Flavor of Life
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アルハイゼンくんと一緒にシフトに入るようになって、早いものでもう三ヶ月が経つ。
夏休みを目前に控えた今日は最高気温が四十度に迫る猛暑日で、「暑い!!」という総員の叫びにより校内はどこもかしこも冷房がガンガンに効いていた。
テレビもネットニュースも「命の危険がある」と、物騒なことを言っている。
「……はぁ」
アルハイゼンくんは先程司書の先生に注意されて、仕方なしにネクタイをきっちり上まで上げている。外気温と室内温度の差が激しすぎて私は今若干の寒さを感じているんだけど、やっぱり男の子は元気だ。
「君は暑くないのか」
「外に出たら暑いよ」
カーディガンを羽織って冷えてしまった手を擦り合わす私を、彼は珍獣を見るような目で眺めている。現在の設定温度は二十六度なんだけど、カウンターが冷風直撃の位置にあるせいで寒くてたまらない。首の後ろにダイレクトにくるのが特に辛い。
「……そんなに代謝が悪いのか?」
「そうかもしれない……私も筋トレしようかな」
「ああ、筋トレは健康な肉体の維持に非常に役立つ。体力不足や冷えも改善出来るから、君も習慣にすると良いだろう」
「じゃあやる……」
足の指の感覚があまりない。やっぱり寒くないかこの部屋。容赦ない冷風に私は思わず身震いをした。
「寒いのか?俺は大丈夫だが」
「アルハイゼンくんはまだ暑そうだもんね。足して二で割ったらちょうどいいかも」
「なるほど。やってみるか」
「え?」
大きな骨張った左手がす、と差し出される。指も長けりゃ爪も綺麗なそれは、彼の造形が遺伝子レベルで整っていることを示していた。
ところで何故彼は手を出しているのだろうか。握手か?握手して手の体温を移動させることで「足して二で割る」を実現させようと、まさかそういう魂胆か?
私は恐る恐る己の手をそれに重ねた。こんなに冷えた室内にいるというのに、驚くくらいに温かい。これが代謝の違いというものなのだろう。
「冷たいな。ちょうどいい温度だ」
「アルハイゼンくんはあったかいね」
「暑いから当然だな」
私よりもずっと大きな手をカイロのように両手で挟むと、彼は気持ちよさそうに目を細めた。実は私は冷房の中だと非常に手が冷えやすく、それがまるで某アニメ映画の雪の女王のようだとすら言われている。この時期の渾名は「エルサ」だ。
「……冷たいな」
「そうだねえ」
にしても本当に手が大きい。私は身長も体重も平均的だからそこまで華奢ではないと自負しているけれど、アルハイゼンくんと比べると笑えるほどに頼りない存在に見える。
「私さ、夏はこれなのに冬は何故か手があったかくなるんだよ」
「ほう」
彼は私の手をじぃっと見た。季節のニーズに合わせて温度を上下させてくる、謎の優秀さを備えた手だ。
「教室にいる時は大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
私のクラスは男子の方が少し人数が多い。彼らはみんな暑がりなので揃って室温を下げたがるし、ずっと立って喋り続ける先生方も「やっぱり暑いよね」とそれに乗りがちだ。
「私、今の席が冷房直撃地帯なんだよね。首の後ろに冷気が当たって頭痛が酷い」
休み時間には、タルタリヤが積極的に席を替わって元気に涼んでくれている。ハンディー扇風機を目の前に置いてやるとさらに喜ぶのが面白いと、蛍ちゃんは笑っていた。
「君と同じクラスなら喜んで席を替わったんだがな。俺は今窓際の一番前だ」
「うわあ、暑いね」
「暑いし眩しいし黒板は見えづらいし、後ろから「前がデカくて見えない」などと言われる。何もいいことが無い」
確かにこの時期の窓際最前は反射がきついし、アルハイゼンくんの身長だと後ろの人が隠れてしまうことも多いだろう。
それにしても本当に私の手は冷えている。いくら冷房に弱い体質だとはいえ、ちょっとこれは冷たすぎではないか。なんでこんなに冷え性なんだ。
「……冷たいな」
「冷たいねえ」
アルハイゼンくんは読んでいた本から顔を上げた。彼は基本的には足を組んで本を読みながら私として会話するスタンスだから、実は視線を向けられるのはまあまあレアなことだったりする。
「不快だったら言ってくれ」
「え?わっ」
彼は本を置き、右手を私の手の上に重ねた。こちらは両手で彼の左手を握っていたというのに、それすら覆うほどに手が大きい。これが体格差か。
「あったかい」
「君が冷えすぎなんだ」
「それはそうだね」
こちらは冷えすぎて手の動きが重くなるほどだったので、温度の追加はとても有難い。
「君の手は、ヴィクトリア朝の社交界でなら有利に働いたかもしれないな」
「ハンドクーラーいらずだからね。でもここまで冷えるのは冷房の中だけだよ」
そんなことを話していたら、いつの間にか手が温もってきていることに気づいた。右手の追加が大きかったらしい。
「アルハイゼンくん、そろそろ……」
「ああ、ありがとう。おかげで紙が波打たずに済む」
彼の手がふわっと離れ、視線はまた本に戻る。
私も自分の本を読み進めようとして、そこではたと気づいた。
高校生の男女が手を繋ぐって、どうなんだ?
