第一部
夢小説設定
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グランウェル城バルコニー。
私、オズ、アーサー、リケ、ミチルは結界の中で準備を進めていた。フィガロ、ルチルは怪我人がいつ運び込まれてもいいように一階での待機となる。
私はテーブルにスノウとホワイトの入った額縁を置いた。そして彼らに見えるように、リケが魔法を展開する。
「《サンレティア・エティフ》」
空間に咲くように現れた、魔法の窓。各地に配置された魔法使い達の様子が見える。
「できましたよ!」
「ありがとうございます」
これは私が以前囚われた、あの異空間で見たものをモチーフにしたものだ。天才ムルに相談して魔法を開発し、私の近くに常にいられるリケに習得してもらった。
あの時と違うのは、左上に各魔法使いの体力がゲージとして表示されていること。要領は格闘ゲームと同じだ。
『賢者さん、配置着いたぜ』
「ありがとうございます、ネロ」
右耳につけたイヤーカフから音声が聞こえる。
これは今回作り出した伝達魔法。簡単に言うとトランシーバーである。これも魔法の開発はムル、習得はミチルにお願いした。
「凄いですね、賢者様!」
「元の世界にあったものを再現しただけですよ。あ、でもこのゲージはないかな」
どちらも発案は私である。我ながらいいもの作ってもらったな。
『賢者!』
「……始まりましたね」
ブラッドリーからのコール。見ると、最前線にわらわらと「何か」が現れている。
『ねえ賢者様』
「オーエン」
『見てて』
ドンッ!
眩い光が、前方で弾けた。
『僕のことを忘れられないくらい、綺麗に戦ってあげる』
強かった。
去年の厄災がどの程度強かったかは分からないけど、今年もまあヤバかった。
『賢者様、シノが!』
「見てました!すぐに救護班に運ばせてください!」
『賢者様、クロエが負傷しました』
「見てました。その場で回復は?」
『今シャイロックが回復魔法をかけています』
「継続してください」
『賢者様、今の俺の攻撃どうでした?』
「最高ですさすがミスラ!そのままぶちかましちゃってください!」
まさか賢者ブーストがここまで効果を発揮するとは思わなかった。
みんなめちゃくちゃ強い。普段の三倍ぐらい暴れてる。
北3やシノは本当に楽しそうだ。前者はブラッドリーの強化も受けているからか、とんでもないことになっている。
そしてオーエン。あの人本当に今日やばい。
事前に周辺の家は取り壊していて「遠慮なく暴れていいですよ」と告げていたせいだろうか、派手な魔法をばんばん繰り出している。
『賢者』
「はいなんでしょうファウスト」
『地面がさっきから揺れてるんだが』
「それオーエンです」
『賢者様、今の見てくれましたか』
「見ましたよ!髑髏が一気に飲み込んでましたね」
この通信の起動ワードは「賢者」にしている。だからみんなから賢者賢者と呼ばれているのだ。嬉しい。
ブースト効果や通信での伝達もあるせいか、今年はどうも上手くいっているらしい。
スノウとホワイトから「よく考えたの、賢者」とお褒めの言葉を頂いた。
全員を無事に生きて帰す。
それが私のこの一年の迎撃準備をする上での目標だった。
殺してなんてあげないと、オーエンは私に言っていた。
なら、私も誰一人殺してなんてあげない。生きたい人も死にたい人も、全員まとめて勝たせてみせる。
そのために耐えた。耐えて耐えて崩れそうになった先に、愛しい人と手を繋いだ。
そして今、その手が離れようとしている。
私の中で何かが満ちる感覚がした。
ああ、と思う。もうおしまいだ。
「アーサー」
「はい!なんでしょう、賢者様?」
「指揮系統を代ってください。きっとこの後は撤収作業だけだと思います。魔法使いの怪我人はシノ、クロエ。両者とも既に治療を終え戦闘に復帰しています」
「はい」
私は魔法の窓に向き直った。全員のゲージはほぼ減っていない。これは完勝が狙えそうだ。
「総員に告ぐ!ただいまより指揮系統を全てアーサーに引き継ぎます。ミチル、通信の起動ワードを『アーサー』に変更してください」
「はい!」
「皆さん、本当にお疲れ様でした。私、多分そろそろ消えます」
『賢者様……』
掠れた、聞き慣れた声。ああ、もう、この声も聞けなくなるなんて。
「ありがとうございました。……さようなら」
そう言って、イヤーカフを外した。
オズが私の手をとる。全ての力を、彼に注ぎ込む。
この一発で、全てを空に還しましょう。
世界最強の魔法使いは、その杖を振り上げる。
さあ征け、私の恋心。
実ったまま、ここに全てを置いていくから。
ねえオーエン、あなたが思うよりも、私はあなたを愛していた。
気づいてた?好きよりずっと好きだったから、私、あなたに「好き」とは言えなかった。
薄情者だと笑うなら、今のうちに笑っておいて。だってあなた、私のこと、忘れてしまうんだもの。
「《ヴォクスノク》」
響く声。開闢の魔王が、雷を打ち上げる。
涙は星になって、もう見上げられない夜空に散った。
さよなら、オーエン。
私、オズ、アーサー、リケ、ミチルは結界の中で準備を進めていた。フィガロ、ルチルは怪我人がいつ運び込まれてもいいように一階での待機となる。
私はテーブルにスノウとホワイトの入った額縁を置いた。そして彼らに見えるように、リケが魔法を展開する。
「《サンレティア・エティフ》」
空間に咲くように現れた、魔法の窓。各地に配置された魔法使い達の様子が見える。
「できましたよ!」
「ありがとうございます」
これは私が以前囚われた、あの異空間で見たものをモチーフにしたものだ。天才ムルに相談して魔法を開発し、私の近くに常にいられるリケに習得してもらった。
あの時と違うのは、左上に各魔法使いの体力がゲージとして表示されていること。要領は格闘ゲームと同じだ。
『賢者さん、配置着いたぜ』
「ありがとうございます、ネロ」
右耳につけたイヤーカフから音声が聞こえる。
これは今回作り出した伝達魔法。簡単に言うとトランシーバーである。これも魔法の開発はムル、習得はミチルにお願いした。
「凄いですね、賢者様!」
「元の世界にあったものを再現しただけですよ。あ、でもこのゲージはないかな」
どちらも発案は私である。我ながらいいもの作ってもらったな。
『賢者!』
「……始まりましたね」
ブラッドリーからのコール。見ると、最前線にわらわらと「何か」が現れている。
『ねえ賢者様』
「オーエン」
『見てて』
ドンッ!
