第一部
夢小説設定
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オーエンは本当に音楽が好きなんだな、と私は他人事のように思った。
隣で楽しげに黒鍵を押す整った横顔を盗み見ながら、私はコードを叩いていく。
彼はなかなかセンスがあるようで、少し弾いているとすぐに伴奏と合う音を見つけ出していた。歌も上手いし、元々才能があるのかもしれない。
開かれた窓の枠に小鳥が一羽とまっている。それを確認したオーエンが何かを話しかけ、さらに跳ねるように音が上がる。
それに合わせて私も指を動かしていく。舞うように、散るように。
どうもこの小鳥はこの部屋の常連らしい。オーエン曰く、「ぴょこぴょこ跳ねる音が好きな、お調子者でお喋り好きな子」だという。ちなみに女の子。
私には区別がつかないんだけど、やはり会話ができる彼は違うらしい。性格が違うからすぐにわかるのだろう。羨ましい。
「満足したみたい」
演奏を止めたオーエンの指に小鳥が飛び移る。えーんかわいい。
「ピィ!」
「おまえのこと褒めてるよ。上手いってさ」
「ふふ。ありがとうございます」
「鳥の間では評判なんだって。おまえは色々な曲を弾くし、自分たちを追い払わないって」
細い指に乗る小鳥、それを愛でるイケメン。
なんじゃこの絵画……リアルか……。
「ほら、もっと弾いて、賢者様」
「はい」
クープランの墓からトッカータを選んだ。難しいけど私ならいける。多分。
「……へえ」
鳥もオーエンも満足そうだ。良かった良かった。
「ねえ賢者様」
「はい?」
「賢者様は、どのくらいピアノをやってるの?」
「わかりません。物心ついた時にはもう弾いてました」
一番古い記憶はバイエルを弾いてる途中に手を叩かれたことだと思う。地獄でしかない。
あの頃から私の世界の音は闇に属するようになってしまった。
「ふうん……」
彼は小鳥を放した。かわいらしい鳴き声と共に飛び去っていく姿を、ぼんやりと見送っている。
「ねえ賢者様、僕にもピアノを教えてよ」
「ピアノを?」
「うん。賢者様がいなくなったら、鳥たちがうるさそうだから」
「ああ……」
ピアノを弾く役割を引き継ぐと言いたいのだろう。動物に優しい彼らしい。
「いいですよ。何が弾きたいですか?」
「どれが簡単なの?」
「うーん」
頭の中を検索して、初心者にも弾けそうな譜面をピックアップしていく。
「ラヴァーズ・コンチェルトとかどうです?」
「なにそれ」
「弾いてみますね」
ピアノを習うならちょうどいい、初級難易度の曲だ。可愛らしい旋律で、私も昔はよく弾いた。
全く初めてという人にとっては少し難しいかもしれないけど、オーエンの音感なら大丈夫だろう。
「こんな感じです」
「へえ。僕にも弾けそう」
「お、そうですか」
「その前に楽譜用の紙買いに行こう。読み方とか知りたいし」
「あ、そうですね」
オーエンが箒を出す。普段は彼の後ろに座って背中に手を回す形をとるのだけど、今日はどうやら違うらしい。
「ほら、乗って」
「はい」
先に私を乗せて彼が後ろに跨る。そしてそのまま手が前にまわり、箒の柄を掴んでいた私の手に覆い被さる。
「行こうか」
「はい」
わーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんじゃこりゃ!いつものタンデムで良かったんですよ?!?!?!
てか本当に顔が良ければ声もいいですねあなた!耳元で囁くのやめていただけると助かりますね!
「今日ちょっと寒いね」
「そうですねえ」
確かに上空の方は冷える。でも私は自分の手の熱が気になる。オーエンのは冷たいけども。
文房具店で楽譜用の紙を買って、また市場に寄る。オーエンは再び小箱を買い求めていた。
今度は薄桃色に金色の装飾つきで、前より少しサイズが大きい。ロココというのだろうか。品のいいかわいらしいデザインだった。
「オーエンは前も箱を買ってましたけど、何を入れてるんですか?」
「内緒」
小さく微笑む。
「でも、いいものだよ」
「そうですか。なら良かったです」
その微笑みがあまりに優しくて、思わずこちらが赤面しそうになってしまう。
「……オーエン」
「ん?」
「いえ、なんでも」
「なんだよそれ」
彼が内緒なら、私も内緒だ。
わざわざ伝える必要もないだろう。こんなのは。
魔法舎に戻ると、ちょうどネロがケーキを完成させたところだった。
「ほらよ、お二人さん」
「ありがとうございます」
「わあい」
流石オーエン、お礼すら言わない。でもネロは「喜んでもらえて良かったよ」と笑っているからいいのか。
「これ賢者様の分ね」
本当に両手を広げるほど大きいケーキのほんの端っこを切って渡される。いやそれでも通常の1ピースくらいはあるけど。
さらりとオーエンが手をかざすと、謎のラメのようなものがキラキラとケーキに降りかかる。それもすぐに消えた。
「いただきます」
「なにそれ?」
「元の世界にある挨拶です」
「へえ」
興味無さそうな返事をして、ケーキを口に放り込む。
長い睫毛に飛ぶのも気にせずダイナミックに食べるものだから、こちらが心配になってしまう。
というかこれパフェ超えのスイーツファイトじゃん。オーエン余裕そうだけど。
「美味しいですね」
「うん。美味しい」
とんでもないスピードでケーキが消えていく。
ここまでくると気持ちがいいな。
「ねえ賢者様」
