第一部
夢小説設定
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目覚めたら、元の世界に戻っているかもしれない。
そんな不安を抱えるようになったのはいつの日か。そもそも、それを不安と感じるようになったのは。
今日は起きたらオーエンが隣にいた。「おはよう」と笑って、私にシュガーを渡す。
すっかり食べ慣れたそれを口に含むと、「はいこれ」と服が渡された。シャツにネクタイにスラックス、フード付きジャケットにソックス。
「あれ……?」
足首に見たことの無いアンクレットが巻かれている。細い繊細な銀細工に、控えめな赤い石。
「しかもこれ、どこから外すの?」
ぐるりと一周するそれには、留め金がない。
「オーエン、あの」
「……それ、外そうとしないで」
「あ、はい」
髪を耳にかけたオーエンがこちらを向く。今日も美形のレベルが高い。
「あれ、オーエンってピアスつけてましたっけ?」
今まで任務の衣装についていたピアスを普通につけているから、右耳に穴があることは知っている。
でも、日頃からつけているのは見たことがない。
右耳に嵌められたそれはまた銀細工だった。ナイトのチェス駒がモチーフになっている。
「おまえにもついてるよ」
「え?!」
私にピアス穴はない。
でも、確かに左耳を触ると冷たい感触があった。
確実にアンクレットもこれも目の前の彼の仕業だ。じっと見つめると、「似合うよ」と微笑まれた。やめろイケメン。
てか部屋もいつの間にかピアノ部屋から私の自室に移動している。わざわざ運んでくれたのか。
「賢者様?起きてるか?」
「あ、カイン……」
「ちょっと待ってて。賢者様、今支度してるから」
「え、オーエン?!」
「そうだよ。僕がいちゃ悪い?」
「い、いや、悪いというか……」
扉の向こうの困惑する声も無視し、オーエンは私に魔法をかける。
しゅるん、と髪がハーフアップにまとめられた。枕元に置いていた頭痛予防の猫のぬいぐるみが飛んできて、ぽん!とチャームに変化する。結んだところに落ち着いた。
「ど、どうなってるんですか?」
「はい鏡」
紺地に白いラインが入ったリボンが結ばれていた。真ん中に猫のチャームがついている。
「それ、つけてると頭痛予防の効果あるよ」
「ぬいぐるみのやつそのまま引き継いだんですね」
「そう」
オーエンは笑う。なんか今日は一段と顔がいいな。
「はいティント」
「え、あ」
唇を薄く開くと、魔法で現れた布で軽く拭かれた。その後にリップが塗られる。
「はいできた」
「ありがとうございます、え、ん」
微かに聞こえた呪文と共に、キスがひとつ。
落ちちゃうんじゃ……?と思って鏡を見たけど、特によれたり落ちたりはしていなかった。魔法の効果か。でもオーエンの唇は僅かに赤くなっている。イケメンにリップメイクは爆弾だということを私は学んだ。
「おーい、賢者様ー?オーエン?」
「あ、すいません!」
随分待たせてしまった。オーエンの手を引いて部屋を出る。
こんなに幸せな朝だけど、きっとこれが最後になる。
9時、朝食。
10時、グランウェル城にて最終打ち合わせ。
12時、帰宅、昼食。
13時から15時、仮眠。
そして16時。
グランウェル城に揃った全部隊を前に、アーサーが声を張り上げた。
「いよいよ戦いだ!みんなこの日のために鍛錬をよく積み、努力してきた。その成果を、存分に発揮しよう!」
「「「おおー!!!!!!!!!」」」
レスポンスは主に人間側からあった。魔法使い達は一身にこちらを見ている。
「次、賢者様お願いします」
「はい」
すう、と息を吸った。
大切なことはみんなもう既に頭に入っている。最終作戦会議も済ませた。私がやることは、ただ一つ。
「魔法使いの皆さん」
シン、と場が静まり返る。
「一年間、お世話になりました。この世界に来て戸惑うことも苦しいこともたくさんあったけど、それでもやってこられたのは皆さんのおかげです」
息を吸った。
「私はおそらく、その戦いのどこかでいなくなるでしょう。前の賢者と同じです。だから今、皆さんにありったけのありがとうを伝えていきます。ありがとう。私は、皆さんのことが大好きです」
ああみんな、泣きそうな顔をしないで。
私も苦しいけど、今だけは泣きたくないの。
「人間も魔法使いも、一人も欠けることなく朝を迎えましょう。私のことを忘れても、全員笑顔でいてください」
きっと私は、この世界で夜明けを見ることはもうない。
だからこの夜を、全力で迎え撃つ。
「いくぞ野郎共!!!!!!!!!!!!!」
「「「おおーー!!!!!!!!!!!!」」」
ミスラ、ブラッドリー、カイン、ファウスト、ネロ、ヒース、シノ、シャイロック、ムル、ラスティカ、クロエ、レノックス、そして、オーエン。
もうきっと、これが最後だから。
ねえオーエン、笑って。
帽子に手をかけていた白皙の魔法使いが、不意にこちらを見た。
伝わったかのように、彼は笑う。花のように、光のように。
ありがとう。
私、あなたに会えてよかった。
