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第七楽章


「…ちょっと、思いっきり道間違おうとしないで!こっちだってば」
「えぇ!?だってさっき東に進むって…」
「あんた太陽の進み方とか教わらなかった訳?そっちは西。真逆!」
「う、うるさいな~…」

本当は少年とは、デュエッタの汽車の駅で別れる予定だったんだけれど。

彼が孤児であると知った以上、政府所属しているソプラノとしては彼を政府運営の養護施設に案内しなければと思い、結局最後まで着いてきてもらっているという訳なのだ。
えへへ、ドミナント、結構戦争によって身寄りのなくなった子どもたちを助けるための仕事とかもしてるんですからね!

「ていうか君、いい加減名前くらい教えてよ…さすがに寂しくなってきたんだけど」
少年はきまり悪そうにえぇ、と小さく漏らす。


「…………ルト」
「お?」

「アルト。……アルト・カンタヴィレ。おれの名前」

「アルトくん!へー、アルトくんていうんね!ふ~ん?」
「んだよ、気持ち悪いな……」

照れ隠しに悪態をつくなんて、なかなかに可愛いところもあるじゃない、少年。じゃなくてアルトくん!

「じゃあ私のこともソプラノって呼んでよ~、ほら、アルトとソプラノってすごくお揃いみたいでかわ……ん?ソプラノ、アルト…」

あ、私もしかしたらわかっちゃったかも。
アルトくんが意地でも私を名前で呼んでくれない理由。

ふふ、と笑みがこぼれる。なるほどね、そっか。

「お姉ちゃんの名前、ひょっとして私と同じ?」
「………ポンコツなわりには勘がいいんじゃない」

顔を赤くしてうつむくアルトくんの手を取り、しゃがんで下から見上げるような姿勢をとる。

「じゃあさ」
アルトくんの表情はまだどこか火照っていた。
「リシフォン。私、ソプラノ・リシフォンっていうんだ。そっちで呼んでよ」

彼は豆鉄砲でもくらった鳩のようにきょとんとしていた。

┄┄┄┄

「ほら、あの時計塔。多分あれのことだよ。よく待ち合わせに使われるみたいだし、きっとそう」
「あ、本当だ!いたいた!おーい、スタッガルドさーん!」
「声でか…」

なんやかんやしていたせいで、結局待ち合わせの時間より30分ほども遅れてしまった。そう、今日はアルフィーネ指揮官のスタッガルドさんとの待ち合わせがあったのだ。

「もう本当に本当にごめんなさい!30分も遅刻してしまって…。お待たせしてしまいましたよね、申し訳ないです…」
「いや、事前にちゃんと連絡をくれただろう。そんなに気にすることではないよ。なにしろ、これは仕事で会っている訳でもないしな」
「感謝します…!」

寛大、寛大すぎる。本当は待ち合わせ場所には二時間前には着いていようと思ったんだけれど、道に迷ったうえに御祭りに寄ったりなんだりとしていたせいで、さすがにそれは叶わなかった。

「…ところで、そちらの子は?」
「え?あぁ、この子は」
「アルトっていいます」
ん?なんか私と初めて会った時と対応違くない?何、この差。
てっきり、アルトくんは人見知りか何かなのかと思ってたんだけど。

「んん~…?なんか私にはそんなに早く自己紹介しなくなかっ…えぇ……?」
「なんだっていいでしょ。……リシフォンが信頼してる人なら大丈夫そうかなって思っただけ」
「えっそうなん?へへ、なんか照れるな…」

地味にショック受けてたんだけど、これ全然ショック受ける必要なかったかも。可愛いところあるじゃない…。

「もしかして、施設に渡す子かい?」
「あ、鋭いですね!そうなんです。これから一緒に政府の方までついてきてもらう予定で。…ってそういえばスタッガルドさん、いつぞやの私の忘れ物を渡しに来てくださってたんですよね!?」

「あぁ、そうそう。これなんだがな。以前メロディアとカフェで会った時にこのブローチを落としていっていたと。たしかに、君のものかい?」

「あ~~!これ!ずっと探してたんですよー!アリアさんとお揃いだから大切にしてたんですけど、落としてたんですね…。ありがとうございます、助かりました!」

本当はメロディアちゃんがここに渡しにくるつもりだったらしいが、仕事が入ってしまったというのでスタッガルドさんが来てくださったらしい。

うーん、このブローチずっと探してたので本当に安心!実はこのブローチ、私がドミナントに配属されてから一か月記念の日にアリアさんがお揃い!っていってプレゼントしてくれた代物なのだ。
「これからはもう失くさないようにな」
「はい!ソプラノ気を付けます!…ありがとうございました、本当に!」
「礼なら、メロディアにでも言ってやれよ」
はーい、と気の抜けた返事をする。

「では私たちはこれで失礼いたしますね!迷惑おかけしました~」
「また何かあったら、こちらからもよろしく頼むぞ」
「えへ、そうですね!」

「リシフォン、汽車、早くしないと行っちゃうよ」
「あ、本当だ時間やばい…って、めちゃくちゃ名前呼んでくれるじゃん!?」
「うるさいな…」

二人で慌てて東の方角に走っていく。

東は夕日に照らされる側だよね、きちんと覚えたんだから!


帰路には二人分の影法師が、仲良く長く伸びていた。


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