第一部
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ここは中央の国のとあるパティスリー。
私は今、目の前でスイーツファイトを繰り広げるオーエンを見ている。
遡ること三時間前。
何とか起床した私は朝ごはんを何とか食べ、本日の予定を自室で確認していた。
「東の授業に参加して、ご飯食べたら文字の自主練習……」
依頼が入ったらまた変わるけど、そうじゃない限り今日はお勉強の日だ。まあ身体的な負担は少ないのだから、気楽というべきなのだろう。
「賢者様」
「わっ、オーエン」
部屋のど真ん中に現れたのは、白いマントを揺らす魔法使い。北が誇るホラーでサイコなオーエンさんだ。
「ねえ、一緒にパフェを食べに行こう」
「え、パフェ?これからですか?」
「そう」
「でも今日は予定が」
「ファウストにはもう伝えておいた」
予定が把握されている。いつの間に。
まあでもオーエンだからそういうこともあるか、と私は自分で自分を納得させた。だって、相手はオーエンなのだから。
「なら行きます」
彼が目をつけた店は、絶対に美味しい。
このスーパー甘党は、何気に結構グルメなのだ。
そういうことで、私はオーエンとパフェを食べている。
こちらは通常サイズ。あちらは一時間で食べ切れたら無料の五キロパフェ。
今のところオーエンが圧倒的優勢で、生クリームもいちごもフレークも、瞬く間に消えていっている。
「美味しいですか?」
「うん」
好物を摂取しているだけあってご機嫌だ。ちなみにテーブルにあった砂糖も足している。
にこにこと食べ進めていく様はまるで子供のように見えた。とてもクレイジーサイコホラーな北の魔法使いで約千二百歳の男性だとは思えない。
口元についたクリームを舐めとる時にちらつく百合の紋章は、彼が世界の救世主の一人であることを表している。賢者の魔法使い。私の、魔法使い。
「何?」
「いえ、なんでも」
「そう」
そろそろ30分が経過するが、彼の手は一向に止まる気配がない。優美な顔にかわいい笑みを浮かべて、すいすいとスプーンを運んでいく。
あの細身の体のどこに五キロも入るのだろうか。普段は酷い偏食で、野菜も肉も魚も嫌うのに。
「食べ終わったよ」
「おお〜」
オーエンは特に吐き気や胸焼けを起こすことなく、そのパフェを食べきった。タイムは四十分。元いた世界ならイケメンスイーツファイターとして名を馳せていたところだ。
約束通り彼のお代は無料、私が食べたパフェ八百五十エンのお支払いのみとなった。
甘党オーエンの旅はこれだけでは終わらない。
全国に店を展開するというコーヒースタンドに、彼は嬉々として入っていった。まあつまり、スタバみたいなものだ。
スタバといえば呪文の詠唱。長い商品名とカスタムをスラスラと言うあれである。
この世界でもどうやらそれはあるようで、前に並んでる人達もスラスラ長々と唱えていく。え、私何も分からない……。
「アイスコーヒー一つ」という楽勝なワードを携えて待っていると、オーエンの番が来た。
「クワトロベンティーエクストラコーヒーバニラキャラメルへーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアドチップウィズチョコレートソースウィズキャラメルソースアップルクランブルフラペチーノ一つと、ベンティバニラクリームフラペチーノノンバニラアドホワイトモカシロップアドヘーゼルナッツシロップウィズチョコレートチップウィズチョコレートソースエクストラホイップブラべミルク一つ」
「かしこまりました」
なにそれ?!長くない?!
というか噛まなかった……。さすが現役の魔法使い、詠唱に慣れてらっしゃる……。
さりげなく私の分の注文まで終えてくれたようなので、商品を受け取ってそのまま席に着いた。
「これ美味しいんだよ」
「へえ……」
私の目の前に置かれたのは「ベンティバニラクリームフラペチーノノンバニラアドホワイトモカシロップアドヘーゼルナッツシロップウィズチョコレートチップウィズチョコレートソースエクストラホイップブラべミルク」の方だった。飲むとチョコレートの味がふわっと広がる。確かに美味しいけど甘っ!
「ね、美味しいでしょ?」
「美味しいです」
パフェを食べた後にこれを飲むとはさすがオーエン。レベルが違う。
「もう一つサイズが大きくても良かったかも」
「えっ」
既にだいぶ大きいのに?まだいけるの?魔法使いにはそういうスペックも備わるの?
