過ぎ去るはエーデルワイス
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負けませんもん、私たち。
なんで、なんで、と喘ぐような猫議員の声。首を絞められている訳でもないのに情けないおっさんですこと。そもそも私たちは負けないって言ったじゃない。負けないってことは負けないんだよ。それ以外に何も言いようがないじゃんね。
猫議員はダイスを振る。パニックになっているようだった。彼は私を、近藤さんを、弥鱈君を怯えた目で代わる代わる見ながら目を揃えていくものだから、ミスを続出させる。これは勝ったな、と確信した。しかし、これを確信するのは何度目かしら。そう思えばアホらしくなって、私はちょっと笑う。そして、その声に反応した弥鱈君の表情を見て、いよいよ笑えてしまった。
興味なさそうだね。私は足をタップさせて、そうモールスを送る。
飽きた。
だろうね。
夕飯なに?
知らない。
メールしてみろよ。
今両手使えない。
足で。
無理。
喧しい!と猫議員が怒鳴るので、私たちは目を見合わせて苦笑いし合う。怒られちゃったね、と最後にモールスを送った。そんな私たちをテーブルを挟んだ正面から、切間さんがいたずらっ子を笑うような、でもどこか不思議そうな顔で見つめる。また緊張感がないと思われたのだろうか。まあ、それで構わないんだけどね。
さて、猫議員は天文学者を手に入れる。同じ目が2ペア、つまりダイス4つで手に入るそのカードは、絶対に最終戦前に手に入れたいカードではなかっただろう。ざまあみやがれ、である。
「さあ、全ての準備は整った。いよいよその智を尽くして王を説得して頂こう」
切間さんは高らかに促す。弥鱈君がたるそうに座り直す。私は細くなった気道から必死に空気を吸い込んだ。最終戦前に頭が働かないでは困ってしまう。
「プレイヤーの御二方には手持ちのダイスでなるべく多くのゾロ目を揃えて頂く。今までは弥鱈様が先攻だったが、王妃を手にしたプレイヤーは最後になる。つまり、今回のみは猫様が先攻だ。勝利のためにはなるべく多くのゾロ目を揃える必要がある。同じ目がたくさんある方が強い。つまり、6が6つよりも1が7つの方が強い。だが、もしゾロ目が同数になってしまった場合は目が大きい方が強くなる。可能なら6で揃えるべきだな」
そう人差し指を立ててウインクする切間さん。弥鱈君がいまいち熱のこもり切らない表情でダイスをいじる。猫議員はそんな彼を睨みつけながらダイスをトレイめがけて放った。じゃらじゃらと音を立てながら転がるダイスたちは、こちらの願いなんて関係なしに好き勝手な面を上に動きを止めていく。その中で猫議員の望み通り6を出したダイスだけを確定させる作業を重ね、彼は6を7つ揃えた。大きなため息。安堵から深く椅子に腰掛けた猫議員は、勝ち誇った目で弥鱈君を見る。
「これで君たちは6を8つ揃える以外に勝ち筋は無くなった」
「そーですねー」
弥鱈君は雑に相槌を打つと、女王のカードを人差し指と中指で挟み、持ち上げた。首輪が締まり始める。
「ダイスを2の目にして加えます」
「は?」
鞍馬さんが思わず声を上げて、弥鱈君の胡乱な目に晒される。
「8つ揃えたら勝ちですので」
「アンタ、だからって勝負を舐めすぎてないかい?」
「舐めてるのはそこのおっさんだけですのでご安心下さい」
「なんだい、それは」
「俺たちの居場所のための防衛戦なら、揃える数字はこれであるべきです」
嬉しくなることを言ってくれるじゃないか。私はこんな時なのに、顔が綻ぶのを止められない。そう、2人の幸せのための防衛戦なのだ。
弥鱈君はそこにペテン師、農夫、騎士、司教のカードで計4つのダイスを加える。その中から2の目が揃うたびに確定させ、ダイスから3の目を見せている1つを選び、魔術師のカードでその出目を2に変え、確定。瞬く間に6つの目を確定させた。最後の2つ、弥鱈君の手元にあるのは出目の1つに1を足すことができる貴婦人のカード。ここからは運がモノを言う。神様が微笑むのは私たちの幸せにか、それとも猫議員の愉しみにか。
弥鱈君がダイスを振る。出目は1と3。貴婦人で1を2に変えて、最後の1つは運任せか。嫌だなぁ。
ふと、弥鱈君の視線に気づく。何か待つような、期待半分怒り半分という感じの…。
「あ」
しまった、完全に忘れてた。私は慌てて切間さんに合図を送る。
なんで、なんで、と喘ぐような猫議員の声。首を絞められている訳でもないのに情けないおっさんですこと。そもそも私たちは負けないって言ったじゃない。負けないってことは負けないんだよ。それ以外に何も言いようがないじゃんね。
猫議員はダイスを振る。パニックになっているようだった。彼は私を、近藤さんを、弥鱈君を怯えた目で代わる代わる見ながら目を揃えていくものだから、ミスを続出させる。これは勝ったな、と確信した。しかし、これを確信するのは何度目かしら。そう思えばアホらしくなって、私はちょっと笑う。そして、その声に反応した弥鱈君の表情を見て、いよいよ笑えてしまった。
興味なさそうだね。私は足をタップさせて、そうモールスを送る。
飽きた。
だろうね。
夕飯なに?
