第一部
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時は流れる、人は移ろう。
昔読んだ漫画に書いてあった台詞を私は思い出した。
来てほしくない時ほど早く来るし、去ってほしくない時間ほど飛ぶように過ぎる。
目の前で翻る白いインバネスコートを見られるのは、その涼やかな声を聴けるのは、あと何回だろうか。
「……では、『大いなる厄災』対策会議を始めます。皆さん、よろしくお願いします」
「はい」
「ああ」
ここはグランウェル城の大会議室。
賢者、21人の魔法使い、魔法科学兵団団長、騎士団長、その他大臣等。
世界各地から集った要人達を前に、私は震えそうになる声を操って宣言した。
隣の国王代理も兼ねたアーサーが、「賢者様、お疲れ様でした」と労ってくれる。でも、本番はこれからなのだ。
「賢者の真木晶です。これより、主戦力となる賢者の魔法使い達の紹介に移ります。事前にお配りした資料をご覧ください」
・中央の国
オズ
アーサー・グランウェル
カイン・ナイトレイ
リケ・オルティス
・北の国
スノウ
ホワイト
ミスラ
オーエン
ブラッドリー・ベイン
・東の国
ファウスト・ラウィーニア
ネロ・ターナー
ヒースクリフ・ブランシェット
シノ・シャーウッド
・西の国
シャイロック・ベネット
ムル・ハート
ラスティカ・フェルチ
クロエ・コリンズ
・南の国
フィガロ・ガルシア
レノックス・ラム
ルチル・フローレス
ミチル・フローレス
資料にはそれぞれの名前に得意分野と苦手分野などを書き、魔力を数値にして記載した。
厄災の傷は許可をくれ、なおかつ戦闘に支障をきたすオズとスノウ、ホワイトが公開されている。ヒースクリフの傷は、秘匿されることとなった。
「次に、賢者についてです」
その次の資料には、私の情報を載せている。
身体スペックの低さがモロバレの、個人的にはなかなか悲しい文言だらけだ。
「この、『体液に魔力の増強効果あり』というのは?」
「言葉通りです。数度の実験の結果、私の体液には賢者の魔法使い達の魔力を増強する効果があることが確認されています。数日それを厄災の光に晒すと、さらに力が強まることも」
数度どころじゃないんですけどね!
「当日、それを利用することは?」
「可能です。フィガロが私の体液を既に回収し、魔法使い達が不快感なく摂取できるような形に錬成し直しています」
「錬成で効果が半減することは?」
「ありません。既に実験して確認済みです」
今現在、フィガロの部屋には瓶入りの私の唾液がある。恥ずか死にたいけどこれも世界のためです。耐えます。
「それで、配置は?」
「はい。次の資料をご覧ください」
ペラリ、と一斉に紙をめくる音がした。テスト中みたいだ。
「ホワイトの予言によると、今年の『大いなる厄災』は中央の国、グランウェル城周辺に落ちてくるとのことです。よって、城を中心にして魔法使いや兵を配置するのが妥当であると思われます」
資料には、机に広げられている地図の縮小版が添付されている。
今日は、この地図とそこに並べられた駒を動かして配置決めをするのだ。
ここで私は一旦席についた。後をアーサーが引き継ぐ。
「まず、今回はグランウェル城を避難所とするのは辞め、郊外に緊急避難所を建設することにしています。これはもう既に完成していて、王都の住民は既に移動を開始している模様です。前日までの全員避難が目標です」
要人達が頷く。
「各家庭への通達は完了。避難所までの特別臨時馬車を運行しています。現在、周辺住民の避難率は56%です」
「この避難所の防衛は?」
騎士団長が手を挙げた。
「我々が行きます」
地図の上にこちらの言葉で『騎士団』と書かれた駒が置かれる。うん、確かにここは人間の方がいいだろう。
「では城の背面の防衛は」
「それは魔法科学兵団が」
また駒が置かれる。今回は前面から迎え撃つ作戦だから、多分大丈夫。
この配置決めのために、ホワイトにめちゃくちゃ頑張って予言してもらったのだ。
「今回の厄災を迎撃する場所は、主に城の前面となります。よって、ここに賢者の魔法使いを配置していきます」
お疲れ様、アーサー。あとは私がいきます。
「最前線には、力が強く、経験値も豊富な北の魔法使いを中心に配置することにしました。まず、オーエン」
私の声は震えていなかっただろうか。この世界で最も温度を分け合った彼を、最も危険な死地に送る決定を下したのは私だ。
オーエンにそれを話した時、彼はそれを受け入れると言った。「おまえが言うなら仕方ない」と。