見つけてくれて、愛してくれて、愛されてくれて、ありがとう。
どうか、ご武運を。
そんな不安を抱えるようになったのはいつの日か。そもそも、それを不安と感じるようになったのは。
今日は起きたらオーエンが隣にいた。「おはよう」と笑って、私にシュガーを渡す。
すっかり食べ慣れたそれを口に含むと、「はいこれ」と服が渡された。シャツにネクタイにスラックス、フード付きジャケットにソックス。
「あれ……?」
足首に見たことの無いアンクレットが巻かれている。細い繊細な銀細工に、控えめな赤い石。
「しかもこれ、どこから外すの?」
ぐるりと一周するそれには、留め金がない。
「オーエン、あの」
「……それ、外そうとしないで」
「あ、はい」
髪を耳にかけたオーエンがこちらを向く。今日も美形のレベルが高い。
「あれ、オーエンってピアスつけてましたっけ?」
今まで任務の衣装についていたピアスを普通につけているから、右耳に穴があることは知っている。
でも、日頃からつけているのは見たことがない。
右耳に嵌められたそれはまた銀細工だった。ナイトのチェス駒がモチーフになっている。
「おまえにもついてるよ」
「え?!」
私にピアス穴はない。
でも、確かに左耳を触ると冷たい感触があった。
確実にアンクレットもこれも目の前の彼の仕業だ。じっと見つめると、「似合うよ」と微笑まれた。やめろイケメン。
てか部屋もいつの間にかピアノ部屋から私の自室に移動している。わざわざ運んでくれたのか。
「賢者様?起きてるか?」
「あ、カイン……」
「ちょっと待ってて。賢者様、今支度してるから」
「え、オーエン?!」
「そうだよ。僕がいちゃ悪い?」
「い、いや、悪いというか……」
扉の向こうの困惑する声も無視し、オーエンは私に魔法をかける。
しゅるん、と髪がハーフアップにまとめられた。枕元に置いていた頭痛予防の猫のぬいぐるみが飛んできて、ぽん!とチャームに変化する。結んだところに落ち着いた。
「ど、どうなってるんですか?」
「はい鏡」
紺地に白いラインが入ったリボンが結ばれていた。真ん中に猫のチャームがついている。
「それ、つけてると頭痛予防の効果あるよ」
「ぬいぐるみのやつそのまま引き継いだんですね」
「そう」
オーエンは笑う。なんか今日は一段と顔がいいな。
「はいティント」
「え、あ」
唇を薄く開くと、魔法で現れた布で軽く拭かれた。その後にリップが塗られる。
「はいできた」
「ありがとうございます、え、ん」
微かに聞こえた呪文と共に、キスがひとつ。
落ちちゃうんじゃ……?と思って鏡を見たけど、特によれたり落ちたりはしていなかった。魔法の効果か。でもオーエンの唇は僅かに赤くなっている。イケメンにリップメイクは爆弾だということを私は学んだ。
「おーい、賢者様ー?オーエン?」
「あ、すいません!」
随分待たせてしまった。オーエンの手を引いて部屋を出る。
こんなに幸せな朝だけど、きっとこれが最後になる。
9時、朝食。
10時、グランウェル城にて最終打ち合わせ。
12時、帰宅、昼食。
13時から15時、仮眠。
そして16時。
グランウェル城に揃った全部隊を前に、アーサーが声を張り上げた。
「いよいよ戦いだ!みんなこの日のために鍛錬をよく積み、努力してきた。その成果を、存分に発揮しよう!」
「「「おおー!!!!!!!!!」」」
レスポンスは主に人間側からあった。魔法使い達は一身にこちらを見ている。
「次、賢者様お願いします」
「はい」
すう、と息を吸った。
大切なことはみんなもう既に頭に入っている。最終作戦会議も済ませた。私がやることは、ただ一つ。
「魔法使いの皆さん」
シン、と場が静まり返る。
「一年間、お世話になりました。この世界に来て戸惑うことも苦しいこともたくさんあったけど、それでもやってこられたのは皆さんのおかげです」
息を吸った。
「私はおそらく、その戦いのどこかでいなくなるでしょう。前の賢者と同じです。だから今、皆さんにありったけのありがとうを伝えていきます。ありがとう。私は、皆さんのことが大好きです」
ああみんな、泣きそうな顔をしないで。
私も苦しいけど、今だけは泣きたくないの。
「人間も魔法使いも、一人も欠けることなく朝を迎えましょう。私のことを忘れても、全員笑顔でいてください」
きっと私は、この世界で夜明けを見ることはもうない。
だからこの夜を、全力で迎え撃つ。
「いくぞ野郎共!!!!!!!!!!!!!」
「「「おおーー!!!!!!!!!!!!」」」
ミスラ、ブラッドリー、カイン、ファウスト、ネロ、ヒース、シノ、シャイロック、ムル、ラスティカ、クロエ、レノックス、そして、オーエン。
もうきっと、これが最後だから。
ねえオーエン、笑って。
帽子に手をかけていた白皙の魔法使いが、不意にこちらを見た。
伝わったかのように、彼は笑う。花のように、光のように。
ありがとう。
私、あなたに会えてよかった。
見つけてくれて、愛してくれて、愛されてくれて、ありがとう。
どうか、ご武運を。