知らない。
メールしてみろよ。
今両手使えない。
足で。
無理。
喧しい!と猫議員が怒鳴るので、私たちは目を見合わせて苦笑いし合う。怒られちゃったね、と最後にモールスを送った。そんな私たちをテーブルを挟んだ正面から、切間さんがいたずらっ子を笑うような、でもどこか不思議そうな顔で見つめる。また緊張感がないと思われたのだろうか。まあ、それで構わないんだけどね。
さて、猫議員は天文学者を手に入れる。同じ目が2ペア、つまりダイス4つで手に入るそのカードは、絶対に最終戦前に手に入れたいカードではなかっただろう。ざまあみやがれ、である。
「さあ、全ての準備は整った。いよいよその智を尽くして王を説得して頂こう」
切間さんは高らかに促す。弥鱈君がたるそうに座り直す。私は細くなった気道から必死に空気を吸い込んだ。最終戦前に頭が働かないでは困ってしまう。
「プレイヤーの御二方には手持ちのダイスでなるべく多くのゾロ目を揃えて頂く。今までは弥鱈様が先攻だったが、王妃を手にしたプレイヤーは最後になる。つまり、今回のみは猫様が先攻だ。勝利のためにはなるべく多くのゾロ目を揃える必要がある。同じ目がたくさんある方が強い。つまり、6が6つよりも1が7つの方が強い。だが、もしゾロ目が同数になってしまった場合は目が大きい方が強くなる。可能なら6で揃えるべきだな」
そう人差し指を立ててウインクする切間さん。弥鱈君がいまいち熱のこもり切らない表情でダイスをいじる。猫議員はそんな彼を睨みつけながらダイスをトレイめがけて放った。じゃらじゃらと音を立てながら転がるダイスたちは、こちらの願いなんて関係なしに好き勝手な面を上に動きを止めていく。その中で猫議員の望み通り6を出したダイスだけを確定させる作業を重ね、彼は6を7つ揃えた。大きなため息。安堵から深く椅子に腰掛けた猫議員は、勝ち誇った目で弥鱈君を見る。
「これで君たちは6を8つ揃える以外に勝ち筋は無くなった」
「そーですねー」
弥鱈君は雑に相槌を打つと、女王のカードを人差し指と中指で挟み、持ち上げた。首輪が締まり始める。
「ダイスを2の目にして加えます」
「は?」
鞍馬さんが思わず声を上げて、弥鱈君の胡乱な目に晒される。
「8つ揃えたら勝ちですので」
「アンタ、だからって勝負を舐めすぎてないかい?」
「舐めてるのはそこのおっさんだけですのでご安心下さい」
「なんだい、それは」
「俺たちの居場所のための防衛戦なら、揃える数字はこれであるべきです」
嬉しくなることを言ってくれるじゃないか。私はこんな時なのに、顔が綻ぶのを止められない。そう、2人の幸せのための防衛戦なのだ。
弥鱈君はそこにペテン師、農夫、騎士、司教のカードで計4つのダイスを加える。その中から2の目が揃うたびに確定させ、ダイスから3の目を見せている1つを選び、魔術師のカードでその出目を2に変え、確定。瞬く間に6つの目を確定させた。最後の2つ、弥鱈君の手元にあるのは出目の1つに1を足すことができる貴婦人のカード。ここからは運がモノを言う。神様が微笑むのは私たちの幸せにか、それとも猫議員の愉しみにか。
弥鱈君がダイスを振る。出目は1と3。貴婦人で1を2に変えて、最後の1つは運任せか。嫌だなぁ。
ふと、弥鱈君の視線に気づく。何か待つような、期待半分怒り半分という感じの…。
「あ」
しまった、完全に忘れてた。私は慌てて切間さんに合図を送る。