君がいちばん
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深夜0時。
普段ならばもう夢の中にいる時間。
《和泉くん、誕生日おめでとう!》
一番に伝えたくて、日付が変わるその瞬間を今か今かと待っていた。
ラビチャに気付くのは朝だろうか。
彼が一番に目にするのも私のメッセージであったらいいと願いながら眠りにつこうかと思っていたら、
《ありがとうございます。》
すぐに返ってきたメッセージに、夜中であることも忘れて叫びそうになった。
─────────
朝、学校へ行くと、普段は話さないような人からもたくさん祝いの言葉を貰った。
いつもは学校という場所であるため遠巻きに見ていた人達も、今日は特別なのか休み時間の度に来客があり、プレゼントを持って来ている人も多かった。
自分も今日ばかりはアイドルの和泉一織として対応する他なく、しかしながらありがたい気持ちであるのは間違いなかった。
「いおりんすげー人気者だな」
「誕生日ですからね。四葉さんの時もこうなると思いますよ。」
「まじ?王様プリンいっぱい貰えっかなー?」
「ファンであるなら当然知っていますよ。期待していていいんじゃないですか。」
「やった!いおりんもなんかいいもん貰った?」
「そうですね、まだ中身を見ていないものもありますが。」
「帰ったら見せてー」
…あの人からは、何か貰えるだろうか。
いや、もうメッセージを貰ったじゃないか。
しかも0時ぴったりに。
わざわざ時間が来るまで起きて待っていてくれたのだろうか。
そんなことを考えたら、自然と顔がニヤけてしまって慌てて表情を引き締めた。
そうだ、これ以上を望んでどうする。
むしろ自分から、お礼を告げに行くべきではないか?
でもお礼なら、あの返信だけで十分なのでは?
なんてことをぐるぐる考えてしまい、動くに動けないままもう放課後を迎えようとしている。
今日はこのあと急いで仕事に向かわなければいけないので、もうタイムリミットだ。
結局彼女とは一言も話せないままだった。
────────────
彼へのプレゼントは、手作りのお菓子を用意していた。
でも実家がケーキ屋さんである彼に、手作りお菓子なんて渡していいのだろうか…。
そんなことを悩んでいるうちに、時間はどんどん過ぎてしまった。
その間にも彼はたくさんの人からプレゼントを貰っていて、中には高級スイーツや高価そうなブランドのものもあり、自分の手作りお菓子を渡すのはとてもじゃないが気が引けた。
なんで他のものにしなかったんだろう…。
そんな後悔をしても遅く、とうとう放課後になり彼は慌ただしく帰っていった。
『四葉くん』
「あ?なにー?」
『これ私が作ったものだけど、よかったらあげる』
「いーの?あんがとー。あ、そのキーホルダー」
『これ?』
「イニシャル付きの限定のやつ!」
『そうそう!知ってるの?発売日に並んでゲットしたんだ』
「みっきーがいおりんにプレゼントしようとしたけど、売り切れだったーって言ってた」
『なんで和泉くんにこのキーホルダー?キャラクターものだしちょっと可愛すぎない?』
「あー、本人は隠してるっぽいけど、いおりんこういうの結構好きらしい」
そうだったのか…!
和泉くんがこんな可愛いストラップを付けてるなんて、想像しただけで尊すぎる。
でも、そうか…。
このキャラクターは凄い人気だから、すぐに売り切れちゃったんだろうな。
もしゲットできたら、プレゼントしたら喜ばれるかな?
