過ぎ去るはエーデルワイス
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弥鱈様は結局1から5までのストレートを作り、魔術師を手にした。しかし、どうやらそれよりももっと大切なものを、このターンで失ったようだった。
うう、と晴乃嬢が呻く。それは昌美嬢の声と重なり、弥鱈様を責め立てる。最早彼女に声を抑えるだけの精神力は残っていない。呻く声が、細くなった気道で無理矢理息を吸うひゅうという音がしきりに響く。
その音さえも心地よいとでもいうように猫様はダイスを揃え、司教を手にした。そして、それを見せつけるように弥鱈様の前にかざす。
「さっきのターンでこれを手にできていたらよかったねぇ。見当違いのカードを手にしてしまって、可哀想に」
うるせえ、と弥鱈様が低く唸る。その声にかぶさるのは、昌美嬢の咳声。猫様のリミットも近付きつつあった。
「彼女が死にそうだぜ」
「なに、問題はない。なあ、昌美君?勝ったらブランドバッグでもなんでも買ってやろうねえ。それで満足でしょう」
「歪んでんな、アンタ」
吐き捨てる様に言った弥鱈様を、猫様が「おや、あなたの彼女も死にそうですよお?」と煽る。うるせえ、と、弥鱈様は同じ言葉を繰り返した。
果たして今の言葉が止めようとしたのは、猫様の煽りか、晴乃嬢の喘ぎか。
再び弥鱈様にターンが巡ってくる。このターン、開始直前に弥鱈様は晴乃嬢を睨みつけた。何もするなということだろう。それを受けた彼女は気の毒なほどに体を縮こまらせる。ゲーム開始前はあんなにも深く通じ合っていた二人が、今や別人の様。その姿は私の心を強く締め付けた。
まあ、それで立会人は揺らがないのだがな。残念無念。
弥鱈様は6つのダイスを使い、司教を手にした。そこで張り合っても意味はないのだが、どうやら本当に自分を見失っている様だ。いよいよもって面白味がない。早く終わらせてくれないか、とさえ思う。折角お互いに司教を手にしたことで、7つのダイスを操れる様になったんだ。次のターンで請願を果たし、私を帰してくれたまえ。
「次で最後にしたいねえ」
じゃらじゃらとダイスを手の上で転がしながら、猫様が言う。全くもってその通り。ぜひ頑張って頂きたい。しかし、弥鱈様は顔をひきつらせる。自信がないと、偏にそういうことだろう。本来、互いの持つカードの質は拮抗している。ならば何が弥鱈様を引き止めるのか。答えは余裕の有無。弥鱈様は、今の自分には最善手を考え出す為の心の余裕が無いと、自分で気付いていた。
「いやしかし、無様なものだねえ。思い上がった者の末路というのは。私はもう楽しみで仕方がないよ、いい女なんだろ?」
「…やめてください」
「遅い遅い。ガキが偉そうに大人に喧嘩を売ったんだ、それなりの報いを受けないとね。なに、一千万?何に使うんだか、そんな大金」
「もう、それも要りません。俺は退学でいいです。伏龍を」
助けてくださいというにはまだプライドが邪魔をするのか、弥鱈様は口ごもる。こひゅう、こひゅう。会話の途切れた室内で、晴乃嬢のか細い呼吸音が嫌に耳につく。真っ赤な顔、虚ろな目。弥鱈様の命乞いの言葉は、彼女の耳には入っていないだろう。
「昌美君の父親もそうだったよ。散々娘が身の丈に合わない品を身に纏っていたにも関わらず、昨日ホテルで会うまでは見て見ぬ振りだ。しかも、それまでは昌美君に金をせびっていたというじゃないか。とんだ父親だと、君も思うだろう」
「は…はい」
「私のこれは人助けだよ。有望な若者たちが貧困で苦しんでいるから助けただけさ。ただ、そこに見返りを少ぉし求めただけ。その方が君たち若者も気楽だろう?いいか、立派な大人になりたければ、立派な大人に逆らわないことだ。私の様な議員にまでなる立派な大人に、君は退学ごときで楯突いたんだ。これは教育だよ。いいか、悪いことをすれば罰を受けるんだ。例えば、彼女を寝取られちゃったりな」
