Flavor of Life
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前期中間テストが近づいても、図書館は人が少ないままだ。
校舎そのものが大きいこの高校には、カフェテリアやフリースペースが何個も存在している。声を抑えなくてはいけない図書館よりもそちらの方が友達と話しながら勉強を進められるからという理由で、皆流れていくのだ。
私も、カウンターの中で教科書とノートを広げていた。授業中にまとめは仕上げたから、あとは見返して頭に入れるのみ。古典や現代文、社会なんかは得意でも、数学だけにはどうにも弱い。克服しちゃえば順位が跳ね上がるのにな。
アルハイゼンくんは今日も隣で本を読んでいる。試験二週間前にこの余裕、流石学年首席を満点でキープするだけのことはある。頭の構造が違うからと諦めることは簡単だけど、それでもどうにも悔しいから追いつきたくなってしまうな。
「……そこ、間違ってるぞ」
「え、」
「おそらく数式の解釈を変えた方がいい」
本を開いたまま、垂れ気味の目がこちらを見ていた。
「どうも君は「そういうものだから」という考え方をするより、きちんとメカニズムを理解する方が好きそうだな。関連の書籍でも読んでみたらどうだ」
そしてまた彼は文字を追い始める。
今のはアドバイスと受け止めていいだろう。ちらりと見ただけのはずなのに、随分と具体的な内容が出てくるんだから凄い。いかにも「他人には興味が無い」というような顔をしているのに。
「……ちょっと見てくるね」
「ああ。好きなだけ読むといい」
に、と口角を微かに上げたアルハイゼンくんは、本当に珍しいことに、ひらりと手をひとつ振った。
そのことを蛍ちゃんと綾華ちゃんに話したのは、中間が終わっていよいよ次の時間が数学のテスト返却、というタイミングだった。
「なんか今回手応えありそうな顔してたのはそれが原因だったか……」
「アルハイゼンさんは、理津さんのことをよく見てらっしゃるんですね」
読んだ書名を訊かれたので答えると、二人ともはて、というように首を傾けていた。図書館の隅で埃を被っていた本だけど、きちんと読めばまあまあ面白い。
「私も借りてみましょうか……」
「あ、今アルハイゼンくんが借りてるよ。多分すぐ読み終わるけど」
「それは……」
綾華ちゃんがまた何か閃いたらしい。大きな藤色の瞳がキラキラ輝くのはかわいいしこちらも幸せになる光景ではあるんだけど、如何せん勘違いだから困ってしまう。
「綾華ちゃん、想像してることは起こってないからね」
「わかりませんよ。お話を伺う限り、お二人は随分と仲がよろしい様子ですし……」
「普通じゃない?」
「いや、アルハイゼンって本当に興味無いこと話さないってお兄ちゃんが言ってたよ。それがわざわざアドバイスまでしてくれるっていうのは、確かに何かあるかもな」
蛍ちゃんが顎に手を当てて考え込む。
「惚れられた?」
「それはない」
あまりにも期間が短すぎる。まだ委員になって二ヶ月も経っていないのに。
「多分そんなすぐに人のこと好きにならないタイプだと思う」
「いや、わからないよ」
「綾華ちゃんみたいなこと言うじゃん」
「そうですよ、わかりませんよ」
「綾華ちゃんも被せてくるようになったか……」
恋愛のことになると皆熱が入るなあ。私も興味がないわけではないから人のことは言えないけど。
数学のテストは九十二点だった。
学年順位は九位で初の一桁を達成、現代文、古文、歴史、保健体育は満点。……まだ上にいけるな。
「五科目満点とっても九位か……」
「いや理津よく見て、ここから上同立がめちゃくちゃ多いから。一位はちょっとおかしいけど」
「そうですよ、点数だけ見たら上から四番目です。いつも上位が混戦し過ぎなんですよ。一位は格が違いますが……」
今回もアルハイゼンくんは堂々の全科目満点での一位だった。次点との差は三点だ。
「理津は数学で一気に総合点数が上がったね。やっぱり、アルハイゼンのアドバイスは有用だったんだ」
「それにしても、学年一位はどんな勉強をしたらなれるんでしょう……全部満点なんて」
ザワザワと騒がしい順位掲示板に、アルハイゼンくんの姿はない。漏れ聞こえる話を総合すると、もう皆彼と同じステージに立つことは諦めていて、二位の座を争っているようだった。
「今日この後なんだっけ?」
「ホームルームで終わりだったはずです。全員好成績を修められたことですし、祝勝会でもしませんか?蛍さんが行きたがっていたカフェがあったでしょう」
「行く行く!あのカフェのモンブランがどうしても食べたいんだよね。理津も来るでしょ?」
「もちろん行くよ。今日は図書館も閉館だし」
「あら、閉館なのですか?」
「テスト返却のみだからね。図書館開館してても皆すぐ帰っちゃって人来ないから、今日はお休み」
アルハイゼンくんにアドバイスのお礼を言うのは、きっと週明けになるだろう。
「ちょっと待ってね、お兄ちゃんにカフェ寄るって連絡する」
「私も、お兄様に連絡しなくては」
