第一部
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クソほど良いお目覚めですねおはようございます!
昨日も死ねませんでした!死んで謝罪します!
お察しの通り疲れてます!
「……はあ」
のそのそと服に着替えてため息をついた。無理。死にたい。次の瞬間の呼吸が憂鬱すぎる。無理矢理テンションを上げて乗り切ろうと思ったけどダメだった。
この洋服はクロエが作ってくれたものだ。西の魔法使いである彼は、そうとは思えないほどに協調性や普遍的な価値観を身につけている。たまに「南っぽいな?」と感じるほどだ。
でもこの服にも見られる彼ならではの工夫やデザインが、経済発展を大きく遂げた西の息吹を感じさせる。とにかくお洒落で最新鋭なのだ。
本日は赤い花の刺繍入りのブラウスに濃紺のスカート。さりげなく裾には同じ模様が入っている。シルエットはごくシンプルなものだけど、ゆったりととられているタックやプリーツのおかげで動きやすく華やかだ。
靴はいつも通りのショートブーツ、髪は適当に梳かしてそのまま。短かったのが中途半端に伸びて鬱陶しい。
化粧品は全く持っていないのでノーメイクだ。美しい見目をした魔法使い達の前にすっぴんとか本当に死にたい。殺してくれ。
外に出ると、階下から笑い声が聞こえた。
自分のことではないとわかっていても、私は人のそれを苦手としている。この自意識過剰さが申し訳なさ過ぎて死にたい。
「行かなきゃ……」
やっぱり、朝の食堂は人が多い。
「おはよ、賢者さん」
いつも通りキッチンに立っていたネロがほい、とプレートを渡してくれた。サンドイッチにスープ。挟まっているお肉がいかにも美味しそうで食欲をそそる。
適当な席に座ってもそもそやっていると、隣にオーエンがするりと座ってきた。じいっとこちらを見ている。
「……なんですか」
「可哀想な賢者様。また死ねなかったんだね」
「毒はよく効いたんですけどね」
「そうみたいだね」
クスクスと笑う彼は、なんと私と同じプレートと一緒にボウルにクリームを山ほど入れて持ってきていた。朝からよく食べるなあ。
「何。クリームはあげないよ」
「食べないのでもらいませんよ」
「なんだ。じゃああげる」
「あら〜……」
皿の隅にちょこんと盛られた白いふわふわ。すくって口に入れると予想通りの甘さが口を襲った。
「あまっ」
「美味しいでしょ」
「美味しいです」
オーエン、マリトッツォとか好きそうだな。
食べるかな。クリーム足りないとか言い出す気もしなくはないけども。
「賢者様、今日何するの」
「なんでオーエンに教えるんですか?」
「殺しに行ってあげる」
「それは有難いですね。今日はなんの予定もないですから、ご飯食べ終わったらいつでもいいですよ」
そう、今日は休日。とんでもなく暇。
一応賢者という世界の要人であるが故に、一人で自由に外に出ることはできない。休みを貰っても常に二十一人のイケメン魔法使いのうち誰かと行動しなくてはならないのだ。
嗚呼すり減る我が神経よ。お前はよく耐えている。たまには一人でいたいよな。
でもそれも日頃私を頼ってくれる彼らのため、大いなる厄災の脅威から世界を守るため。取り敢えずフィガロ先生のシュガーがお守りです。ビバ精神安定。
「ご馳走様でした……」
きちんと全て食べ切ると、隣のオーエンは席を立った。
「ねえ、賢者様」
「なんですか?」
「そっちの世界には、どんな甘いものがあったの」
「マリトッツォですかね」
「何それ。変な名前」
「デニッシュにクリームを山ほど挟んだ流行りのお菓子ですよ。私がいた国のものではないんですけど、美味しいですよ」
「デニッシュにクリーム……」
彼はほう、と目を見開いた。陽の光を受けた色違いの瞳が輝く。
「賢者様」
「なんですか?」
「部屋に行こう」
「部屋?私のですか?」
銀色の髪がふわりと揺れた。頷いたのだ。
「わかりました」
部屋に辿り着くと、彼は私に無断で静かに鍵を閉めた。魔法で閉められたから、他の魔法使いでもなかなか開けられないだろう。オズなら余裕だけど。
「こっち来て」
「はい」
オーエンは手を広げた。え?そこですか?