うう、と晴乃嬢が呻く。それは昌美嬢の声と重なり、弥鱈様を責め立てる。最早彼女に声を抑えるだけの精神力は残っていない。呻く声が、細くなった気道で無理矢理息を吸うひゅうという音がしきりに響く。
その音さえも心地よいとでもいうように猫様はダイスを揃え、司教を手にした。そして、それを見せつけるように弥鱈様の前にかざす。
「さっきのターンでこれを手にできていたらよかったねぇ。見当違いのカードを手にしてしまって、可哀想に」
うるせえ、と弥鱈様が低く唸る。その声にかぶさるのは、昌美嬢の咳声。猫様のリミットも近付きつつあった。
「彼女が死にそうだぜ」
「なに、問題はない。なあ、昌美君?勝ったらブランドバッグでもなんでも買ってやろうねえ。それで満足でしょう」
「歪んでんな、アンタ」
吐き捨てる様に言った弥鱈様を、猫様が「おや、あなたの彼女も死にそうですよお?」と煽る。うるせえ、と、弥鱈様は同じ言葉を繰り返した。
果たして今の言葉が止めようとしたのは、猫様の煽りか、晴乃嬢の喘ぎか。
再び弥鱈様にターンが巡ってくる。このターン、開始直前に弥鱈様は晴乃嬢を睨みつけた。何もするなということだろう。それを受けた彼女は気の毒なほどに体を縮こまらせる。ゲーム開始前はあんなにも深く通じ合っていた二人が、今や別人の様。その姿は私の心を強く締め付けた。
まあ、それで立会人は揺らがないのだがな。残念無念。
弥鱈様は6つのダイスを使い、司教を手にした。そこで張り合っても意味はないのだが、どうやら本当に自分を見失っている様だ。いよいよもって面白味がない。早く終わらせてくれないか、とさえ思う。折角お互いに司教を手にしたことで、7つのダイスを操れる様になったんだ。次のターンで請願を果たし、私を帰してくれたまえ。
「次で最後にしたいねえ」
じゃらじゃらとダイスを手の上で転がしながら、猫様が言う。全くもってその通り。ぜひ頑張って頂きたい。しかし、弥鱈様は顔をひきつらせる。自信がないと、偏にそういうことだろう。本来、互いの持つカードの質は拮抗している。ならば何が弥鱈様を引き止めるのか。答えは余裕の有無。弥鱈様は、今の自分には最善手を考え出す為の心の余裕が無いと、自分で気付いていた。
「いやしかし、無様なものだねえ。思い上がった者の末路というのは。私はもう楽しみで仕方がないよ、いい女なんだろ?」
「…やめてください」
「遅い遅い。ガキが偉そうに大人に喧嘩を売ったんだ、それなりの報いを受けないとね。なに、一千万?何に使うんだか、そんな大金」
「もう、それも要りません。俺は退学でいいです。伏龍を」
助けてくださいというにはまだプライドが邪魔をするのか、弥鱈様は口ごもる。こひゅう、こひゅう。会話の途切れた室内で、晴乃嬢のか細い呼吸音が嫌に耳につく。真っ赤な顔、虚ろな目。弥鱈様の命乞いの言葉は、彼女の耳には入っていないだろう。
「昌美君の父親もそうだったよ。散々娘が身の丈に合わない品を身に纏っていたにも関わらず、昨日ホテルで会うまでは見て見ぬ振りだ。しかも、それまでは昌美君に金をせびっていたというじゃないか。とんだ父親だと、君も思うだろう」
「は…はい」
「私のこれは人助けだよ。有望な若者たちが貧困で苦しんでいるから助けただけさ。ただ、そこに見返りを少ぉし求めただけ。その方が君たち若者も気楽だろう?いいか、立派な大人になりたければ、立派な大人に逆らわないことだ。私の様な議員にまでなる立派な大人に、君は退学ごときで楯突いたんだ。これは教育だよ。いいか、悪いことをすれば罰を受けるんだ。例えば、彼女を寝取られちゃったりな」