過ぎ去るはエーデルワイス
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中々如何して、不気味な二人組だな。一人一人は好きになれそうだが…セットだと好きか嫌いか…。
なんだ、つまらん。私は自分の中で高まっていたはずの期待感がじわじわと萎んでいく感覚を持て余していた。よくいる天才だ。一度折れたらそこ迄の、つまらない天才。最初の勘が間違いということもある。能輪のようにはいかない。
私は晴乃嬢のきつく閉じられた瞼を見る。昌美嬢と同じ、苦しそうな顔。これはつまり、弥鱈様が長考をするようになったということ。可哀想に、ここで負ける訳にはいかないという強い気持ちが彼女を苦しめる。苦しかろう、だが、文句は言えない。負ければ生き地獄。
いやいや、生き地獄はさすがに失礼か、ぐはは。
心の中で笑いつつ猫様を見れば、猫様もまた心の中で笑いつつ弥鱈様を見ていた。いや、あちらは嘲笑がだだ漏れなので心の中とは言わないか。まあとにかく、だ。猫様は先の事件で勝ちを確信したらしい。ゆるく膝を組み、ダイスを振る弥鱈様を見つめる。視線に気づいた弥鱈様が睨みつける。それに余裕の笑みで返し、煽るかのように晴乃嬢を爪先から顔へと眺める。ぞわり、晴乃嬢は身震いし、目を伏せた。
弥鱈様は2の目を5つ揃え、騎士のカードを手中に収める。弥鱈様はミスを出さない。ダイスだけを見つめる。晴乃嬢を敢えて視界に入れないようにしていた。そして、その理由を理解している彼女はいじらしくも無言で耐える。時折漏れるひゅ、という空気の音が、弥鱈様の手を硬ばらせる。
嗚呼、想い合う二人のなんと美しく、切ないことか!
騎士を味方につけたことにより、5ターン目、弥鱈様は6つのダイスを手にした。それをじゃらじゃらと手の上で転がし、ダイストレイへと落とす。まろび出たそれらはトレイの中で賑やかに音を立てつつ、2、2、3、4、4、5の目をそれぞれ上にして動きを止めた。それらをじっと見つめる弥鱈様。晴乃嬢が苦しげに眉を顰めながら、その横顔を見ている。
晴乃嬢が私に合図を送ってきた。哲学者のカードを使い、5のダイスから1を引いて3のダイスに加え、4が2つに変える算段だろう。同じ数が3ペア揃うと手に入る、司教狙い。弥鱈様はなんの戦略も練らずしてこのターンを終わらせられるという訳だ。
しかし、弥鱈様は2、3、4、5のダイスを確定させた。ストレートを作り、魔術師か錬金術師を手中に収めるつもりなのだろう。晴乃嬢が青褪める。そして不幸なことに、弥鱈様はそれに気付く気配を見せず、一心不乱にダイスを見つめる。縋るように横顔を見つめる彼女は、じわじわと、じわじわと絶望に侵されていった。
大げさに苦しがり始めた晴乃嬢に、弥鱈様がやっと視線を向ける。そして彼女がしたかった手助けに気付いたようだった。
「マジかよ」
憎々しげにそう呟き、ゆっくりとダイスに視線を戻す。哲学者のカードを使わなければならない。さすれば、足して7になる出目を出すしかない。弥鱈様の顔に浮かぶ緊張の色が濃さを増す。
「青い、青い」
唐突に、猫様が口を開いた。
「分かるかぁ?大人に逆らうと碌な目に遭わないんだよ。ちょっと頭がいいだか知らんけどなぁ、大人っていうのは君たちよりずっとずっと勝負慣れしてるんだ」
「…煩い方ですねぇ~」
弥鱈様はダイスから目を離さず、そう言った。その声に勝負前にあった余裕はもう無い。
「大人に逆らうべきじゃなかったんだ、君たちは。特に、え、ら、い、大人には」
全身を余すことなく使って見下したポーズを作る猫様を、弥鱈様は上目で睨みつける。ぎり、という歯軋りの音を、猫様が心底楽しそうに聞く。
「そこの生意気なメス猫にも、そのことを存分に教え込んでやる」
もちろん、他のこともねぇ。男の下卑た笑いを止めたのは、晴乃嬢が床を蹴飛ばす音。それにハッとなった弥鱈様は、慌ててダイスを振った。出たのは6と4。足して10。二人は顔を見合わせた。二人の間に、絶望が充満する。