「でも、おまえが一番大切なものをもらう」とも、彼は告げた。まだ、私は何も渡せていない。
「そして、ブラッドリー、ミスラ。ブラッドリーは後方に魔力強化もお願いしたいので、少し下がった位置にいてください」
駒が配置されていく。こちらの言語で書かれた美しい名前から、目が離せない。
「そもそも基礎的な魔力が豊富で、なおかつ実戦に優れた面子です。正直に申し上げるととても強いです」
「もっと褒めてください」
「賢者の魔法使いの中でも戦闘に長けた、申し分のない実力者達です」
すかさずコールを入れたミスラに応える。
「まだいけるだろ?」
「世界トップクラスの天才的な能力を持つ、私の自慢の魔法使い達です」
「満足した」
よし。まあこの人達はここまで言っても足りないほど強いしな。当日は頑張ってくれ。
「次、前庭の辺りにファウスト、レノックス、ヒースクリフ、シノ、ネロ、カイン」
「任せろ」
レノックスは、事前にファウストの近くに配置するように願い出てきた。過去の革命が理由だろう。庭が主戦場となるだろうから、人員も多めだ。
「ファウストは前線での指揮に、シノは森林内での戦闘に長けています。万が一魔法が使えなくなった場合はレノックスの戦闘能力がかなり役に立ちます。カインについては皆さんご存知かと」
「賢者、ヒースも褒めてくれ」
「ヒースクリフは器用で周りがよく見える長所があります。各人の見落としをカバーしつつ、かつシノと息のあった攻撃が期待できます」
「顔も褒めてくれ」
「ご覧の通り、非常に整った見目をしておられます。内面はそれ以上に清廉です」
「家も褒めてくれ」
「東の国の武門の名門、ブランシェット家の跡継ぎにあらせられます」
「もういいです賢者様ありがとうございます!調子に乗るなシノ!」
今日は褒めてほしい人がたくさんいるなあ。いや、シノのやつはいつも通りか。
「俺のことは褒めないでくれ」
「わかりました」
ネロからの要望が飛んできた。聞き入れよう。
「次、中庭にはシャイロック、ムル、ラスティカ、クロエを配置します」
「頑張るよ!」
「最善を尽くします」
「彼らは経験値豊富、なおかつ細やかな魔法を得意としています。非常に安定した魔法を繰り出してくれます。また、ムルは魔法科学の産みの親です。兵団との共闘による相乗効果に期待です」
「おや、まとめて褒められましたね」
「わーい!花火出していい?」
「今はダメですよ、ムル」
西はいつだって西。彼らの存在に、私もどれだけ助けられたか。
「最奥にはオズ、アーサー、リケ、フィガロ、ルチル、ミチルを配置します。オズの傷の都合上、私は常にオズのそばにいることになっています。アーサーは賢者の魔法使いとしての参戦となりますのでご承知おきください」
自国の王子のことだからだろうか。中央の国の大臣達から深い頷きが返ってきた。
「フィガロは医療担当、ルチル、ミチル、リケはその補助となります。また、事前にミスラに王城周辺に結界を張ってもらいます」
「フィガロ先生のことも褒めて〜」
「優れた治癒魔法の使い手です。魔法使いのうち誰かが倒れた際には速やかに彼の元に運ぶことが必須となります。いるだけで頼もしいです」
「わあ熱烈」
「良かったですねフィガロ先生!」
人間たちは魔法使いの自由さに若干引き気味だ。すみません、これが弊魔法舎の愉快な仲間たちです。
「では、魔法科学兵団の配置についてです。これは賢者の魔法使いを補助することを念頭にーー」
疲れた。
死にかけるかと思った。
私はピアノ部屋のカウチに横になって目頭を抑える。あー疲れ目。
配置については、ここ一ヶ月近く使って考え抜いた。そのおかげか、要人達からの突っ込みもなし。魔法使いへの不信感が強い人はいたものの、賢者による魔力増強の魅力を語って黙らせた。オーエンが毎日要求してくるんだから、多分よほど心地がいいんだろう。
「……オーエン」
死地に送り込む予定の彼の名を呼ぶ。返答はない。だって下でおやつを食べているから。
私だって好きでこんなことしてるわけじゃない。本当はそばにいてほしい。殺したくない。死なせたくない。いくら彼が何度でも蘇る体を持つとはいえ、死ぬことに変わりはないから。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ああ、邪魔だ。
こんな想いは、あまりにも邪魔だ。
賢者としての役割を優先した私を糾弾する恋が、あまりにも。
あまりにも、胸を締め付けてくる。
この世界に来て、私は泣き虫になった。
誰もこない部屋で、何も鳴らない部屋で、独りで。