眩い光が、前方で弾けた。
『僕のことを忘れられないくらい、綺麗に戦ってあげる』
強かった。
去年の厄災がどの程度強かったかは分からないけど、今年もまあヤバかった。
『賢者様、シノが!』
「見てました!すぐに救護班に運ばせてください!」
『賢者様、クロエが負傷しました』
「見てました。その場で回復は?」
『今シャイロックが回復魔法をかけています』
「継続してください」
『賢者様、今の俺の攻撃どうでした?』
「最高ですさすがミスラ!そのままぶちかましちゃってください!」
まさか賢者ブーストがここまで効果を発揮するとは思わなかった。
みんなめちゃくちゃ強い。普段の三倍ぐらい暴れてる。
北3やシノは本当に楽しそうだ。前者はブラッドリーの強化も受けているからか、とんでもないことになっている。
そしてオーエン。あの人本当に今日やばい。
事前に周辺の家は取り壊していて「遠慮なく暴れていいですよ」と告げていたせいだろうか、派手な魔法をばんばん繰り出している。
『賢者』
「はいなんでしょうファウスト」
『地面がさっきから揺れてるんだが』
「それオーエンです」
『賢者様、今の見てくれましたか』
「見ましたよ!髑髏が一気に飲み込んでましたね」
この通信の起動ワードは「賢者」にしている。だからみんなから賢者賢者と呼ばれているのだ。嬉しい。
ブースト効果や通信での伝達もあるせいか、今年はどうも上手くいっているらしい。
スノウとホワイトから「よく考えたの、賢者」とお褒めの言葉を頂いた。
全員を無事に生きて帰す。
それが私のこの一年の迎撃準備をする上での目標だった。
殺してなんてあげないと、オーエンは私に言っていた。
なら、私も誰一人殺してなんてあげない。生きたい人も死にたい人も、全員まとめて勝たせてみせる。
そのために耐えた。耐えて耐えて崩れそうになった先に、愛しい人と手を繋いだ。
そして今、その手が離れようとしている。
私の中で何かが満ちる感覚がした。
ああ、と思う。もうおしまいだ。
「アーサー」
「はい!なんでしょう、賢者様?」
「指揮系統を代ってください。きっとこの後は撤収作業だけだと思います。魔法使いの怪我人はシノ、クロエ。両者とも既に治療を終え戦闘に復帰しています」
「はい」
私は魔法の窓に向き直った。全員のゲージはほぼ減っていない。これは完勝が狙えそうだ。
「総員に告ぐ!ただいまより指揮系統を全てアーサーに引き継ぎます。ミチル、通信の起動ワードを『アーサー』に変更してください」
「はい!」
「皆さん、本当にお疲れ様でした。私、多分そろそろ消えます」
『賢者様……』
掠れた、聞き慣れた声。ああ、もう、この声も聞けなくなるなんて。
「ありがとうございました。……さようなら」
そう言って、イヤーカフを外した。
オズが私の手をとる。全ての力を、彼に注ぎ込む。
この一発で、全てを空に還しましょう。
世界最強の魔法使いは、その杖を振り上げる。
さあ征け、私の恋心。
実ったまま、ここに全てを置いていくから。
ねえオーエン、あなたが思うよりも、私はあなたを愛していた。
気づいてた?好きよりずっと好きだったから、私、あなたに「好き」とは言えなかった。
薄情者だと笑うなら、今のうちに笑っておいて。だってあなた、私のこと、忘れてしまうんだもの。
「《ヴォクスノク》」
響く声。開闢の魔王が、雷を打ち上げる。
涙は星になって、もう見上げられない夜空に散った。
さよなら、オーエン。