危険な香り
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無事今日の仕事を終え楽屋で一息ついていた。
この後は特に予定もないし、夕飯を済ませてから帰ろうかと思案する。
ユキはどうするだろうか。
曲作りのためにスタジオに籠りたいと言っていたけれど。
そこで楽屋のドアが開いて、ようやく戻ってきた相方を出迎える。
「ユキ!遅かったね」
「あぁ。今そこで彼女に会って少し話していてね」
彼女…?と疑問に思ったところで、開いたままのドアからもう一人楽屋に入ってくる。
その人物に内心驚きと焦り、そして苛立ちもあったが、決して表情には出さなかった。
「あれ、なまえちゃんじゃん!こんなところで会うなんて奇遇だね!どうしてユキと一緒に?」
『久しぶり、百。そこで偶然千さんに会ってね、百の友達ですって言ったら意気投合しちゃって。ここまで連れてきてもらったんだ』
「そうだったんだ!もうユキ、遅いから心配したんだよ!」
「ごめん、モモ。彼女があのツクモの社長とモモとで仲良しだって言うから、ぜひ僕もお近づきになりたいと思って」
「…!」
『私は大歓迎ですよ。よかったらこの後ご飯でも一緒にどうですか?』
「…ユキはまだ仕事があるんだよね!ご飯なら二人で行こうよなまえちゃん!」
「モモ」
「ごめんユキ!お仕事頑張って!オレもご飯だけ食べたらすぐに帰るから。」
しばし無言で見つめ合う。
ユキの顔には「本当に大丈夫なのか」と非難するような表情が見てとれたが、こちらも譲る気はないので目線は逸らさない。
やがて諦めたようで、ふぅとタメ息をつく姿に心の中で謝っておいた。
「今日のところは遠慮しておくよ。なまえさん、また機会があれば」
『ええ、残念ですがまた次回。私はいつでもお待ちしてますよ』
「じゃあユキ、お疲れさま!行こうなまえちゃん」
そして半ば強引に彼女の手をひいていく。
次回なんてあるものかと思いながら、これからどうやって話をつけるべきか頭をフル回転させる。
ドン─────
「どういうつもり。ユキには近付かないって約束だろ!」
人通りのないところで、彼女を壁際に追い詰める。
睨みも利かせてやるが効果はないようで、余裕の表情が返ってきた。
『百こそ、ちゃんと約束を覚えてる?百が相手してくれるなら、大事な大事な千さんには関わらないっていう約束だったでしょう?なのに百ったら最近は全然連絡も返してくれないし』
「ずっと仕事が忙しかったんだ、説明もしただろ」
『まあね、百のスケジュールは把握してるけど。でも売れた途端に距離を置き始めるなんて、あんまりじゃない?前は毎晩のように会ってくれたのに』
「有名になった分、周りにも気を遣ってるんだ。毎晩なんて会ってたら写真でも撮られかねない」
『そんなの私のパパがなんとでもするわ。権力も、お金も使ってね。今までだって、そうやって百が大切にしてるRe:valeを沢山支えてあげたでしょう?』
「…っ分かってる!」
痛いところを突かれて何も言えなくなる。
彼女との力関係は明白で、始めからどうにかできるとは思っていなかった。
『私、寂しかったなあ。百が相手をしてくれないなら、そうだな、最近売れてきたIDOLiSH7、の誰かにでも会いに行ってみようかな』
「っやめろ!」
分かってて言っているのだろう、全て。
自分が今とても目をかけている後輩であるということも、彼らの事務所にはあのバンさんがいるということも。
「分かったから、オレが悪かったよ!もっと頻繁に連絡もするし会いに行く。だから他のやつのところに行く必要なんてないだろ?」
『ふふ、嬉しい。そうやって百はずっと私のご機嫌をとって、そばにいてよ。ずっとずっと私を夢中にさせて』
ああ、逃れられない。
この妖しく笑う女からは。
一度罠に嵌まったが最後、それは絡み付く蜘蛛の巣のように、もがけはもがくほどに抜け出せなくなる。
せめて相方や、後輩にまでその毒が及ばないように。
そして今日もまた、眠れない夜がやってくる。
fin.
2022/11/22
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