夏休みを目前に控えた今日は最高気温が四十度に迫る猛暑日で、「暑い!!」という総員の叫びにより校内はどこもかしこも冷房がガンガンに効いていた。
テレビもネットニュースも「命の危険がある」と、物騒なことを言っている。
「……はぁ」
アルハイゼンくんは先程司書の先生に注意されて、仕方なしにネクタイをきっちり上まで上げている。外気温と室内温度の差が激しすぎて私は今若干の寒さを感じているんだけど、やっぱり男の子は元気だ。
「君は暑くないのか」
「外に出たら暑いよ」
カーディガンを羽織って冷えてしまった手を擦り合わす私を、彼は珍獣を見るような目で眺めている。現在の設定温度は二十六度なんだけど、カウンターが冷風直撃の位置にあるせいで寒くてたまらない。首の後ろにダイレクトにくるのが特に辛い。
「……そんなに代謝が悪いのか?」
「そうかもしれない……私も筋トレしようかな」
「ああ、筋トレは健康な肉体の維持に非常に役立つ。体力不足や冷えも改善出来るから、君も習慣にすると良いだろう」
「じゃあやる……」
足の指の感覚があまりない。やっぱり寒くないかこの部屋。容赦ない冷風に私は思わず身震いをした。
「寒いのか?俺は大丈夫だが」
「アルハイゼンくんはまだ暑そうだもんね。足して二で割ったらちょうどいいかも」
「なるほど。やってみるか」
「え?」
大きな骨張った左手がす、と差し出される。指も長けりゃ爪も綺麗なそれは、彼の造形が遺伝子レベルで整っていることを示していた。
ところで何故彼は手を出しているのだろうか。握手か?握手して手の体温を移動させることで「足して二で割る」を実現させようと、まさかそういう魂胆か?
私は恐る恐る己の手をそれに重ねた。こんなに冷えた室内にいるというのに、驚くくらいに温かい。これが代謝の違いというものなのだろう。
「冷たいな。ちょうどいい温度だ」
「アルハイゼンくんはあったかいね」
「暑いから当然だな」
私よりもずっと大きな手をカイロのように両手で挟むと、彼は気持ちよさそうに目を細めた。実は私は冷房の中だと非常に手が冷えやすく、それがまるで某アニメ映画の雪の女王のようだとすら言われている。この時期の渾名は「エルサ」だ。
「……冷たいな」
「そうだねえ」
にしても本当に手が大きい。私は身長も体重も平均的だからそこまで華奢ではないと自負しているけれど、アルハイゼンくんと比べると笑えるほどに頼りない存在に見える。
「私さ、夏はこれなのに冬は何故か手があったかくなるんだよ」
「ほう」
彼は私の手をじぃっと見た。季節のニーズに合わせて温度を上下させてくる、謎の優秀さを備えた手だ。
「教室にいる時は大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
私のクラスは男子の方が少し人数が多い。彼らはみんな暑がりなので揃って室温を下げたがるし、ずっと立って喋り続ける先生方も「やっぱり暑いよね」とそれに乗りがちだ。
「私、今の席が冷房直撃地帯なんだよね。首の後ろに冷気が当たって頭痛が酷い」
休み時間には、タルタリヤが積極的に席を替わって元気に涼んでくれている。ハンディー扇風機を目の前に置いてやるとさらに喜ぶのが面白いと、蛍ちゃんは笑っていた。
「君と同じクラスなら喜んで席を替わったんだがな。俺は今窓際の一番前だ」
「うわあ、暑いね」
「暑いし眩しいし黒板は見えづらいし、後ろから「前がデカくて見えない」などと言われる。何もいいことが無い」
確かにこの時期の窓際最前は反射がきついし、アルハイゼンくんの身長だと後ろの人が隠れてしまうことも多いだろう。
それにしても本当に私の手は冷えている。いくら冷房に弱い体質だとはいえ、ちょっとこれは冷たすぎではないか。なんでこんなに冷え性なんだ。
「……冷たいな」
「冷たいねえ」
アルハイゼンくんは読んでいた本から顔を上げた。彼は基本的には足を組んで本を読みながら私として会話するスタンスだから、実は視線を向けられるのはまあまあレアなことだったりする。
「不快だったら言ってくれ」
「え?わっ」
彼は本を置き、右手を私の手の上に重ねた。こちらは両手で彼の左手を握っていたというのに、それすら覆うほどに手が大きい。これが体格差か。
「あったかい」
「君が冷えすぎなんだ」
「それはそうだね」
こちらは冷えすぎて手の動きが重くなるほどだったので、温度の追加はとても有難い。
「君の手は、ヴィクトリア朝の社交界でなら有利に働いたかもしれないな」
「ハンドクーラーいらずだからね。でもここまで冷えるのは冷房の中だけだよ」
そんなことを話していたら、いつの間にか手が温もってきていることに気づいた。右手の追加が大きかったらしい。
「アルハイゼンくん、そろそろ……」
「ああ、ありがとう。おかげで紙が波打たずに済む」
彼の手がふわっと離れ、視線はまた本に戻る。
私も自分の本を読み進めようとして、そこではたと気づいた。
高校生の男女が手を繋ぐって、どうなんだ?
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