一血卍傑
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「また来てるのか、お前」
主の膝の上にいるそれは、俺の問い掛けに高い鳴き声で答えた。
「にゃー」
主はその声に微笑みかけて、優しくそいつの頭を撫でる。
「良く遊びに来てくれるよね」
「寝に来てるの間違いだろ」
俺も人の事を言えない気がするが。
気持ち良さそうに目を閉じて撫でられている姿を見ていると、胸の奥がモヤモヤした。
前はたまには猫もいいもんだと思ったが、やっぱりこいつの存在は気に入らない。
俺のそんな視線を感じてか、猫は金色の丸い目をこちらに向けて「いいでしょ」とでも言うように鳴いた。
そして甘えた仕草で頭を主の手に擦り付け、ペロリとその指を舐めた。
こいつ。
猫だからって何しても許されると思ってるのか?
あの時は大人しく俺に主の膝を譲ったくせに、なんの気まぐれか今回は随分と挑発的じゃないか。
「今日は随分と甘えん坊だね」
主に撫でられてゴロゴロと喉を鳴らす猫。
いい加減、どっちが上かわからせてやろうじゃないか。
俺は主の隣に腰を下ろし、寄り掛かるようにして華奢な肩に頭を預けた。
「どうしたの?」
「…俺も甘えたい気分なんだ。いいだろ?」
そう言うと、主は小さく笑った。
「もちろん、いいよ。好きなだけ甘えて」
「…ん」
主の声は耳に心地良い。
俺は重くなってきた瞼を閉じた。
ああ、主の匂いがする。甘い、花のような香りに眠気を誘われるが、そこをぐっと堪えて瞼を持ち上げる。
視界に入ったのは猫を撫でている主の手。
俺はその手を掴んで自分の方へ寄せた。
猫は急に離れた手を惜しんでか、どこか不満そうに俺を見上げて鳴く。
もちろん、そんなものは気にしない。
大体先に仕掛けてきたのはお前の方だ。
「タケル?」
主が不思議そうに俺を見た。
その手がまた猫を撫でてしまわぬように、そっと口元へと寄せる。
「今お前の傍にいるのは俺なんだから、猫よりも俺に構えよ、主」
主は驚いたように目を丸くさせると、すぐにフッと笑を零した。
「ふふっ、タケルも甘えん坊だね」
主の手が俺から離れ、今度は猫ではなく、俺の頭をよしよしと撫でる。
何か違うような気もするが、これはこれで心地が良いので良しとしよう。
自身を撫でていた温もりを奪われ、不服そうに俺を見る猫。
だか、これで終わりじゃない。
猫、お前に出来なくて俺に出来ることを教えてやる。
「主」
「ん?な──」
そっと、唇を重ねた。
何処からか吹いてきた風が俺達の髪を揺らす。
顔を離すと、主は案の定目を大きくさせていた。
そんな主を後ろの柱に押し付けて、耳元に口を寄せる。
「なぁ、今日は甘えていいんだろ?あるじ」
普段なら呼ばない主の名を口にすれば、主は困ったように眉尻を下げて頬を染める。
ほら、猫には口付けも、こんな風に主の頬を染め上げることも出来ないだろ?
「アイツにお前は譲れない」
例え相手が猫であろうと。
俺はもう一度、主の唇を塞いだ。
────────
それからあの猫は暫く姿を見せなかった。
主は少し寂しそうだが、俺としてはもう主を取られる心配がなくなって内心せいせいしている。
しかし、アイツはまた現れた。しかも…
「みゃーみゃー」
子猫を引き連れて。
こいつ。産んだのか。
「ふふふっ。よしよし、可愛いねー」
数匹の子猫達に、主はすっかりべったりだ。
「にゃー」
母親になった猫が、「見たか」とでも言いたそうに俺に向かって鳴いた。
コイツ…。
まさかこんな方法を使ってくるとは思ってもみなかった。
「ほら、タケルもおいでよ!すごく可愛いよ」
「……はぁ」
どうやら俺の苦悩はまだまだ続きそうだ。
─end─
主の膝の上にいるそれは、俺の問い掛けに高い鳴き声で答えた。
「にゃー」
主はその声に微笑みかけて、優しくそいつの頭を撫でる。
「良く遊びに来てくれるよね」
「寝に来てるの間違いだろ」
俺も人の事を言えない気がするが。
気持ち良さそうに目を閉じて撫でられている姿を見ていると、胸の奥がモヤモヤした。
前はたまには猫もいいもんだと思ったが、やっぱりこいつの存在は気に入らない。
俺のそんな視線を感じてか、猫は金色の丸い目をこちらに向けて「いいでしょ」とでも言うように鳴いた。
そして甘えた仕草で頭を主の手に擦り付け、ペロリとその指を舐めた。
こいつ。
猫だからって何しても許されると思ってるのか?
