第二部
夢小説設定
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目が覚めた。
「部屋……?」
大きな机、ふかふかのベッド、お気に入りのぬいぐるみ。
カレンダーは、あの日からちょうど一年進んでいた。時刻は午前0時。
「戻ってきた……?」
体は健常。記憶もある。私は空に散った光と共に消えたのだ。
「この服じゃまずいよな」
髪を解いて、クローゼットを開ける。適当な服を選んで着替えて、着ていた物を奥にこっそりとしまった。
「うわ、着にくい」
クロエの仕立てがいかに凄かったか再認識した。帰りたいよ〜!
鏡を見たら、確かに左耳には銀色に輝くピアスが装着されていた。ナイトの駒。
唇はティントが残っている。触れてみてももう指にはつかない。
「……本当に帰ってきたんだなあ」
なんかさっきから少しお腹が痛い。
ああストレス……両親……。
仕方がないから部屋から出た。階段を降ると、リビングに電気がついているのが見える。
「……で……」
「晶……」
あーはい両親揃ってますね。しかも私の話してる。
これ多分丸々一年綺麗に時間が流れてるだろうから、その分あの人たちには心配をかけたのか。
申し訳ない……私何も悪くないけど……。
「あの……」
ガタッ!
椅子がとんでもない音をたてた。壊れたんじゃない?
「晶!!」
「晶なの?!」
うっさ。今夜中だよ。
でも仕方ないのか。まる一年消えてた一人娘が帰ってきたにしては控えめな反応なのかな。
「どこに行ってたの?!」
「覚えてない……」
「誰かに連れ去られてたのか?!」
「わかんない……」
それからの私はわかんないbotと化していた。
矢継ぎ早にくる質問全てに「知らない」「わかんない」「覚えてない」。親も疲れているだろうということで、一時間弱で解放してくれた。
ただ、本日の寝床は両親の隣だった。勘弁してほしい。
次の日は病院と警察に行った。
ニュースでは『一年前の10月31日に行方不明だった真木晶さんが無事保護されました』と繰り返し報道され、私は両親に守られるようにして警察の事情聴取を受けた。
そこではやはり私のピアスが注目された。外そうとしても外れず、つけたままの検分。物質も職人もわからない、シリアルナンバーもないということで完全にお手上げらしい。そりゃそうだ。
病院では健康検査を受けた。
首元に残った大量のキスマークで両親は娘が無体をされたと泣き崩れ、妊娠はしていないこと、体に異常は全くないことを知って私は安心した。
なんでこんな箇条書きみたいな文面かというと、ここら辺は私も記憶が飛び飛びであまり覚えていないからだ。
なんかもう全てがどうでもいい。帰りたい。家にじゃなくて、あの世界に。
でも月はただ無常に遠ざかるばかりで、朝はまた絶望に彩られて登ってくる。
学校に復帰するのに、一週間ほどかかった。
まず中学から高校に上がったので制服の直し。中高一貫だしサイズは変わらないけどデザインの変更があってだるい。リボンの色なんて何色でもいいじゃんね。
そして教科書の調達、再度の健康チェックを経てようやく私は教室に入ることができた。
そしたらまあ刺さる視線の多いことよ。話しかけてきてよ〜!確かに一年間行方不明になってた同級生なんて私も接しにくいと思うけどさ〜!
あとシンプルに勉強がキツくて休み時間も机にかじりつかなきゃいけなかったというのもある。中三10月から高一11月の抜けは辛い。
そして怒涛のピアノ練習だ。
私の通うこの学校は音大附属なので、授業にもかなり多めに音楽が盛り込まれている。鬼の先生とマンツーマンで日々レッスンレッスンその後はおべんきょおべんきょおべんきょ……。もう疲れた。死にたい。
これはあの世界に行ってからわかったことなんだけど、私は誰かとのんびり弾く方が向いているらしいのだ。断じて後ろから鬼の視線がバシバシ飛んでくる空間で弾くことではない。
えーんオーエンはこんなに冷たい目してなかったのに……1200歳の魔法使いより冷たい先生マジ何なん?液体窒素か?
そんなことを思いながら必死でテストやレッスンを乗り越えて、ようやく冬休みが来た。
休みといっても練習は続く。成績上位勢に返り咲くために、勉強時間も確保しなきゃいけない。
こんなに忙しい日々の中、見上げる夜空には星すらない。
あの人と、同じ空を見ることも叶わないのだ。
ねえオーエン、そっちの月はどうですか。
忌々しいほど大きいですか。新しい賢者と上手くやれてますか。ラヴァーズ・コンチェルトは、弾けるようになりましたか。
それとももう、私のことなんて忘れてしまったかな。いなくなった途端記憶からも消えてしまうと聞いたけど、それは本当ですか。
私はまだこんなに覚えているのに、あなたは忘れてしまうなんて。
毎夜毎夜月を見上げて泣くけれど、オーエンは素知らぬ顔で甘いものでも食べているんだろう。
とれないピアスとアンクレットなんて渡して、彼は私の心を奪っていった。
文字通り、奥の奥まで。
「酷い話……」
あの日の香りはもうしない。
ただ、月の光だけが冷たかった。
「部屋……?」
大きな机、ふかふかのベッド、お気に入りのぬいぐるみ。
カレンダーは、あの日からちょうど一年進んでいた。時刻は午前0時。
「戻ってきた……?」
体は健常。記憶もある。私は空に散った光と共に消えたのだ。
「この服じゃまずいよな」
髪を解いて、クローゼットを開ける。適当な服を選んで着替えて、着ていた物を奥にこっそりとしまった。
「うわ、着にくい」
クロエの仕立てがいかに凄かったか再認識した。帰りたいよ〜!
