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「縁、それ絶対おかしいよ」
梓と絵里はパンを齧りながら揃ってそう言った。
「その人絶対なんかあるって」
「危ないよ」
「関わらない方がいいと思う」
事の発端は、私が学校で十条さんにもらったシャーペンを取り出したことだった。
「縁、水族館行ったの?」
目敏く気づいた絵里がそう言った。
「あ、うん」
「誰と?」
「知り合い」
「へぇ〜」
何かを感じ取ったらしい彼女はにまにまと微笑む。「なになに?」と近づいてきた梓も、昼食のパンを取り出しながら同じ顔をした。
「縁、彼氏出来たでしょ」
「彼氏?」
「だって最近肌艶いいし髪も綺麗だし」
「そのカーディガンだっていいやつそうだし」
「よく気づくね」
「そりゃあね」
確かに、私は最近十条さんからもらった色々なケア用品のおかげで肌の治安が良くなった。髪の毛も同様。今日着ているカーディガンも、ご指摘の通り彼が「サイズを間違えて買ってしまった」と言ってくれたものだ。
多分嘘だけど。女性用の合わせだし。
「そのカーディガン見せてみ?」
「うん」
腕を抜いて渡すと、彼女はタグを見て「ひょえっ」と短く声を出した。
「BURBERRY BLUELABEL……」
「二万くらいいくやつじゃん」
「これ貰い物なの?マジで?」
私が頷くと、二人は顔を見合せた。「これはあかん」とでも言いたげだ。
「どこで知り合ったの?その人と」
「夜の公園」
「恒例の深夜徘徊か……」
「深夜徘徊でBURBERRYくれる人と出くわすのね……」
調べてみたところ、頂いたカーディガンは確かに二万近くする良質な品だった。どうりで着心地がいいと思った。
「年上?その人」
「そもそも性別は?」
「多分同い年で、男だよ」
「同い年の男がBURBERRYくれんの?」
絵里は大袈裟に息を飲んだ。
そして、冒頭のやり取りになったのだ。
「身元は何となくわかってるから、大丈夫だと思うんだけど……」
何かあるとスキャンダルとして取り沙汰されてしまう彼は、普通の男性より安全なのではなかろうか。
「あ、身元はわかってるんだ」
「てか十万近く貢がれるって相当好かれてんね」
「そんなにお金かけられてたのか……」
貰えるもんは貰っとけという信条で生きてきたけど、ちょっと色々頂きすぎかもしれない。
お返し……でもあの人多分お金で買えるものは何でも持ってそうだしな……。
ミンティア箱であげるとか?
いやそれも買えるか。既に高所得者であろうあの人と生活保護レベルの家庭の私じゃ差がありすぎるな。
どうしよう。
これからはお断り……でも受け取ると結構嬉しそうな顔するんだよな……。
「縁〜?縁さ〜ん?」
「珍しいね、縁が自分の世界に入り込んでる」
「やっぱ彼氏かな」
「いいなーBURBERRYくれる彼氏」
十条さんは、マスクを着けるのをやめたらしい。
いつもの公園のブランコをキシキシ鳴らしながら、コーラを飲む横顔を覗いた。
とにかく整った顔立ちをしている。手足も長いし声も良いし頭も良いし、本当に欠点というのが見当たらない人だと思う。
強いて言えばなんか全部が突然すぎるところだろうか。でも私あんまり困ってないし。
「…… 縁さん」
「はい」
「どうかしました?」
「何がですか?」
「さっきから俺の顔をじっと見てますけど、何かついてますか?」
「いや、綺麗な顔だなと思って」
隠してもバレるので素直に応えると、彼は微かに微笑んだ。わあ顔がいい。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
やっぱり、笑い方がテレビで見る「HiMERU」とは違う気がする。話し方も。
ネット曰く、アイドルとしてのHiMERUは謎めいた色気と高いパフォーマンス能力と話す時のやや癖のある語尾がギャップがあって可愛らしい……というのが全体的な評価らしい。
「めちゃくちゃかっこいいしエロいし頭いいけど、なんか可愛いのがいいよね」がファンの認識だという。ファンレターの返信は全て直筆というエピソードからは、彼のマメさとファンを大切にする丁寧な人柄が伺える。
確かに、十条さんはマメだ。
LINEもよく来るし、忙しいだろうにここにも週一ペースで必ず訪れる。
くれるものは全部「サイズ間違えました」とか「買いすぎました」とか言ってるけど、多分きちんと私の好みやサイズを把握してその上で選んでいるんだろう。
見た目と声は完全に「HiMERU」だし、そこら辺もよく似てる。
でも、確実に違うのだ。
その証拠に、彼は私といる時一回も「なのです」
とは言わない。一人称は「俺」だ。
それに、「HiMERU」として話している彼は時たま自分のことを確認するような言動をする。
自分のことなのに、まるで他人のようなのだ。
彼は、本当に「HiMERU」と同一人物なのだろうか。
「難しい顔してますけど、どうしました?」
「……この世について理解を深めています」
「あなたも冗談とか言うんですね」
「結構言ってるつもりなんですけど……」
「おやおや」
恐らく、私が考えていることは彼にとってとんでもない不利益につながることだろう。
黙っていよう。彼は、きっと私にそこまで踏み込まれることを望んでいない。
このままでいい。
「すみません、やり残した課題があるので先に帰りますね」
「珍しい。ではまた」
大学入試が終わったら、私は多分この街を離れる。
タイムリミットがある関係なら、せめて優しいままでいたかった。
