ボクがボクであるとき
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「じゃあまずは七瀬くんとなまえちゃんが、九条くんと再会するシーンから」
今回のドラマは三人ともわりと本来の自分と似たようなキャラクターだ。
特に難しい役どころもなく、自然な演技を心がける。
『どうして私達の前からいなくなったの』
──ドキっとした。
『黙っていなくなるなんて!それで私達がどんな気持ちだったか!』
「…あ、」
「はい、カット!七瀬くん、セリフ飛んじゃってるよー?」
「すみません!もう1回お願いします!」
陸のNGによってカットされたが、現場の空気は異様なものだった。
飲み込まれる、という表現がピッタリで、なまえの演技に全員が引き込まれているのが感じてとれた。
彼女はそういう人だった。
ひとたび演じれば空気はガラリと変わり、みんながそれに引っ張られていく。
さっき言ったことはお世辞でもなんでもなく、ボクはずっと彼女の演技力に一目置いていた。
「陸、飲み込まれないで」
「天にぃ…」
「彼女はこと演技に関して言えばモンスターだ。怯んだらそこで喰われる。陸は陸の役を見失わずに演じて」
そう耳打ちすると小さく「ありがとう」と返ってくる。
陸はあまり演技経験はないと思うが、メンバー内にも彼女と似たようなのがいるはずだ───二階堂大和。
そんな人物をいつも間近で見ているんだから、きっと対応できるはず。
そんな期待通り、シリアスなシーンを無事切り抜けると今度は仲良し三人組、賑やかなシーンはトントン拍子で進んでいく。
『りっくん、そのお菓子ちょうだい!』
「いいよ!なまえちゃんのも貰うね!」
……………なんだか仲良くなりすぎじゃないだろうか。
休憩時間には仲良くお菓子交換なんかしちゃって、ていうかいつから名前で呼び合うようになった?
「そろそろ今日の撮影も終わりだね!明日は午前中だけで終わるらしいよ」
『えーじゃあ一緒にご飯行こうよ!日本食が食べたーい!』
「いいね!オレ、美味しいおそば屋さん知ってるよ!」
「ちょっと、そのそば屋ってそば処山村じゃないの」
「そうだよ!天にぃも知ってるだろ?」
「呼び方」
「はっ!すみません!」
すっかり気も緩んでしまったようで素が出てる。
今は周りにスタッフはいないが、現場なのでよろしくはない。
『あはは、ていうか天が言ってた日本に残してきた双子って、りっくんのことでしょ?』
「…なんの話?」
『見てれば分かるよ、お兄ちゃんの顔になってるもん』
「…どんな顔なの、それ」
『え~?もう弟が可愛くて仕方ありません~って「ストップ」』
「いい加減なこと言わないでくれる」
『そんな赤い顔してる時点で説得力がないのだよ、お兄ちゃん』
もう調子が狂う。
こっちを見てニヤニヤしている彼女も、ニコニコ嬉しそうな陸も、一緒にいるとTRIGGERの九条天ではいられなくなりそうだ。
でも仕方ないことなのかもしれない。
二人とも、七瀬天として生きてきた自分のことを知っているのだから。
「そばじゃなくて、お寿司にして」
そう言えば『わーい!』と盛り上がる二人。
『天の奢りだー!』と聞こえるが聞こえてないフリをする。
でも今とても気分がいいから、なんでも許してあげる。
可愛い弟と、よきライバル、二人と過ごす時間は自分にとってかけがえのないものだとこっそりと思った。
fin.
2022/11/17
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