鏡を見たら、確かに左耳には銀色に輝くピアスが装着されていた。ナイトの駒。
唇はティントが残っている。触れてみてももう指にはつかない。
「……本当に帰ってきたんだなあ」
なんかさっきから少しお腹が痛い。
ああストレス……両親……。
仕方がないから部屋から出た。階段を降ると、リビングに電気がついているのが見える。
「……で……」
「晶……」
あーはい両親揃ってますね。しかも私の話してる。
これ多分丸々一年綺麗に時間が流れてるだろうから、その分あの人たちには心配をかけたのか。
申し訳ない……私何も悪くないけど……。
「あの……」
ガタッ!
椅子がとんでもない音をたてた。壊れたんじゃない?
「晶!!」
「晶なの?!」
うっさ。今夜中だよ。
でも仕方ないのか。まる一年消えてた一人娘が帰ってきたにしては控えめな反応なのかな。
「どこに行ってたの?!」
「覚えてない……」
「誰かに連れ去られてたのか?!」
「わかんない……」
それからの私はわかんないbotと化していた。
矢継ぎ早にくる質問全てに「知らない」「わかんない」「覚えてない」。親も疲れているだろうということで、一時間弱で解放してくれた。
ただ、本日の寝床は両親の隣だった。勘弁してほしい。
次の日は病院と警察に行った。
ニュースでは『一年前の10月31日に行方不明だった真木晶さんが無事保護されました』と繰り返し報道され、私は両親に守られるようにして警察の事情聴取を受けた。
そこではやはり私のピアスが注目された。外そうとしても外れず、つけたままの検分。物質も職人もわからない、シリアルナンバーもないということで完全にお手上げらしい。そりゃそうだ。
病院では健康検査を受けた。
首元に残った大量のキスマークで両親は娘が無体をされたと泣き崩れ、妊娠はしていないこと、体に異常は全くないことを知って私は安心した。
なんでこんな箇条書きみたいな文面かというと、ここら辺は私も記憶が飛び飛びであまり覚えていないからだ。
なんかもう全てがどうでもいい。帰りたい。家にじゃなくて、あの世界に。
でも月はただ無常に遠ざかるばかりで、朝はまた絶望に彩られて登ってくる。
学校に復帰するのに、一週間ほどかかった。
まず中学から高校に上がったので制服の直し。中高一貫だしサイズは変わらないけどデザインの変更があってだるい。リボンの色なんて何色でもいいじゃんね。
そして教科書の調達、再度の健康チェックを経てようやく私は教室に入ることができた。
そしたらまあ刺さる視線の多いことよ。話しかけてきてよ〜!確かに一年間行方不明になってた同級生なんて私も接しにくいと思うけどさ〜!
あとシンプルに勉強がキツくて休み時間も机にかじりつかなきゃいけなかったというのもある。中三10月から高一11月の抜けは辛い。
そして怒涛のピアノ練習だ。
私の通うこの学校は音大附属なので、授業にもかなり多めに音楽が盛り込まれている。鬼の先生とマンツーマンで日々レッスンレッスンその後はおべんきょおべんきょおべんきょ……。もう疲れた。死にたい。
これはあの世界に行ってからわかったことなんだけど、私は誰かとのんびり弾く方が向いているらしいのだ。断じて後ろから鬼の視線がバシバシ飛んでくる空間で弾くことではない。
えーんオーエンはこんなに冷たい目してなかったのに……1200歳の魔法使いより冷たい先生マジ何なん?液体窒素か?
そんなことを思いながら必死でテストやレッスンを乗り越えて、ようやく冬休みが来た。
休みといっても練習は続く。成績上位勢に返り咲くために、勉強時間も確保しなきゃいけない。
こんなに忙しい日々の中、見上げる夜空には星すらない。
あの人と、同じ空を見ることも叶わないのだ。
ねえオーエン、そっちの月はどうですか。
忌々しいほど大きいですか。新しい賢者と上手くやれてますか。ラヴァーズ・コンチェルトは、弾けるようになりましたか。
それとももう、私のことなんて忘れてしまったかな。いなくなった途端記憶からも消えてしまうと聞いたけど、それは本当ですか。
私はまだこんなに覚えているのに、あなたは忘れてしまうなんて。
毎夜毎夜月を見上げて泣くけれど、オーエンは素知らぬ顔で甘いものでも食べているんだろう。
とれないピアスとアンクレットなんて渡して、彼は私の心を奪っていった。
文字通り、奥の奥まで。
「酷い話……」
あの日の香りはもうしない。
ただ、月の光だけが冷たかった。