「最悪」
ポツリと呟かれたその言葉を受け、晴乃嬢はただ地面を見た。
なんだ、つまらん。私は自分の中で高まっていたはずの期待感がじわじわと萎んでいく感覚を持て余していた。よくいる天才だ。一度折れたらそこ迄の、つまらない天才。最初の勘が間違いということもある。能輪のようにはいかない。
私は晴乃嬢のきつく閉じられた瞼を見る。昌美嬢と同じ、苦しそうな顔。これはつまり、弥鱈様が長考をするようになったということ。可哀想に、ここで負ける訳にはいかないという強い気持ちが彼女を苦しめる。苦しかろう、だが、文句は言えない。負ければ生き地獄。
いやいや、生き地獄はさすがに失礼か、ぐはは。
心の中で笑いつつ猫様を見れば、猫様もまた心の中で笑いつつ弥鱈様を見ていた。いや、あちらは嘲笑がだだ漏れなので心の中とは言わないか。まあとにかく、だ。猫様は先の事件で勝ちを確信したらしい。ゆるく膝を組み、ダイスを振る弥鱈様を見つめる。視線に気づいた弥鱈様が睨みつける。それに余裕の笑みで返し、煽るかのように晴乃嬢を爪先から顔へと眺める。ぞわり、晴乃嬢は身震いし、目を伏せた。
弥鱈様は2の目を5つ揃え、騎士のカードを手中に収める。弥鱈様はミスを出さない。ダイスだけを見つめる。晴乃嬢を敢えて視界に入れないようにしていた。そして、その理由を理解している彼女はいじらしくも無言で耐える。時折漏れるひゅ、という空気の音が、弥鱈様の手を硬ばらせる。
嗚呼、想い合う二人のなんと美しく、切ないことか!
騎士を味方につけたことにより、5ターン目、弥鱈様は6つのダイスを手にした。それをじゃらじゃらと手の上で転がし、ダイストレイへと落とす。まろび出たそれらはトレイの中で賑やかに音を立てつつ、2、2、3、4、4、5の目をそれぞれ上にして動きを止めた。それらをじっと見つめる弥鱈様。晴乃嬢が苦しげに眉を顰めながら、その横顔を見ている。
晴乃嬢が私に合図を送ってきた。哲学者のカードを使い、5のダイスから1を引いて3のダイスに加え、4が2つに変える算段だろう。同じ数が3ペア揃うと手に入る、司教狙い。弥鱈様はなんの戦略も練らずしてこのターンを終わらせられるという訳だ。
しかし、弥鱈様は2、3、4、5のダイスを確定させた。ストレートを作り、魔術師か錬金術師を手中に収めるつもりなのだろう。晴乃嬢が青褪める。そして不幸なことに、弥鱈様はそれに気付く気配を見せず、一心不乱にダイスを見つめる。縋るように横顔を見つめる彼女は、じわじわと、じわじわと絶望に侵されていった。
大げさに苦しがり始めた晴乃嬢に、弥鱈様がやっと視線を向ける。そして彼女がしたかった手助けに気付いたようだった。
「マジかよ」
憎々しげにそう呟き、ゆっくりとダイスに視線を戻す。哲学者のカードを使わなければならない。さすれば、足して7になる出目を出すしかない。弥鱈様の顔に浮かぶ緊張の色が濃さを増す。
「青い、青い」
唐突に、猫様が口を開いた。
「分かるかぁ?大人に逆らうと碌な目に遭わないんだよ。ちょっと頭がいいだか知らんけどなぁ、大人っていうのは君たちよりずっとずっと勝負慣れしてるんだ」
「…煩い方ですねぇ~」
弥鱈様はダイスから目を離さず、そう言った。その声に勝負前にあった余裕はもう無い。
「大人に逆らうべきじゃなかったんだ、君たちは。特に、え、ら、い、大人には」
全身を余すことなく使って見下したポーズを作る猫様を、弥鱈様は上目で睨みつける。ぎり、という歯軋りの音を、猫様が心底楽しそうに聞く。
「そこの生意気なメス猫にも、そのことを存分に教え込んでやる」
もちろん、他のこともねぇ。男の下卑た笑いを止めたのは、晴乃嬢が床を蹴飛ばす音。それにハッとなった弥鱈様は、慌ててダイスを振った。出たのは6と4。足して10。二人は顔を見合わせた。二人の間に、絶望が充満する。
「最悪」
ポツリと呟かれたその言葉を受け、晴乃嬢はただ地面を見た。