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第十四楽章「con dolore」〈後編〉


「先輩?もしかして寝てたっすか?」
起こしてしまっただろうかと言わんばかりに不安そうな表情を浮かべるレヴィに、そうではないよと笑い返す。

「むしろ寝れなくて困ってたとこ。どうしたの?なんか用事?」
「そう、すか。ならよかった…よくないけど。あー、そうなんすよ。ちょっと郵便物を」
「ほう…」

郵便物、とは。こんな状況で来る郵便物などいったい誰からだろうか。そしてレヴィが取り出したのは妙な折り方をされた一枚の紙。ひょっとして伝書鳩、だろうか。差し出された紙を受け取って開けば、そこにはつい先ほどまで頭を悩ませていた相手の字(と少しの微妙な絵)がずらりと並んでた。恐らく今の僕はすごく顔を顰めているのだけれど、隣を見やればレヴィも全く同じような表情を浮かべていた。

「……これ、どうしたの?」
「やー、ついさっき鳩がジブンのところに来て置いてったんす。宛名と差出人だけ確認さしてもらってるんすけど、ほんと…どうしたもんすかねぇ」
「はは……いや、ほんとにどうしようかね」


この手紙の差出人はアロンジェ・ラルシェ。今まさに僕たちをかき乱している張本人的組織ドミナントに所属する青年、そして僕が苦悩している幼馴染本人。こんな時に手紙なんて寄越すなっつの。呆れながらも本文に目を通す。内容を簡潔に言えばこうだ、今度少し会って話がしたい、と。ただそれだけの内容。

「中身、読んだっすか?」
「うん。会って話さないか、てさ…どう思うよ?」
「えーー………」
言外に内容が気になると訴えてくる後輩に、苦笑いしながらそう伝える。レヴィは少し考える素振りを見せた後で答える。

「なんか仕掛けてくんじゃないかなって思うっす。こんな状況だし、よくない企みとかワナかもしれない。先輩をキケンな目に合わせようとしてるんじゃないっすかねえ…」
「本心は?」
「…アイツのことなんで本当にただ会って話したいだけじゃないかと……」
「だーよねぇ~……」

全く同意見だよ、とさらに顔を苦くして応える。本当にそうなのだ。ラルシェはどこからどう見ても素直で真っすぐなので、この手紙にも嘘偽りなど一ミリもないような気がしている。しかし、現状としてはドミナントの人間をそうやすやすと信じるわけにもいかない。この手紙の内容をどう受け取るべきか…難しいところなのだ。ひょっとしたら指揮官に相談した方がいいとまであるかもしれない。


「ねぇレヴィ。あいつ…ラルシェと仲、良かったよね。どう思う?今のこと」

なんとなくそんなことを聞けば、レヴィは目をまるくしてこちらを見る。
「どう…って。……どうっすかね。なーんか、ふわっとしてるっていうか、ぼんやりしてるっていうか。そんな感じだし、正直敵っぽい印象は他のドミナントより超~薄いっす。考えらんない、つーか……。なんて言っても、先輩の方がお詳しいんじゃないすか?ほら…昔、仲良くしてたそうじゃないすか」
「……あー…いや、今のアイツのことはほっとんど知らないし、たぶんレヴィのが詳しーよ。でも僕も概ね同意かな。ていうか僕はソープのこともあるから尚更ドミナントがよくわかんない。ましてや手紙なんて送り付けられちゃったら…ね?」
「ほんとっすねぇ…」
二人で微妙な笑いを零しながら、静かな朝を過ごす。…そう、どうやらもう外は朝になっていたらしい。一体どれほどの時間ここでぼんやりとしていたんだか。


「……ねぇレヴィ?」
「ん、なんすか、先輩」
「僕きっとレヴィが思うほど強くない。もしかしたら、ドミナントに負けちゃうかも」

今さらやってきた眠気の中を彷徨いながら、僕はそんなことを口にしていた。声がちょっぴり震えたのが自分でもわかる。それが情けなくて、レヴィの顔は、なんだか怖くて見れなかった。


「…?先輩はすごいっすよ!………でも、まあ。そしたら、アタシが先輩のこと守るっす。だから心配ないっすよ」
その言葉に甘えるように、僕は視線だけレヴィの方に流す。すると、その目は思ったより優しくて強い。味方だ、と、感じた。

「…そっか」

気づかれないうちにすぐ視線を戻して、さっきまでしていたようにまた、顔を膝に埋める。そのあとで、ありがと、と呟いた。多分レヴィのところまで届いてはいないだろう。けど、今はそれでもいい。きっと必ず、この声は直接伝えると、そう決めているから。それは確固たる意志だった。


そうして眠りにつく間際、片手に握りしめた手紙をどうするかだけ、決めあぐねている。
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