あの時は大人しく俺に主の膝を譲ったくせに、なんの気まぐれか今回は随分と挑発的じゃないか。
「今日は随分と甘えん坊だね」
主に撫でられてゴロゴロと喉を鳴らす猫。
いい加減、どっちが上かわからせてやろうじゃないか。
俺は主の隣に腰を下ろし、寄り掛かるようにして華奢な肩に頭を預けた。
「どうしたの?」
「…俺も甘えたい気分なんだ。いいだろ?」
そう言うと、主は小さく笑った。
「もちろん、いいよ。好きなだけ甘えて」
「…ん」
主の声は耳に心地良い。
俺は重くなってきた瞼を閉じた。
ああ、主の匂いがする。甘い、花のような香りに眠気を誘われるが、そこをぐっと堪えて瞼を持ち上げる。
視界に入ったのは猫を撫でている主の手。
俺はその手を掴んで自分の方へ寄せた。
猫は急に離れた手を惜しんでか、どこか不満そうに俺を見上げて鳴く。
もちろん、そんなものは気にしない。
大体先に仕掛けてきたのはお前の方だ。
「タケル?」
主が不思議そうに俺を見た。
その手がまた猫を撫でてしまわぬように、そっと口元へと寄せる。
「今お前の傍にいるのは俺なんだから、猫よりも俺に構えよ、主」
主は驚いたように目を丸くさせると、すぐにフッと笑を零した。
「ふふっ、タケルも甘えん坊だね」
主の手が俺から離れ、今度は猫ではなく、俺の頭をよしよしと撫でる。
何か違うような気もするが、これはこれで心地が良いので良しとしよう。
自身を撫でていた温もりを奪われ、不服そうに俺を見る猫。
だか、これで終わりじゃない。
猫、お前に出来なくて俺に出来ることを教えてやる。
「主」
「ん?な──」
そっと、唇を重ねた。
何処からか吹いてきた風が俺達の髪を揺らす。
顔を離すと、主は案の定目を大きくさせていた。
そんな主を後ろの柱に押し付けて、耳元に口を寄せる。
「なぁ、今日は甘えていいんだろ?あるじ」
普段なら呼ばない主の名を口にすれば、主は困ったように眉尻を下げて頬を染める。
ほら、猫には口付けも、こんな風に主の頬を染め上げることも出来ないだろ?
「アイツにお前は譲れない」
例え相手が猫であろうと。
俺はもう一度、主の唇を塞いだ。
────────
それからあの猫は暫く姿を見せなかった。
主は少し寂しそうだが、俺としてはもう主を取られる心配がなくなって内心せいせいしている。
しかし、アイツはまた現れた。しかも…
「みゃーみゃー」
子猫を引き連れて。
こいつ。産んだのか。
「ふふふっ。よしよし、可愛いねー」
数匹の子猫達に、主はすっかりべったりだ。
「にゃー」
母親になった猫が、「見たか」とでも言いたそうに俺に向かって鳴いた。
コイツ…。
まさかこんな方法を使ってくるとは思ってもみなかった。
「ほら、タケルもおいでよ!すごく可愛いよ」
「……はぁ」
どうやら俺の苦悩はまだまだ続きそうだ。
─end─