私は平気。まだやれる。

私は平気。まだやれる。

私は平気。まだやれる。


「てンめええ！！」

口に押し込まれたスープを、彼の顔めがけて吹きつけると、一拍遅れて罵声と張り手が飛んだ。一瞬体が浮いて、私はズザザと大きな音を立てて絨毯を滑った。安心する間も無く襟を掴まれ、宙に浮かされる。強情はりやがってとか服をどうしてくれるんだとか、大きな声でまくし立てられる。その叫びの一拍一拍に合わせるようにして、頬に追加の張り手が飛んでくる。黒服さん達が哀れむように見てくるし、身体中が痛いけど、貴方の手から食べてなんてやるもんか。

私は平気。まだやれる。

私は平気。まだやれる。

私は平気。まだやれる。

心の中で繰り返す。大丈夫。体が動くかぎり、まだやれる。私はその証拠に、彼を睨みあげてやった。瞬間、くわ、と彼の目が開かれ、次は右足が飛んできた。脇腹の柔らかいところに当たり、私は遂に吐血した。

嘘でしょ。

反動で寝転がったまま、まじまじと床に出来た大きな染みを眺める。血が出るって、結構ヤバいんじゃないの？

「なにするんですか」

私が言うと、彼はにんまりと笑った。

「びっくりしたか？」
「は？」

また同じ所を蹴られる。思わず漏れた吐息を聞いて、彼が深く笑う気配がした。

「内臓をやっちゃったみたいだから、もうすぐ死ぬかもな」

怖いかよ、なぁ。彼はしゃがんで私と目が合うようにすると、そうゆっくり言った。にまにま。ほんとにこいつは、悪趣味な。

「そしたらあなたのその、気色悪い顔を見なくてすむようになりますね。幸せ」

体を起こしながらそう返すと、目の前の顔が怒の色を孕むのがよく見えた。直後頬に熱を感じると共に再び床に倒れこむ。張り倒されたのだと気付くのにそれほど時間はいらなかった。

はあ、とわざとらしいため息をついて、彼は立ち上がる。そして、「明日までに死んどけよ」と言いながら、部屋を出て行った。