第十五楽章「teneramente」
青空の下、ぴょこぴょこと揺れる黄緑色を見つけて呼び止める。
驚いたように勢いよく振り返るその人物にレヴィは駆け寄って、ずい、と手紙を差し出した。
「お届け物っす」
そう告げるとメトロは、え、と声をもらし、両腕に抱えていた荷物をそっと地面におろした後で、恐る恐るレヴィの手から手紙を受け取る。
「え…あ、ラルからだ…?ありがとう、わざわざ」
「……ん、お構いなく。あー…と、一応言っておくんすけど。メロディア先輩はもうそれ確認済みなんで」
「え?あ、うん。そ、そっか」
その頭が、こくりと頷くのを確認する。目的を達成して、じゃ、と立ち去ろうとしたが、そこで待ってと声を掛けられ、ぴたりと足を止める。なんすか、と、レヴィは再度メトロに向き直った。
「あの、さ。これ……確認済みって言ったけど。彼女がどうすることにしたかって、もしよかったら、教えてもらえないかな」
思いがけずそんなことを尋ねられて、レヴィは答えに詰まる。口調に反して、存外しっかりと芯のある声だった。
…そういえば先輩は、結局この約束についてどうすると言っていただろうか。彼が聞こうとしているどうするのか、とは、そのことだろう。
「……いや、アタシは聞いてないっす」
言えば、メトロはそっかと残念そうに笑う。なんだかばつが悪いので、でも、と付け足して、
「アタシはきっと、先輩なら行くって思ってるっす。……つってもただのカンなんで、真に受けられすぎても困るっすけどね」
とだけ返しておく。すると、メトロは分かりやすく表情を明るく一転させ、そっかと嬉しそうに笑う。
「……うん、分かった。届けてくれてありがとう!」
そう言って人のよさそうな笑みを浮かべる彼に会釈だけして、レヴィはなんとなくばつが悪くて、足早にその場所を後にした。
……しかし、ずいぶんと勝手なおせっかいをしてしまった。
実をいうとこれは、別にメロディアに頼まれたことではない。レヴィ自身が勝手に決めて起こした行動だった。もちろんこの手紙のあて先はメロディアとメトロの二人であるので何も間違ったことはしていないはずなのだが、何せ先にメロディアのもとに到着した手紙である。それをメトロのもとへも持っていくか否かというのは本来メロディアが決める権利を有するはずのことだった。
「先輩、怒るっすかねぇ……」
大きな信頼を寄せる先輩を想って、重たく息を吐いた。否、怒らせてしまっても仕方がない、勝手に行動したのはこちらだから。…けど、意思はどうあれ今の先輩があの幼馴染相手に素直に手紙を渡せるのかとなると、話はそう簡単ではないようにレヴィには思えたのだ。加えて、(手紙の内容が罠などではないことを前提として)差出人であるラルシェが約束の地にどちらか一人でも欠けようものなら深い悲しみに暮れてしまうのではないかという、彼の一人の友人としての思いやりゆえでもある。それらを合算すると、結論として叩き出されるのはレヴィが代わりにこの手紙をもう一人のあて先へと届けてしまうこと、だったのだ。
仮にも、そういう考えあっての行動なので、どうかゆるしてほしいと思う。もちろん、先輩にはきちんと後で謝ろう。
ぐぐぐ、と音が鳴って、自分もすっかり空腹状態になっていたのを思い出す。さて、小さなミッションもクリアしたことだし、こちらも腹ごしらえといこう。ラルシェという一人の優しい青年が無事幼馴染ふたりと望むように話をできますように、なんて心のどこかで願いながら、レヴィは仲間の待つ場所へと駆け出した。
さわやかな風は絶えず、レヴィのピアスをふわふわと揺らしている。