携帯を取り出す二人をボケっと見ながら、アルハイゼンくんは何となくお礼なんて受け入れてくれなさそうだなと思った。
校舎そのものが大きいこの高校には、カフェテリアやフリースペースが何個も存在している。声を抑えなくてはいけない図書館よりもそちらの方が友達と話しながら勉強を進められるからという理由で、皆流れていくのだ。
私も、カウンターの中で教科書とノートを広げていた。授業中にまとめは仕上げたから、あとは見返して頭に入れるのみ。古典や現代文、社会なんかは得意でも、数学だけにはどうにも弱い。克服しちゃえば順位が跳ね上がるのにな。
アルハイゼンくんは今日も隣で本を読んでいる。試験二週間前にこの余裕、流石学年首席を満点でキープするだけのことはある。頭の構造が違うからと諦めることは簡単だけど、それでもどうにも悔しいから追いつきたくなってしまうな。
「……そこ、間違ってるぞ」
「え、」
「おそらく数式の解釈を変えた方がいい」
本を開いたまま、垂れ気味の目がこちらを見ていた。
「どうも君は「そういうものだから」という考え方をするより、きちんとメカニズムを理解する方が好きそうだな。関連の書籍でも読んでみたらどうだ」
そしてまた彼は文字を追い始める。
今のはアドバイスと受け止めていいだろう。ちらりと見ただけのはずなのに、随分と具体的な内容が出てくるんだから凄い。いかにも「他人には興味が無い」というような顔をしているのに。
「……ちょっと見てくるね」
「ああ。好きなだけ読むといい」
に、と口角を微かに上げたアルハイゼンくんは、本当に珍しいことに、ひらりと手をひとつ振った。
そのことを蛍ちゃんと綾華ちゃんに話したのは、中間が終わっていよいよ次の時間が数学のテスト返却、というタイミングだった。
「なんか今回手応えありそうな顔してたのはそれが原因だったか……」
「アルハイゼンさんは、理津さんのことをよく見てらっしゃるんですね」
読んだ書名を訊かれたので答えると、二人ともはて、というように首を傾けていた。図書館の隅で埃を被っていた本だけど、きちんと読めばまあまあ面白い。
「私も借りてみましょうか……」
「あ、今アルハイゼンくんが借りてるよ。多分すぐ読み終わるけど」
「それは……」
綾華ちゃんがまた何か閃いたらしい。大きな藤色の瞳がキラキラ輝くのはかわいいしこちらも幸せになる光景ではあるんだけど、如何せん勘違いだから困ってしまう。
「綾華ちゃん、想像してることは起こってないからね」
「わかりませんよ。お話を伺う限り、お二人は随分と仲がよろしい様子ですし……」
「普通じゃない?」
「いや、アルハイゼンって本当に興味無いこと話さないってお兄ちゃんが言ってたよ。それがわざわざアドバイスまでしてくれるっていうのは、確かに何かあるかもな」
蛍ちゃんが顎に手を当てて考え込む。
「惚れられた?」
「それはない」
あまりにも期間が短すぎる。まだ委員になって二ヶ月も経っていないのに。
「多分そんなすぐに人のこと好きにならないタイプだと思う」
「いや、わからないよ」
「綾華ちゃんみたいなこと言うじゃん」
「そうですよ、わかりませんよ」
「綾華ちゃんも被せてくるようになったか……」
恋愛のことになると皆熱が入るなあ。私も興味がないわけではないから人のことは言えないけど。
数学のテストは九十二点だった。
学年順位は九位で初の一桁を達成、現代文、古文、歴史、保健体育は満点。……まだ上にいけるな。
「五科目満点とっても九位か……」
「いや理津よく見て、ここから上同立がめちゃくちゃ多いから。一位はちょっとおかしいけど」
「そうですよ、点数だけ見たら上から四番目です。いつも上位が混戦し過ぎなんですよ。一位は格が違いますが……」
今回もアルハイゼンくんは堂々の全科目満点での一位だった。次点との差は三点だ。
「理津は数学で一気に総合点数が上がったね。やっぱり、アルハイゼンのアドバイスは有用だったんだ」
「それにしても、学年一位はどんな勉強をしたらなれるんでしょう……全部満点なんて」
ザワザワと騒がしい順位掲示板に、アルハイゼンくんの姿はない。漏れ聞こえる話を総合すると、もう皆彼と同じステージに立つことは諦めていて、二位の座を争っているようだった。
「今日この後なんだっけ?」
「ホームルームで終わりだったはずです。全員好成績を修められたことですし、祝勝会でもしませんか?蛍さんが行きたがっていたカフェがあったでしょう」
「行く行く!あのカフェのモンブランがどうしても食べたいんだよね。理津も来るでしょ?」
「もちろん行くよ。今日は図書館も閉館だし」
「あら、閉館なのですか?」
「テスト返却のみだからね。図書館開館してても皆すぐ帰っちゃって人来ないから、今日はお休み」
アルハイゼンくんにアドバイスのお礼を言うのは、きっと週明けになるだろう。
「ちょっと待ってね、お兄ちゃんにカフェ寄るって連絡する」
「私も、お兄様に連絡しなくては」
携帯を取り出す二人をボケっと見ながら、アルハイゼンくんは何となくお礼なんて受け入れてくれなさそうだなと思った。