行方をゆっくりと目で追っていると、不意にドアが音を立てて開いた。
「弥鱈立会人、ここにいたんですね」
「銅寺立会人ですか」
視界の端に映る影は俺を呼び、当然の様に斜向かいに腰掛けた。
「寝ました?アイツ」
「え?…ああ、うん。弥鱈立会人が行った後突然眠いって言い始めて、追い出されました」
「子どもみたいな奴でしょう」
「突然電池切れ起こすんですね。初めて知りました」
「単純ですよ、結構」
「よくご存知なんですね」
「ええ、まあ」
そこで銅寺立会人は一度言葉を切り、まじまじと俺を眺める。取り合う気になれず、手元の立会い記録に目を落とす。
「弥鱈立会人、ちょっとこっち見てみて下さい」
「は?」
「や、ちょっと実験」
俺は顔を上げ、やっぱり、という銅寺立会人の言葉に眉を顰める。
「何です?」
「目、合いませんね」
「あ~、そうですね~。それがどうかしました~?」
「うん。伏龍先生とは合うのにね」
銅寺立会人は上目遣いに俺の反応を窺う。俺は返事の代わりにシャボン玉を飛ばした。
「それだけで、凄く仲が良かったんだと思いました」
「そうですか」
「先生も、弥鱈立会人が突然結婚だなんだと言い出しても、驚かないで、フツーに反論してて。なんか」
銅寺立会人はそこで言葉を切り、頭を掻いた。その言葉を引き継いでやるのは、単なる嫌がらせ。
「嫉妬しましたか?」
う、とも、ぐ、ともつかない呻き声を出し、銅寺立会人は責めるような目で俺を見た。
「ま、いいでしょう。好きに参戦して頂けば。どちらにせよ俺とアイツの関係はこれで終結です」
「…それってさ、これで喧嘩別れってこと?」
「いえ、目的達成への執念はアイツの専売特許ではありません。俺はアイツを逃す。喧嘩別れで有耶無耶には終わりませんよ」
「あのさ、先生は君と一緒に」
「却下します」
銅寺立会人は少し驚き、すぐに立て直す。
「どうして」
「あなたとそのことについて議論する気はありません」
「じゃあ当てさせてもらうよ。君は居させたくないんじゃない、見せたくないんだ。人殺しの自分を」
ドンピシャではなかった。しかし、図星だった。
そう。アイツと連絡を取れなくなったのは、まさに初めて会員を粛清した日のこと。