「……何、目丸くして」
「いえ……オーエンは本当に甘いものが好きなんですね」
「うん」
本当に、今日はめちゃくちゃ機嫌がいい。
まず私が飲んでるこれはオーエンのセレクトとカスタムだし、さりげなく彼は二人分の金額を置いていた。
「ねえ賢者様」
「はい」
「帰りたい?」
「元の世界にですか?」
「うん」
オーエンが飲み物を啜る。品のいい彼は、決して音を立てはしない。
「……帰りたくないです」
「なら、この世界に残りたい?」
「いえ」
「どうしたいの?」
「どこにもない場所に行きたいです。誰もいない、何もないところに」
暗い返答。これだから私はダメなんだ。
でも相手はオーエンだし、取り繕った回答をしたところで無駄。なんせ彼は千二百歳で、人生経験がとても豊富だから。
「賢者様は贅沢だね」
「私もそう思います。あとオーエン、飲み物代返しますね」
「いい。そのくらいの余裕あるし」
わーかっこいい。でもこっちも返す程度の余裕はあるけどな。
「賢者様は、どこにもいけないよ」
オーエンは静かにそう言った。
「私もそう思います」
私もそう返した。
そう、私はどこにも行けない。何からも、逃げることなんて出来やしない。
私は今、目の前でスイーツファイトを繰り広げるオーエンを見ている。
遡ること三時間前。
何とか起床した私は朝ごはんを何とか食べ、本日の予定を自室で確認していた。
「東の授業に参加して、ご飯食べたら文字の自主練習……」
依頼が入ったらまた変わるけど、そうじゃない限り今日はお勉強の日だ。まあ身体的な負担は少ないのだから、気楽というべきなのだろう。
「賢者様」
「わっ、オーエン」
部屋のど真ん中に現れたのは、白いマントを揺らす魔法使い。北が誇るホラーでサイコなオーエンさんだ。
「ねえ、一緒にパフェを食べに行こう」
「え、パフェ?これからですか?」
「そう」
「でも今日は予定が」
「ファウストにはもう伝えておいた」
予定が把握されている。いつの間に。
まあでもオーエンだからそういうこともあるか、と私は自分で自分を納得させた。だって、相手はオーエンなのだから。
「なら行きます」
彼が目をつけた店は、絶対に美味しい。
このスーパー甘党は、何気に結構グルメなのだ。
そういうことで、私はオーエンとパフェを食べている。
こちらは通常サイズ。あちらは一時間で食べ切れたら無料の五キロパフェ。
今のところオーエンが圧倒的優勢で、生クリームもいちごもフレークも、瞬く間に消えていっている。
「美味しいですか?」
「うん」
好物を摂取しているだけあってご機嫌だ。ちなみにテーブルにあった砂糖も足している。
にこにこと食べ進めていく様はまるで子供のように見えた。とてもクレイジーサイコホラーな北の魔法使いで約千二百歳の男性だとは思えない。
口元についたクリームを舐めとる時にちらつく百合の紋章は、彼が世界の救世主の一人であることを表している。賢者の魔法使い。私の、魔法使い。
「何?」
「いえ、なんでも」
「そう」
そろそろ30分が経過するが、彼の手は一向に止まる気配がない。優美な顔にかわいい笑みを浮かべて、すいすいとスプーンを運んでいく。
あの細身の体のどこに五キロも入るのだろうか。普段は酷い偏食で、野菜も肉も魚も嫌うのに。
「食べ終わったよ」
「おお〜」
オーエンは特に吐き気や胸焼けを起こすことなく、そのパフェを食べきった。タイムは四十分。元いた世界ならイケメンスイーツファイターとして名を馳せていたところだ。
約束通り彼のお代は無料、私が食べたパフェ八百五十エンのお支払いのみとなった。
甘党オーエンの旅はこれだけでは終わらない。
全国に店を展開するというコーヒースタンドに、彼は嬉々として入っていった。まあつまり、スタバみたいなものだ。
スタバといえば呪文の詠唱。長い商品名とカスタムをスラスラと言うあれである。
この世界でもどうやらそれはあるようで、前に並んでる人達もスラスラ長々と唱えていく。え、私何も分からない……。
「アイスコーヒー一つ」という楽勝なワードを携えて待っていると、オーエンの番が来た。
「クワトロベンティーエクストラコーヒーバニラキャラメルへーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアドチップウィズチョコレートソースウィズキャラメルソースアップルクランブルフラペチーノ一つと、ベンティバニラクリームフラペチーノノンバニラアドホワイトモカシロップアドヘーゼルナッツシロップウィズチョコレートチップウィズチョコレートソースエクストラホイップブラべミルク一つ」
「かしこまりました」
なにそれ?!長くない?!
というか噛まなかった……。さすが現役の魔法使い、詠唱に慣れてらっしゃる……。
さりげなく私の分の注文まで終えてくれたようなので、商品を受け取ってそのまま席に着いた。
「これ美味しいんだよ」
「へえ……」
私の目の前に置かれたのは「ベンティバニラクリームフラペチーノノンバニラアドホワイトモカシロップアドヘーゼルナッツシロップウィズチョコレートチップウィズチョコレートソースエクストラホイップブラべミルク」の方だった。飲むとチョコレートの味がふわっと広がる。確かに美味しいけど甘っ!
「ね、美味しいでしょ?」
「美味しいです」
パフェを食べた後にこれを飲むとはさすがオーエン。レベルが違う。
「もう一つサイズが大きくても良かったかも」
「えっ」
既にだいぶ大きいのに?まだいけるの?魔法使いにはそういうスペックも備わるの?
「……何、目丸くして」
「いえ……オーエンは本当に甘いものが好きなんですね」
「うん」
本当に、今日はめちゃくちゃ機嫌がいい。
まず私が飲んでるこれはオーエンのセレクトとカスタムだし、さりげなく彼は二人分の金額を置いていた。
「ねえ賢者様」
「はい」
「帰りたい?」
「元の世界にですか?」
「うん」
オーエンが飲み物を啜る。品のいい彼は、決して音を立てはしない。
「……帰りたくないです」
「なら、この世界に残りたい?」
「いえ」
「どうしたいの?」
「どこにもない場所に行きたいです。誰もいない、何もないところに」
暗い返答。これだから私はダメなんだ。
でも相手はオーエンだし、取り繕った回答をしたところで無駄。なんせ彼は千二百歳で、人生経験がとても豊富だから。
「賢者様は贅沢だね」
「私もそう思います。あとオーエン、飲み物代返しますね」
「いい。そのくらいの余裕あるし」
わーかっこいい。でもこっちも返す程度の余裕はあるけどな。
「賢者様は、どこにもいけないよ」
オーエンは静かにそう言った。
「私もそう思います」
私もそう返した。
そう、私はどこにも行けない。何からも、逃げることなんて出来やしない。