四葉くんに別れを告げて、私も帰路を急いだ。
───────────
無事に仕事を終えて寮に帰ってきた。
「ただいま帰りました。」
「おー、いおりんお帰りー」
「お帰り一織!飯できてるぞー!誕生日のスペシャルメニュー!」
「ありがとうございます、兄さん。」
兄さんと四葉さんはもう夕飯を済ませたのだろう。
二人はなんだか美味しそうなお菓子をたくさん並べて食べているところだった。
「あ、これ環が今日クラスメイトから貰ったらしいんだけど、すっごく美味いんだ!知ってるか?みょうじさんって」
「っみょうじさん?!から、貰ったんですか?!四葉さんが?!」
「…ぉ、おー。なんだよ、そんな大声出して」
「なんで四葉さんがみょうじさんからお菓子を貰うんですか。」
「あー?なんか帰りに、作ったからあげるって渡された」
「っなんで!」
「いや知らねーし!」
「おいおい、どうしたんだよ一織?まさかお前、そのみょうじさんのこと好きとかそういう感じかー?お兄ちゃんに正直に言ってみなさい!」
「っべべべ別に、そういうんじゃないですけど…。」
慌てて否定したが、二人のニヤニヤとした顔に恥ずかしくていたたまれなくなる。
いや、そんな。
好きとかそういうわけじゃ…。
「あー、そういえばみょうじがあのキャラクターの限定ストラップ持ってた。発売日に並んで買ったんだって」
「おー、あれなー!やっぱ当日で売り切れちまったんだろうなー。一織にプレゼントしてやりたかったんだけど」
「いえ、別に私はあのキャラクターも好きとかじゃないですけど…。」
なんて曖昧に返事をしたところで、ラビチャの通知が鳴った。
これ幸いとスマホを取り出してみると、なんと彼女からの連絡で心臓が飛び出るかと思った。
《渡したいものがあるんだけど、少し会えないかな?》
─まさか。
こんな時間にわざわざ会って渡したいものってなんだろうか。
少し期待してしまっている自分がいた。
────────────
我ながら大胆なことをしていると思った。
わざわざ彼を呼び出してしまうなんて。
でも、どうしても今日中に渡したくて。
誕生日当日である今日、何もできないまま後悔するのだけは嫌だと思ってしまった。
「…みょうじさんっ!」
彼に指定された公園で待っていると、走ってきたのだろうか、息を切らしてやって来た彼に、持っていた包みを差し出した。
『あの、こんな時間に呼び出しちゃってごめん。これ、和泉くんが欲しがってたって聞いて、どうしても誕生日にプレゼントしたくて』
すると彼は受け取って、丁寧に包みを開けた。
中には彼のイニシャルが入ったキャラクターのストラップ。
「これ、売り切れだったって聞きましたけど。」
『そうなの。でもどこかの店舗にはあるかもしれないと思って、売っていそうなところを全部まわってようやく見つけたんだ』
「そんな、えっと、ありがとうございます。嬉しいです。」
『よかった!じゃあ私はこれで』
「…え、あの!待ってください!」
無事に渡せたが、段々と冷静になってきた今は無性に恥ずかしくてとっとと帰ってしまいたい。
しかし彼に手を掴まれて引き止められてしまったため、それは叶わなかった。
「あの、ストラップ、本当にありがとうございます。ですが、どうしてわざわざ探しまわってまで私にプレゼントしてくれたんですか?」
『和泉くんの誕生日、お祝いしたくて…。本当は手作りお菓子を渡そうと思ったんだけど、そんなのよりもっといいプレゼントをいっぱい貰ってるの見たら渡せなくって。そしたら四葉くんがキーホルダーのこと教えてくれたんだ』
「じゃあ、あのお菓子は本当は私に…?」
『えっと、ごめんなさい。実家がケーキ屋さんの和泉くんに手作りお菓子なんておこがましいよね』
「そんなことないです!あぁもう、ほとんど食べられていたから残ってないだろうな…。みょうじさんの手作りお菓子、私が食べたかったです…。」
そうして項垂れている彼の様子に、自惚れてしまいそうになる。
そんな反応、してくれるとは思っていなかった。
『…ほ、本当?一応頑張って作ったけど、全然そんな、和泉くんが貰ってたような高級スイーツとかとは比べ物にならないよ』
「そんなの、比べられるはずもありませんよ。あなたが作ってくれたなら、それは特別です。」
そう言って真剣な顔をしている彼から、目をそらせなくなる。
どういう、意味だろうか…。
だってその言い方だと、自分の都合のいいように捉えてしまいそうだ。
「よかったら、また作ってもらえませんか?今度はちゃんと、私にください。」
そしてぎゅっと包まれた手から、ドキドキが全身を巡っていく。
次にお菓子を渡す時には、この私の気持ちも一緒に伝えてしまおう。
そう誓った、きみの誕生日。
Happy birthday to IORI.
fin.
2023/1/25
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