始まる戦いと終わる日々に向けて、ただただ泣いた。
昔読んだ漫画に書いてあった台詞を私は思い出した。
来てほしくない時ほど早く来るし、去ってほしくない時間ほど飛ぶように過ぎる。
目の前で翻る白いインバネスコートを見られるのは、その涼やかな声を聴けるのは、あと何回だろうか。
「……では、『大いなる厄災』対策会議を始めます。皆さん、よろしくお願いします」
「はい」
「ああ」
ここはグランウェル城の大会議室。
賢者、21人の魔法使い、魔法科学兵団団長、騎士団長、その他大臣等。
世界各地から集った要人達を前に、私は震えそうになる声を操って宣言した。
隣の国王代理も兼ねたアーサーが、「賢者様、お疲れ様でした」と労ってくれる。でも、本番はこれからなのだ。
「賢者の真木晶です。これより、主戦力となる賢者の魔法使い達の紹介に移ります。事前にお配りした資料をご覧ください」
・中央の国
オズ
アーサー・グランウェル
カイン・ナイトレイ
リケ・オルティス
・北の国
スノウ
ホワイト
ミスラ
オーエン
ブラッドリー・ベイン
・東の国
ファウスト・ラウィーニア
ネロ・ターナー
ヒースクリフ・ブランシェット
シノ・シャーウッド
・西の国
シャイロック・ベネット
ムル・ハート
ラスティカ・フェルチ
クロエ・コリンズ
・南の国
フィガロ・ガルシア
レノックス・ラム
ルチル・フローレス
ミチル・フローレス
資料にはそれぞれの名前に得意分野と苦手分野などを書き、魔力を数値にして記載した。
厄災の傷は許可をくれ、なおかつ戦闘に支障をきたすオズとスノウ、ホワイトが公開されている。ヒースクリフの傷は、秘匿されることとなった。
「次に、賢者についてです」
その次の資料には、私の情報を載せている。
身体スペックの低さがモロバレの、個人的にはなかなか悲しい文言だらけだ。
「この、『体液に魔力の増強効果あり』というのは?」
「言葉通りです。数度の実験の結果、私の体液には賢者の魔法使い達の魔力を増強する効果があることが確認されています。数日それを厄災の光に晒すと、さらに力が強まることも」
数度どころじゃないんですけどね!
「当日、それを利用することは?」
「可能です。フィガロが私の体液を既に回収し、魔法使い達が不快感なく摂取できるような形に錬成し直しています」
「錬成で効果が半減することは?」
「ありません。既に実験して確認済みです」
今現在、フィガロの部屋には瓶入りの私の唾液がある。恥ずか死にたいけどこれも世界のためです。耐えます。
「それで、配置は?」
「はい。次の資料をご覧ください」
ペラリ、と一斉に紙をめくる音がした。テスト中みたいだ。
「ホワイトの予言によると、今年の『大いなる厄災』は中央の国、グランウェル城周辺に落ちてくるとのことです。よって、城を中心にして魔法使いや兵を配置するのが妥当であると思われます」
資料には、机に広げられている地図の縮小版が添付されている。
今日は、この地図とそこに並べられた駒を動かして配置決めをするのだ。
ここで私は一旦席についた。後をアーサーが引き継ぐ。
「まず、今回はグランウェル城を避難所とするのは辞め、郊外に緊急避難所を建設することにしています。これはもう既に完成していて、王都の住民は既に移動を開始している模様です。前日までの全員避難が目標です」
要人達が頷く。
「各家庭への通達は完了。避難所までの特別臨時馬車を運行しています。現在、周辺住民の避難率は56%です」
「この避難所の防衛は?」
騎士団長が手を挙げた。
「我々が行きます」
地図の上にこちらの言葉で『騎士団』と書かれた駒が置かれる。うん、確かにここは人間の方がいいだろう。
「では城の背面の防衛は」
「それは魔法科学兵団が」
また駒が置かれる。今回は前面から迎え撃つ作戦だから、多分大丈夫。
この配置決めのために、ホワイトにめちゃくちゃ頑張って予言してもらったのだ。
「今回の厄災を迎撃する場所は、主に城の前面となります。よって、ここに賢者の魔法使いを配置していきます」
お疲れ様、アーサー。あとは私がいきます。
「最前線には、力が強く、経験値も豊富な北の魔法使いを中心に配置することにしました。まず、オーエン」
私の声は震えていなかっただろうか。この世界で最も温度を分け合った彼を、最も危険な死地に送る決定を下したのは私だ。
オーエンにそれを話した時、彼はそれを受け入れると言った。「おまえが言うなら仕方ない」と。
「でも、おまえが一番大切なものをもらう」とも、彼は告げた。まだ、私は何も渡せていない。