「赤、やっぱり似合うよ」
「ありがとうございます」
彼は笑って、ジャムとクリームを口に押し込んだ。
隣で楽しげに黒鍵を押す整った横顔を盗み見ながら、私はコードを叩いていく。
彼はなかなかセンスがあるようで、少し弾いているとすぐに伴奏と合う音を見つけ出していた。歌も上手いし、元々才能があるのかもしれない。
開かれた窓の枠に小鳥が一羽とまっている。それを確認したオーエンが何かを話しかけ、さらに跳ねるように音が上がる。
それに合わせて私も指を動かしていく。舞うように、散るように。
どうもこの小鳥はこの部屋の常連らしい。オーエン曰く、「ぴょこぴょこ跳ねる音が好きな、お調子者でお喋り好きな子」だという。ちなみに女の子。
私には区別がつかないんだけど、やはり会話ができる彼は違うらしい。性格が違うからすぐにわかるのだろう。羨ましい。
「満足したみたい」
演奏を止めたオーエンの指に小鳥が飛び移る。えーんかわいい。
「ピィ!」
「おまえのこと褒めてるよ。上手いってさ」
「ふふ。ありがとうございます」
「鳥の間では評判なんだって。おまえは色々な曲を弾くし、自分たちを追い払わないって」
細い指に乗る小鳥、それを愛でるイケメン。
なんじゃこの絵画……リアルか……。
「ほら、もっと弾いて、賢者様」
「はい」
クープランの墓からトッカータを選んだ。難しいけど私ならいける。多分。
「……へえ」
鳥もオーエンも満足そうだ。良かった良かった。
「ねえ賢者様」
「はい?」
「賢者様は、どのくらいピアノをやってるの?」
「わかりません。物心ついた時にはもう弾いてました」
一番古い記憶はバイエルを弾いてる途中に手を叩かれたことだと思う。地獄でしかない。
あの頃から私の世界の音は闇に属するようになってしまった。
「ふうん……」
彼は小鳥を放した。かわいらしい鳴き声と共に飛び去っていく姿を、ぼんやりと見送っている。
「ねえ賢者様、僕にもピアノを教えてよ」
「ピアノを?」
「うん。賢者様がいなくなったら、鳥たちがうるさそうだから」
「ああ……」
ピアノを弾く役割を引き継ぐと言いたいのだろう。動物に優しい彼らしい。
「いいですよ。何が弾きたいですか?」
「どれが簡単なの?」
「うーん」
頭の中を検索して、初心者にも弾けそうな譜面をピックアップしていく。
「ラヴァーズ・コンチェルトとかどうです?」
「なにそれ」
「弾いてみますね」
ピアノを習うならちょうどいい、初級難易度の曲だ。可愛らしい旋律で、私も昔はよく弾いた。
全く初めてという人にとっては少し難しいかもしれないけど、オーエンの音感なら大丈夫だろう。
「こんな感じです」
「へえ。僕にも弾けそう」
「お、そうですか」
「その前に楽譜用の紙買いに行こう。読み方とか知りたいし」
「あ、そうですね」
オーエンが箒を出す。普段は彼の後ろに座って背中に手を回す形をとるのだけど、今日はどうやら違うらしい。
「ほら、乗って」
「はい」
先に私を乗せて彼が後ろに跨る。そしてそのまま手が前にまわり、箒の柄を掴んでいた私の手に覆い被さる。
「行こうか」
「はい」
わーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんじゃこりゃ!いつものタンデムで良かったんですよ?!?!?!
てか本当に顔が良ければ声もいいですねあなた!耳元で囁くのやめていただけると助かりますね!
「今日ちょっと寒いね」
「そうですねえ」
確かに上空の方は冷える。でも私は自分の手の熱が気になる。オーエンのは冷たいけども。
文房具店で楽譜用の紙を買って、また市場に寄る。オーエンは再び小箱を買い求めていた。
今度は薄桃色に金色の装飾つきで、前より少しサイズが大きい。ロココというのだろうか。品のいいかわいらしいデザインだった。
「オーエンは前も箱を買ってましたけど、何を入れてるんですか?」
「内緒」
小さく微笑む。
「でも、いいものだよ」
「そうですか。なら良かったです」
その微笑みがあまりに優しくて、思わずこちらが赤面しそうになってしまう。
「……オーエン」
「ん?」
「いえ、なんでも」
「なんだよそれ」
彼が内緒なら、私も内緒だ。
わざわざ伝える必要もないだろう。こんなのは。
魔法舎に戻ると、ちょうどネロがケーキを完成させたところだった。
「ほらよ、お二人さん」
「ありがとうございます」
「わあい」
流石オーエン、お礼すら言わない。でもネロは「喜んでもらえて良かったよ」と笑っているからいいのか。
「これ賢者様の分ね」
本当に両手を広げるほど大きいケーキのほんの端っこを切って渡される。いやそれでも通常の1ピースくらいはあるけど。
さらりとオーエンが手をかざすと、謎のラメのようなものがキラキラとケーキに降りかかる。それもすぐに消えた。
「いただきます」
「なにそれ?」
「元の世界にある挨拶です」
「へえ」
興味無さそうな返事をして、ケーキを口に放り込む。
長い睫毛に飛ぶのも気にせずダイナミックに食べるものだから、こちらが心配になってしまう。
というかこれパフェ超えのスイーツファイトじゃん。オーエン余裕そうだけど。
「美味しいですね」
「うん。美味しい」
とんでもないスピードでケーキが消えていく。
ここまでくると気持ちがいいな。
「ねえ賢者様」
「赤、やっぱり似合うよ」
「ありがとうございます」
彼は笑って、ジャムとクリームを口に押し込んだ。