このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第十六楽章「a tempo」〈前編〉


さて、現在地は指定された場所のすぐ近く、時もそろそろ指定の頃。
幼馴染の手紙の内容を思い出しながら、僕は悩んでいた。というのも、僕はついこの間幼馴染のラルシェから伝書鳩経由で手紙をもらったが、それをうっかり手元から失くしているのである。中身は記憶しているので心配に及ばない。が、それは僕のみに宛てられた手紙では決してなく、もう一人の幼馴染・メトロにも宛てられたものだった。問題はそこにある。二人宛ての手紙に僕自身は目を通しているが、手紙は僕が読んだ後すぐに行方不明となったのだから、かのメトロは未だその内容を知らないままいるのではないだろうかと思うのだ。それなら口頭で伝えればということで彼を探してみたが、タイミングが悪いのか、どうにも見つからない。結局コンタクトをとれないまま指定の日時は訪れてしまい、今ひとりで、約束の地に赴いているというわけである。もしこれでメトロがその場に現れなければ「三人で話したい」という意向で手紙をよこしたラルシェに対してとんでもなく申し訳ないことをしてしまったのではないかと罪悪感に苛まれるが、約束の地はもうすぐそこである。なんて言って謝ろうか、と思わず足を止めていたところだ。……が、しかし。

「メロちゃんは来てくれるでしょうか」
「どうだろう……来るんじゃないか、ってアルフィーネの子は言ってたけど」

「……ん?」
聞こえてきたのは件の幼馴染たちの会話である。なんなら二人そろった姿をも捉えることが出来た。……居るな、メトロ。いや、待て。ちょっと。どういうことだ?想定外の事態に一人で百面相していれば、向こうもこちらに気が付いてしまったようで、「あ、メロちゃん!来てくれたんですね、こっちです」なんて言って、手招きまでしている。……このままここにいても仕方がないので、僕は間抜けな顔をしたまま彼らのもとへ足を進めた。

「いや……え、なに?お前、手紙読んでたわけ?」
「あぁ、ええと……。君のところの子が渡してくれたんだ、これ」
聞けば、半ば照れくさそうにメトロは懐から例の手紙を取り出してみせた。……レヴィだな。
「あ、そう……な~んだ、じゃあお前を探し回ったのは無駄足だったってことか……」
はあ、とため息まじりに言えば、それをきいたラルシェは顔を明るくした。
「ふふ……メロちゃんも二人でここに来ようとしてくれていたんですね。うれしいな」
「……いや、まぁ、……うん…一応ね……」
僕はなんとなくばつが悪くって、あいまいに答えた。
1/4ページ
スキ