「そして、ブラッドリー、ミスラ。ブラッドリーは後方に魔力強化もお願いしたいので、少し下がった位置にいてください」
駒が配置されていく。こちらの言語で書かれた美しい名前から、目が離せない。
「そもそも基礎的な魔力が豊富で、なおかつ実戦に優れた面子です。正直に申し上げるととても強いです」
「もっと褒めてください」
「賢者の魔法使いの中でも戦闘に長けた、申し分のない実力者達です」
すかさずコールを入れたミスラに応える。
「まだいけるだろ?」
「世界トップクラスの天才的な能力を持つ、私の自慢の魔法使い達です」
「満足した」
よし。まあこの人達はここまで言っても足りないほど強いしな。当日は頑張ってくれ。
「次、前庭の辺りにファウスト、レノックス、ヒースクリフ、シノ、ネロ、カイン」
「任せろ」
レノックスは、事前にファウストの近くに配置するように願い出てきた。過去の革命が理由だろう。庭が主戦場となるだろうから、人員も多めだ。
「ファウストは前線での指揮に、シノは森林内での戦闘に長けています。万が一魔法が使えなくなった場合はレノックスの戦闘能力がかなり役に立ちます。カインについては皆さんご存知かと」
「賢者、ヒースも褒めてくれ」
「ヒースクリフは器用で周りがよく見える長所があります。各人の見落としをカバーしつつ、かつシノと息のあった攻撃が期待できます」
「顔も褒めてくれ」
「ご覧の通り、非常に整った見目をしておられます。内面はそれ以上に清廉です」
「家も褒めてくれ」
「東の国の武門の名門、ブランシェット家の跡継ぎにあらせられます」
「もういいです賢者様ありがとうございます!調子に乗るなシノ!」
今日は褒めてほしい人がたくさんいるなあ。いや、シノのやつはいつも通りか。
「俺のことは褒めないでくれ」
「わかりました」
ネロからの要望が飛んできた。聞き入れよう。
「次、中庭にはシャイロック、ムル、ラスティカ、クロエを配置します」
「頑張るよ!」
「最善を尽くします」
「彼らは経験値豊富、なおかつ細やかな魔法を得意としています。非常に安定した魔法を繰り出してくれます。また、ムルは魔法科学の産みの親です。兵団との共闘による相乗効果に期待です」
「おや、まとめて褒められましたね」
「わーい!花火出していい?」
「今はダメですよ、ムル」
西はいつだって西。彼らの存在に、私もどれだけ助けられたか。
「最奥にはオズ、アーサー、リケ、フィガロ、ルチル、ミチルを配置します。オズの傷の都合上、私は常にオズのそばにいることになっています。アーサーは賢者の魔法使いとしての参戦となりますのでご承知おきください」
自国の王子のことだからだろうか。中央の国の大臣達から深い頷きが返ってきた。
「フィガロは医療担当、ルチル、ミチル、リケはその補助となります。また、事前にミスラに王城周辺に結界を張ってもらいます」
「フィガロ先生のことも褒めて〜」
「優れた治癒魔法の使い手です。魔法使いのうち誰かが倒れた際には速やかに彼の元に運ぶことが必須となります。いるだけで頼もしいです」
「わあ熱烈」
「良かったですねフィガロ先生!」
人間たちは魔法使いの自由さに若干引き気味だ。すみません、これが弊魔法舎の愉快な仲間たちです。
「では、魔法科学兵団の配置についてです。これは賢者の魔法使いを補助することを念頭にーー」
疲れた。
死にかけるかと思った。
私はピアノ部屋のカウチに横になって目頭を抑える。あー疲れ目。
配置については、ここ一ヶ月近く使って考え抜いた。そのおかげか、要人達からの突っ込みもなし。魔法使いへの不信感が強い人はいたものの、賢者による魔力増強の魅力を語って黙らせた。オーエンが毎日要求してくるんだから、多分よほど心地がいいんだろう。
「……オーエン」
死地に送り込む予定の彼の名を呼ぶ。返答はない。だって下でおやつを食べているから。
私だって好きでこんなことしてるわけじゃない。本当はそばにいてほしい。殺したくない。死なせたくない。いくら彼が何度でも蘇る体を持つとはいえ、死ぬことに変わりはないから。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ああ、邪魔だ。
こんな想いは、あまりにも邪魔だ。
賢者としての役割を優先した私を糾弾する恋が、あまりにも。
あまりにも、胸を締め付けてくる。
この世界に来て、私は泣き虫になった。
誰もこない部屋で、何も鳴らない部屋で、独りで。
始まる戦いと終わる日々に向けて、ただただ泣いた。