ピシッと固まった私を見て彼は舌打ちした。ぐっと腕を引かれて、後ろから抱きしめられる形になる。
「ぐぇっ」
「大人しくしてなよ」
目の上に手が覆い被さる。漂う香りは甘いお菓子と、冷たく澄んだオーエン本来の匂いだ。
「さっきのお菓子のこと考えて。《クーレ・メミニ》」
すうっと何かが頭に入り込んでいく。これは記憶を読み取る魔法だな。
一分ほど呼吸すら潜めて大人しくマリトッツォのことを思っていると、オーエンは納得したように頷いてそっと私を離した。
「美味しそうだね。作ってもらってくる」
「あ、そうですね、はい」
さすがにびっくりした。
マリトッツォのことを聞くのがめんどくさいから魔法を使ったのだと思い至って、改めて「便利だな……」と彼らの持つ能力に憧れを抱いた。
「これあげる。じゃあね、賢者様」
「ありがとうございます」
ぽん、と掌に出されたのは、なんとオーエンのシュガー。レア物では?!と目を丸くしているうちに、彼はふわりとマントを翻して消えた。
「もしもし、賢者や」
「賢者よ」
その後、夕食を受け取って席に着いた途端にスノウとホワイトに話しかけられた。
小さな体が私を挟み込むように腰かけ、大きな二対の瞳がこちらを覗き込む。
「こんばんは」
「「こんばんは」」
よくハモる双子だ。さすが。
「賢者は今日ずっとオーエンといたのかの?」
「え、朝しか一緒にいませんでしたけど……」
「そのわりにはオーエンの魔法の気配がするのお」
「何か魔法をかけられたのかえ?」
そっくりな顔が代わる代わる話すのをまるで劇でも見ているような気持ちで見ていると、彼らが私の両肩に同時に手をかけた。ほぼ完全に左右対称の構図の完成だ。
「多分、記憶を読み取る魔法をかけられたと思います……あとシュガーもらいました」
素直にそう言うと、彼らは顔を見合せた。驚くのも無理はない、オーエンのシュガーはレアだから。
「賢者はオーエンちゃんと仲良しじゃのう」
「そうじゃのう」
何かを勘違いなさったのだろうか。にやにやしている。
「 仲良しでは多分ないですよ」
「仲良しじゃろう?」
「今朝も隣同士でご飯食べてたし」
「おやつに食べてたあのお菓子は賢者から教わったって言ってたし」
ああ本当に作ってもらったんだ……と私は厨房でリケにお代わりを盛るネロを見た。お疲れ様でした。
「これからもオーエンちゃんをよろしく頼むの、賢者」
二人はそう言って去っていく。既に揃って夕食は終えていて、食後に私に話しかけていたらしい。
「よろしく頼む」と言われましてもねえ、と私は肩を竦めた。こちらもなんで彼がしょっちゅう話しかけてくるのか、全然わからないのだから。
昨日も死ねませんでした!死んで謝罪します!
お察しの通り疲れてます!
「……はあ」
のそのそと服に着替えてため息をついた。無理。死にたい。次の瞬間の呼吸が憂鬱すぎる。無理矢理テンションを上げて乗り切ろうと思ったけどダメだった。
この洋服はクロエが作ってくれたものだ。西の魔法使いである彼は、そうとは思えないほどに協調性や普遍的な価値観を身につけている。たまに「南っぽいな?」と感じるほどだ。
でもこの服にも見られる彼ならではの工夫やデザインが、経済発展を大きく遂げた西の息吹を感じさせる。とにかくお洒落で最新鋭なのだ。
本日は赤い花の刺繍入りのブラウスに濃紺のスカート。さりげなく裾には同じ模様が入っている。シルエットはごくシンプルなものだけど、ゆったりととられているタックやプリーツのおかげで動きやすく華やかだ。
靴はいつも通りのショートブーツ、髪は適当に梳かしてそのまま。短かったのが中途半端に伸びて鬱陶しい。
化粧品は全く持っていないのでノーメイクだ。美しい見目をした魔法使い達の前にすっぴんとか本当に死にたい。殺してくれ。
外に出ると、階下から笑い声が聞こえた。
自分のことではないとわかっていても、私は人のそれを苦手としている。この自意識過剰さが申し訳なさ過ぎて死にたい。
「行かなきゃ……」
やっぱり、朝の食堂は人が多い。
「おはよ、賢者さん」
いつも通りキッチンに立っていたネロがほい、とプレートを渡してくれた。サンドイッチにスープ。挟まっているお肉がいかにも美味しそうで食欲をそそる。
適当な席に座ってもそもそやっていると、隣にオーエンがするりと座ってきた。じいっとこちらを見ている。
「……なんですか」
「可哀想な賢者様。また死ねなかったんだね」
「毒はよく効いたんですけどね」
「そうみたいだね」
クスクスと笑う彼は、なんと私と同じプレートと一緒にボウルにクリームを山ほど入れて持ってきていた。朝からよく食べるなあ。
「何。クリームはあげないよ」