梓と絵里はパンを齧りながら揃ってそう言った。
「その人絶対なんかあるって」
「危ないよ」
「関わらない方がいいと思う」
事の発端は、私が学校で十条さんにもらったシャーペンを取り出したことだった。
「縁、水族館行ったの?」
目敏く気づいた絵里がそう言った。
「あ、うん」
「誰と?」
「知り合い」
「へぇ〜」
何かを感じ取ったらしい彼女はにまにまと微笑む。「なになに?」と近づいてきた梓も、昼食のパンを取り出しながら同じ顔をした。
「縁、彼氏出来たでしょ」
「彼氏?」
「だって最近肌艶いいし髪も綺麗だし」
「そのカーディガンだっていいやつそうだし」
「よく気づくね」
「そりゃあね」
確かに、私は最近十条さんからもらった色々なケア用品のおかげで肌の治安が良くなった。髪の毛も同様。今日着ているカーディガンも、ご指摘の通り彼が「サイズを間違えて買ってしまった」と言ってくれたものだ。
多分嘘だけど。女性用の合わせだし。
「そのカーディガン見せてみ?」
「うん」
腕を抜いて渡すと、彼女はタグを見て「ひょえっ」と短く声を出した。
「BURBERRY BLUELABEL……」
「二万くらいいくやつじゃん」
「これ貰い物なの?マジで?」
私が頷くと、二人は顔を見合せた。「これはあかん」とでも言いたげだ。
「どこで知り合ったの?その人と」
「夜の公園」
「恒例の深夜徘徊か……」
「深夜徘徊でBURBERRYくれる人と出くわすのね……」
調べてみたところ、頂いたカーディガンは確かに二万近くする良質な品だった。どうりで着心地がいいと思った。
「年上?その人」
「そもそも性別は?」
「多分同い年で、男だよ」
「同い年の男がBURBERRYくれんの?」
絵里は大袈裟に息を飲んだ。
そして、冒頭のやり取りになったのだ。
「身元は何となくわかってるから、大丈夫だと思うんだけど……」
何かあるとスキャンダルとして取り沙汰されてしまう彼は、普通の男性より安全なのではなかろうか。
「あ、身元はわかってるんだ」
「てか十万近く貢がれるって相当好かれてんね」
「そんなにお金かけられてたのか……」
貰えるもんは貰っとけという信条で生きてきたけど、ちょっと色々頂きすぎかもしれない。
お返し……でもあの人多分お金で買えるものは何でも持ってそうだしな……。
ミンティア箱であげるとか?
いやそれも買えるか。既に高所得者であろうあの人と生活保護レベルの家庭の私じゃ差がありすぎるな。
どうしよう。
これからはお断り……でも受け取ると結構嬉しそうな顔するんだよな……。
「縁〜?縁さ〜ん?」
「珍しいね、縁が自分の世界に入り込んでる」
「やっぱ彼氏かな」
「いいなーBURBERRYくれる彼氏」
十条さんは、マスクを着けるのをやめたらしい。
いつもの公園のブランコをキシキシ鳴らしながら、コーラを飲む横顔を覗いた。
とにかく整った顔立ちをしている。手足も長いし声も良いし頭も良いし、本当に欠点というのが見当たらない人だと思う。
強いて言えばなんか全部が突然すぎるところだろうか。でも私あんまり困ってないし。
「…… 縁さん」
「はい」
「どうかしました?」
「何がですか?」
「さっきから俺の顔をじっと見てますけど、何かついてますか?」
「いや、綺麗な顔だなと思って」
隠してもバレるので素直に応えると、彼は微かに微笑んだ。わあ顔がいい。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
やっぱり、笑い方がテレビで見る「HiMERU」とは違う気がする。話し方も。
ネット曰く、アイドルとしてのHiMERUは謎めいた色気と高いパフォーマンス能力と話す時のやや癖のある語尾がギャップがあって可愛らしい……というのが全体的な評価らしい。
「めちゃくちゃかっこいいしエロいし頭いいけど、なんか可愛いのがいいよね」がファンの認識だという。ファンレターの返信は全て直筆というエピソードからは、彼のマメさとファンを大切にする丁寧な人柄が伺える。
確かに、十条さんはマメだ。
LINEもよく来るし、忙しいだろうにここにも週一ペースで必ず訪れる。
くれるものは全部「サイズ間違えました」とか「買いすぎました」とか言ってるけど、多分きちんと私の好みやサイズを把握してその上で選んでいるんだろう。
見た目と声は完全に「HiMERU」だし、そこら辺もよく似てる。
でも、確実に違うのだ。
その証拠に、彼は私といる時一回も「なのです」
とは言わない。一人称は「俺」だ。
それに、「HiMERU」として話している彼は時たま自分のことを確認するような言動をする。
自分のことなのに、まるで他人のようなのだ。
彼は、本当に「HiMERU」と同一人物なのだろうか。
「難しい顔してますけど、どうしました?」
「……この世について理解を深めています」
「あなたも冗談とか言うんですね」
「結構言ってるつもりなんですけど……」
「おやおや」
恐らく、私が考えていることは彼にとってとんでもない不利益につながることだろう。
黙っていよう。彼は、きっと私にそこまで踏み込まれることを望んでいない。
このままでいい。
「すみません、やり残した課題があるので先に帰りますね」
「珍しい。ではまた」
大学入試が終わったら、私は多分この街を離れる。
タイムリミットがある関係なら、せめて優しいままでいたかった。
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