想いを乗せて
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歌うことが大好きで、いつかプロのミュージシャンになることを夢見て高校生のときから始めた路上ライブ。
初めは有名な曲のカバーを歌っていたけど、いつしか自分で曲作りもやるようになり、今では持ち歌も十曲ほどになった。
とは言え聴いてくれる人はずっと疎らで、いつまでも実現しそうにない夢を抱え、またそんな葛藤も歌に込めながら歌い続ける日々が続いていた。
大学生になった頃、一人の同い年くらいの男の人がよく聴きにきてくれるようになった。
彼は斜め前にいつも陣取り、ライブが終わるまでずっとそこにいる。
そして最後にはいつも「素敵なライブでした」と言って、募金箱に諭吉を入れて去っていく。
初めはそんな大金を入れていく彼にビックリしたものだけど、身なりや立ち振舞いから良いとこのお坊ちゃんなのだろうと思った。
そんなことが度々あって、私の中では彼の印象はなかなかに強かった。
私が歌う曲に合わせて顔色を変える彼に、ちゃんと私の声が届いてる人がいるんだと嬉しかった。
ある時にリクエストを聞いたことがあって、そしたら彼はあわあわしながらも私が最初に作ったオリジナル曲をリクエストしてきたので、彼のためだけに歌ったら号泣していたのがとても可笑しかった。
「もう死んでもいいです」なんて泣きながら言うもんだから、『死んだら私の歌が二度と聴けないでしょ』って言ったら「死んでも生きます!」って返ってきたのが可笑しくて、お腹抱えながら笑って、そしてつられてちょっと泣いた。
そんなやり取りから数ヶ月後、彼はぱったりと姿を見せなくなった。
違う推しができたのかな。
もう来ることはないのかな。
彼の存在は私にとって、とても大きかったんだとそこで気付いた。
心にぽっかりと穴が空いたようで、歌いながらもずっと彼の姿を探してしまう。
私はここにいるよ。
ここであなたのために歌い続けているよ。
いつしか切ないラブソングばかりを歌うようになって、ラブソングのストリートミュージシャンなんてちょっと有名になり、とうとう音楽事務所の目に留まりデビューが決まった。
「名前はどうする?本名とは違う名前で活動することもできるけど」
『いえ、なまえでデビューします』
レコーディングが終わり、MV撮影が終わり、いよいよデビューお披露目の生放送ミュージックフェスタ出演。
緊張もしてるけど、ここからがやっとスタートのような気持ちで高揚もしている。
テレビ局も初めてだし、共演者に挨拶も行かなきゃいけないから、なんだかんだとバタバタしそうだ。
「隣の楽屋に挨拶行くよ、準備して」
『はい』
「失礼します、本日ご一緒させていただきますなまえです」
『なまえです、今日はよろしくお願いいたします!』
「っなまえさん?!」
『あ、なた…は…』
「知り合いですか?壮五さん」
『壮五さん、…と言うんですか』
「はい、あの、もしかして」
『…デビューが、決まりました。まさかこんなところであなたに会うなんて』
「…凄い!おめでとうございます!嬉しいな、もうずっと路上ライブに行けてなくて、どうしてるのかなってずっと考えていたんです。デビューだなんて!僕らもやっと、テレビに出させてもらえるようになって。こんな偶然…」
「おーいソウ、彼女お前の気迫にビビって固まっちゃってるけど」
「え?!すみません!嬉しくてつい!」
「そーちゃんがっつきすぎ」
「ぁぁあの、えーと、今日お会いできてよかったです。この後の歌唱披露、楽しみにしてます!」
『…ふふ、変わらないですね。私もずっと、あなたに会いたかったです。今日の歌はあなたを想って作った曲なので、あなたに届くように歌います』
「ぅえぇっ?!」
「なになに?!どういうこと?!」
届けたい 想いを乗せながら
叶えたい 願いを抱きしめて
歌い続けるから
fin.
2022/11/15
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