「食べないのでもらいませんよ」
「なんだ。じゃああげる」
「あら〜……」
皿の隅にちょこんと盛られた白いふわふわ。すくって口に入れると予想通りの甘さが口を襲った。
「あまっ」
「美味しいでしょ」
「美味しいです」
オーエン、マリトッツォとか好きそうだな。
食べるかな。クリーム足りないとか言い出す気もしなくはないけども。
「賢者様、今日何するの」
「なんでオーエンに教えるんですか?」
「殺しに行ってあげる」
「それは有難いですね。今日はなんの予定もないですから、ご飯食べ終わったらいつでもいいですよ」
そう、今日は休日。とんでもなく暇。
一応賢者という世界の要人であるが故に、一人で自由に外に出ることはできない。休みを貰っても常に二十一人のイケメン魔法使いのうち誰かと行動しなくてはならないのだ。
嗚呼すり減る我が神経よ。お前はよく耐えている。たまには一人でいたいよな。
でもそれも日頃私を頼ってくれる彼らのため、大いなる厄災の脅威から世界を守るため。取り敢えずフィガロ先生のシュガーがお守りです。ビバ精神安定。
「ご馳走様でした……」
きちんと全て食べ切ると、隣のオーエンは席を立った。
「ねえ、賢者様」
「なんですか?」
「そっちの世界には、どんな甘いものがあったの」
「マリトッツォですかね」
「何それ。変な名前」
「デニッシュにクリームを山ほど挟んだ流行りのお菓子ですよ。私がいた国のものではないんですけど、美味しいですよ」
「デニッシュにクリーム……」
彼はほう、と目を見開いた。陽の光を受けた色違いの瞳が輝く。
「賢者様」
「なんですか?」
「部屋に行こう」
「部屋?私のですか?」
銀色の髪がふわりと揺れた。頷いたのだ。
「わかりました」
部屋に辿り着くと、彼は私に無断で静かに鍵を閉めた。魔法で閉められたから、他の魔法使いでもなかなか開けられないだろう。オズなら余裕だけど。
「こっち来て」
「はい」
オーエンは手を広げた。え?そこですか?
ピシッと固まった私を見て彼は舌打ちした。ぐっと腕を引かれて、後ろから抱きしめられる形になる。
「ぐぇっ」
「大人しくしてなよ」
目の上に手が覆い被さる。漂う香りは甘いお菓子と、冷たく澄んだオーエン本来の匂いだ。
「さっきのお菓子のこと考えて。《クーレ・メミニ》」
すうっと何かが頭に入り込んでいく。これは記憶を読み取る魔法だな。
一分ほど呼吸すら潜めて大人しくマリトッツォのことを思っていると、オーエンは納得したように頷いてそっと私を離した。
「美味しそうだね。作ってもらってくる」
「あ、そうですね、はい」
さすがにびっくりした。
マリトッツォのことを聞くのがめんどくさいから魔法を使ったのだと思い至って、改めて「便利だな……」と彼らの持つ能力に憧れを抱いた。
「これあげる。じゃあね、賢者様」
「ありがとうございます」
ぽん、と掌に出されたのは、なんとオーエンのシュガー。レア物では?!と目を丸くしているうちに、彼はふわりとマントを翻して消えた。
「もしもし、賢者や」
「賢者よ」
その後、夕食を受け取って席に着いた途端にスノウとホワイトに話しかけられた。
小さな体が私を挟み込むように腰かけ、大きな二対の瞳がこちらを覗き込む。
「こんばんは」
「「こんばんは」」
よくハモる双子だ。さすが。
「賢者は今日ずっとオーエンといたのかの?」
「え、朝しか一緒にいませんでしたけど……」
「そのわりにはオーエンの魔法の気配がするのお」
「何か魔法をかけられたのかえ?」
そっくりな顔が代わる代わる話すのをまるで劇でも見ているような気持ちで見ていると、彼らが私の両肩に同時に手をかけた。ほぼ完全に左右対称の構図の完成だ。
「多分、記憶を読み取る魔法をかけられたと思います……あとシュガーもらいました」
素直にそう言うと、彼らは顔を見合せた。驚くのも無理はない、オーエンのシュガーはレアだから。
「賢者はオーエンちゃんと仲良しじゃのう」
「そうじゃのう」
何かを勘違いなさったのだろうか。にやにやしている。
「 仲良しでは多分ないですよ」
「仲良しじゃろう?」
「今朝も隣同士でご飯食べてたし」
「おやつに食べてたあのお菓子は賢者から教わったって言ってたし」
ああ本当に作ってもらったんだ……と私は厨房でリケにお代わりを盛るネロを見た。お疲れ様でした。
「これからもオーエンちゃんをよろしく頼むの、賢者」
二人はそう言って去っていく。既に揃って夕食は終えていて、食後に私に話しかけていたらしい。
「よろしく頼む」と言われましてもねえ、と私は肩を竦めた。こちらもなんで彼がしょっちゅう話しかけてくるのか、全然わからないのだから。