沈丁花の約束
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にこにこしながらリーが押す車椅子に乗る伏龍を目の端に捉え、儂は溜息をつく。
まさかまさか、じゃな。
自分達を出し抜く程の人物であるからには、せめて黒服であって欲しかったというのが本音だった。それがまさかこんな若く、ぽわぽわした、一般人の、見すぼらしいーー見すぼらしいのはこの女の所為ではなかろうがーー女とは。自分の人間鑑定でも値のつかないような有象無象に足元を掬われたことが、正直に我慢ならなかった。
再度溜息をつく。そこでふと視線を感じて横を見れば、伏龍がこちらを見ていた。
「なんじゃ」
「不満そうな顔をしてるなあと思って。ずっと」
「まあ、のう」
「なんか、ごめんなさい。ついて来ちゃって」
ん?と首をかしげる。そして、直ぐにこの女は儂らが用があったのは目蒲だと思い込んでいるのだと気づく。指摘しようか放置しておこうか思案していると、伏龍が「違いましたか?」と声をかけてきた。
「なに、お前が気にすることではない。書類の作成者を探し出してお屋形様の元へ連れてくることになっておっての」
儂はことのあらましを簡単に話した。伏龍はふんふん聞いていたが、首を傾げて言った。
「んー、でも、おじいちゃん、そんな顔じゃなかったです」
私に不満があるんですよね?そう言うと彼女はじっと儂の顔を見る。
「あ、分かった。目蒲さん関係…では、ありませんか。うーん、もしかしてボロボロ過ぎて引かれてますか?…違うのかぁ。なら、私がやった事が何か悪かったんでしょうか?」
なにが始まった?
「私が報告書に手出ししたのがいけませんでした?…あ、これかぁ。でも、まだ90点って顔ですね」
「ま、待て!」
大人しくなる伏龍に、何と言葉をかけたものかと立ち止まる。暫しの沈黙の後、また伏龍は口を開いた。
「私‘ごとき’が報告書に手を出したのがいけなかった。…よし、正解ですね?」
唖然とする。心を読まれた。にこにこと人畜無害そのものの笑顔を浮かべる女が不意に恐ろしくてたまらなくなる。お屋形様の言う通り、儂では持て余す。否、儂でも持て余す。未だ彼女の値はつかない。
「お前さんは…何者じゃ」
「何者…」
伏龍は暫し考え、言った。
「きょ、教員?」
ーーーーーーーーーー
部屋を出てからずっと不満そうな顔をしているのが気に食わなかった。ちょっと見返してやろうと思っただけだった。
まさかまさか、だなぁ。
海千山千、老獪そのものといったおじいちゃんだったから、これ位の芸当で驚くはずがないと思っていたんだけど、予想外のダメージを与えてしまったようだった。真っ青になったおじいちゃんに、何と声をかけようか悩む。
いや、でも、よっぽと私のことなめてたみたいだし、それは不服だし。
もう、知らない!
私は促されるまま、車に乗り込んだ。これで目蒲さんを何とかしたら、後は今までの生活に戻れるんだから。おじいちゃんとも短い付き合いにしかならない。動き出す窓の外の風景を眺める。今から向かうのだ。あの忌々しい炭鉱跡に。パッと終わらせてパッと帰ろう。いろいろ思い出して腹が立つ。
「のう、伏龍よ」
私は声の主に目を向ける。好奇心の奥の奥にまだ怯えを孕んだ瞳と目が合った。
「何故お前さんは監禁されることになったのじゃ?」
「何故?」
ちょっと悩む。
「そういえば、目蒲さん何がしたかったんでしょうね…」
「分からんのか」
「ううん、聞こうって発想がなくて…」
「オロロ…変わっとるのー」
「よく言われます…あの、監禁に至った経緯ならお話ししますよ」
「ほう。聞かせ願えるかの」
私は求められるままに話し出した。長い長い苦しみの、序章を。
まさかまさか、じゃな。
自分達を出し抜く程の人物であるからには、せめて黒服であって欲しかったというのが本音だった。それがまさかこんな若く、ぽわぽわした、一般人の、見すぼらしいーー見すぼらしいのはこの女の所為ではなかろうがーー女とは。自分の人間鑑定でも値のつかないような有象無象に足元を掬われたことが、正直に我慢ならなかった。
再度溜息をつく。そこでふと視線を感じて横を見れば、伏龍がこちらを見ていた。
「なんじゃ」
「不満そうな顔をしてるなあと思って。ずっと」
「まあ、のう」
「なんか、ごめんなさい。ついて来ちゃって」
ん?と首をかしげる。そして、直ぐにこの女は儂らが用があったのは目蒲だと思い込んでいるのだと気づく。指摘しようか放置しておこうか思案していると、伏龍が「違いましたか?」と声をかけてきた。
「なに、お前が気にすることではない。書類の作成者を探し出してお屋形様の元へ連れてくることになっておっての」
儂はことのあらましを簡単に話した。伏龍はふんふん聞いていたが、首を傾げて言った。
「んー、でも、おじいちゃん、そんな顔じゃなかったです」
私に不満があるんですよね?そう言うと彼女はじっと儂の顔を見る。
「あ、分かった。目蒲さん関係…では、ありませんか。うーん、もしかしてボロボロ過ぎて引かれてますか?…違うのかぁ。なら、私がやった事が何か悪かったんでしょうか?」
なにが始まった?
「私が報告書に手出ししたのがいけませんでした?…あ、これかぁ。でも、まだ90点って顔ですね」
「ま、待て!」
大人しくなる伏龍に、何と言葉をかけたものかと立ち止まる。暫しの沈黙の後、また伏龍は口を開いた。
「私‘ごとき’が報告書に手を出したのがいけなかった。…よし、正解ですね?」
唖然とする。心を読まれた。にこにこと人畜無害そのものの笑顔を浮かべる女が不意に恐ろしくてたまらなくなる。お屋形様の言う通り、儂では持て余す。否、儂でも持て余す。未だ彼女の値はつかない。
「お前さんは…何者じゃ」
「何者…」
伏龍は暫し考え、言った。
「きょ、教員?」
ーーーーーーーーーー
部屋を出てからずっと不満そうな顔をしているのが気に食わなかった。ちょっと見返してやろうと思っただけだった。
まさかまさか、だなぁ。
海千山千、老獪そのものといったおじいちゃんだったから、これ位の芸当で驚くはずがないと思っていたんだけど、予想外のダメージを与えてしまったようだった。真っ青になったおじいちゃんに、何と声をかけようか悩む。
いや、でも、よっぽと私のことなめてたみたいだし、それは不服だし。
もう、知らない!
私は促されるまま、車に乗り込んだ。これで目蒲さんを何とかしたら、後は今までの生活に戻れるんだから。おじいちゃんとも短い付き合いにしかならない。動き出す窓の外の風景を眺める。今から向かうのだ。あの忌々しい炭鉱跡に。パッと終わらせてパッと帰ろう。いろいろ思い出して腹が立つ。
「のう、伏龍よ」
私は声の主に目を向ける。好奇心の奥の奥にまだ怯えを孕んだ瞳と目が合った。
「何故お前さんは監禁されることになったのじゃ?」
「何故?」
ちょっと悩む。
「そういえば、目蒲さん何がしたかったんでしょうね…」
「分からんのか」
「ううん、聞こうって発想がなくて…」
「オロロ…変わっとるのー」
「よく言われます…あの、監禁に至った経緯ならお話ししますよ」
「ほう。聞かせ願えるかの」
私は求められるままに話し出した。長い長い苦しみの、序章を。