第一部
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芸事には練習が不可欠。
これの類義語として「太陽は東から登る」がある。つまり、極めて当然、当たり前ということだ。
そんなことで、私は今日は一人でピアノの前に座っている。オーエンは今日は任務ということで先程双子に引きずられて行った。頑張れ。
まずはオーエンが好む曲からさらっていく。
左手が大運動会するような激しく音が多い曲をリクエストされることが多いから、結構大変なのだ。
毎日二時間みっちり弾いてるけど、半年近いブランクはやはり大きい。音の粒は揃わないし、まだまだ表現がなってない。
「んー……」
まだオーエンに披露してない曲はたくさんあった。クラシックもJ-popも洋楽も。
まず『2002』。連打が多く、リズムを取るのが難しい。でも歌詞は素敵だし、サビの盛り上がりが好みだ。英語が伝わるか不安で、まだ弾けていない。
次に『Attitude』。単純にこれはチャンスがなくて弾けていなかったものだ。指が全て覚えているから、次の機会に弾こう。
披露できていない曲は、恋愛の曲が多い。
何となく、ここには持ち込んではいけない気がしていた。
歌詞の意味を教えるのを恒例化しなければよかったのだ。それか、変に意識をせず、早めに出せばよかった。
今はもう、彼の前で弾こうとするとダメになってしまう。
私があと半年でいなくなるからか、彼から意味を問われるのが怖かったからか。
愛を馬鹿だと悲しむ彼に、嗤われるのが怖いからか。
『First Love』なんて特に弾けない。練習だから何とかなったけど、きっとオーエンの前で弾いたら泣き出してしまうだろう。
明日の今頃にはあなたはどこにいるんだろう。
多分ここにいる。
誰を想ってるんだろう。
多分誰のことも想わない。きっと彼に、そういう感情はない。
約束された明日は怖くもある。今日を投げ出せなくなるから。
でも私はオーエンとピアノを弾くから、死ねない。あの小箱に入れられる音が途切れると、彼は多分いい気持ちをしない。
「なんかめちゃくちゃ感情入ったな……」
旋律が綺麗だからか。これ本当にオーエンいなくて良かったな。
次の曲も、絶対に弾けない。
技術的には難しくはない。でも、あまりにも悲しい。
同じフレーズを繰り返すサビに変化を加えながら弾いていく。
あなたを信じてる。何気ない朝でも私には記念日。
私には信じられる人はいないけど、記念になる朝ならあった。
血に濡れて寒い朝だったけど、私もいつか忘れてしまうのだろうか。半年後に私を消す、この世界のように。
視界が歪む。
ああ久しぶりに泣いたな、と思った。
何とか弾ききって顔に手を当てる。ここは泣いていても誰もこない。オーエンが結界を張ってるから。
ああ嫌だ。どうせ私はいなくなるのに。
開いた窓から「ミスラおじさん!」と呼ぶルチルの声が聞こえる。ああ、帰ってきたんだ。
気づけばもう夕方になっていたらしい。空があの左目の色に染まる。
私はカウチに移動した。ごろりと横になって、背を丸める。
ああ、多分もうすぐに彼はここにくる。そして横になる私を叩き起してピアノを弾くように言うのだろう。
その時にも私は恋愛の曲は弾けなくて、当たり障りのない素敵な音を出して、そして夕ご飯を食べて、そして、それで。
瞼を閉じる。今はなんの情報も入れたくなかった。
戸が開く音。
体に何かがふわりとかかって、誰かが何かを呟く。
「ねえ、」と、誰かが私を呼ぶ。
「どうして、泣いていたの」
これの類義語として「太陽は東から登る」がある。つまり、極めて当然、当たり前ということだ。
そんなことで、私は今日は一人でピアノの前に座っている。オーエンは今日は任務ということで先程双子に引きずられて行った。頑張れ。
まずはオーエンが好む曲からさらっていく。
左手が大運動会するような激しく音が多い曲をリクエストされることが多いから、結構大変なのだ。
毎日二時間みっちり弾いてるけど、半年近いブランクはやはり大きい。音の粒は揃わないし、まだまだ表現がなってない。
「んー……」
まだオーエンに披露してない曲はたくさんあった。クラシックもJ-popも洋楽も。
まず『2002』。連打が多く、リズムを取るのが難しい。でも歌詞は素敵だし、サビの盛り上がりが好みだ。英語が伝わるか不安で、まだ弾けていない。
次に『Attitude』。単純にこれはチャンスがなくて弾けていなかったものだ。指が全て覚えているから、次の機会に弾こう。
披露できていない曲は、恋愛の曲が多い。
何となく、ここには持ち込んではいけない気がしていた。
歌詞の意味を教えるのを恒例化しなければよかったのだ。それか、変に意識をせず、早めに出せばよかった。
今はもう、彼の前で弾こうとするとダメになってしまう。
私があと半年でいなくなるからか、彼から意味を問われるのが怖かったからか。
愛を馬鹿だと悲しむ彼に、嗤われるのが怖いからか。
『First Love』なんて特に弾けない。練習だから何とかなったけど、きっとオーエンの前で弾いたら泣き出してしまうだろう。
明日の今頃にはあなたはどこにいるんだろう。
多分ここにいる。
誰を想ってるんだろう。
多分誰のことも想わない。きっと彼に、そういう感情はない。
約束された明日は怖くもある。今日を投げ出せなくなるから。
でも私はオーエンとピアノを弾くから、死ねない。あの小箱に入れられる音が途切れると、彼は多分いい気持ちをしない。
「なんかめちゃくちゃ感情入ったな……」
旋律が綺麗だからか。これ本当にオーエンいなくて良かったな。
次の曲も、絶対に弾けない。
技術的には難しくはない。でも、あまりにも悲しい。
同じフレーズを繰り返すサビに変化を加えながら弾いていく。
あなたを信じてる。何気ない朝でも私には記念日。
私には信じられる人はいないけど、記念になる朝ならあった。
血に濡れて寒い朝だったけど、私もいつか忘れてしまうのだろうか。半年後に私を消す、この世界のように。
視界が歪む。
ああ久しぶりに泣いたな、と思った。
何とか弾ききって顔に手を当てる。ここは泣いていても誰もこない。オーエンが結界を張ってるから。
ああ嫌だ。どうせ私はいなくなるのに。
開いた窓から「ミスラおじさん!」と呼ぶルチルの声が聞こえる。ああ、帰ってきたんだ。
気づけばもう夕方になっていたらしい。空があの左目の色に染まる。
私はカウチに移動した。ごろりと横になって、背を丸める。
ああ、多分もうすぐに彼はここにくる。そして横になる私を叩き起してピアノを弾くように言うのだろう。
その時にも私は恋愛の曲は弾けなくて、当たり障りのない素敵な音を出して、そして夕ご飯を食べて、そして、それで。
瞼を閉じる。今はなんの情報も入れたくなかった。
戸が開く音。
体に何かがふわりとかかって、誰かが何かを呟く。
「ねえ、」と、誰かが私を呼ぶ。
「どうして、泣いていたの」