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第十四楽章「con dolore」〈後編〉


僕は一体どうしたいんだろうか。気持ちの整理もつかないまま現実は流れに流れて、とうとう訳の分からない位置にまで投げ出されてしまって途方に暮れている。

認めてしまうのは癪なんだけど、僕が頭を悩ませているのは他でもない幼馴染二人との関係のこと、そして僕自身のこと。なんでかうまい具合に人が分散しておりこの室内には僕一人なので(少し前までは件の幼馴染がいた)、嫌なことだがそんなセンチメンタルを起こしてしまっているという訳だ。

適当な位置で三角座りをして、膝に顔を埋めるような姿勢で喉の奥から小さくうめき声を漏らす。全くもう、吐きそうだ。なぜこうにも現実は僕のことを待ってくれないのか。馬鹿みたいに散らばった感情の数々を片付けるのにこの腕も脚も重すぎる。それなのに現実は急速に喧しく僕を責め立ててくる。一体どうしろと?……ずっとずっと目を背けていたのだ。今更触れるはずもない。けど、…でも。

僕はアルフィーネ副指揮官だ。それは、誇りに思っていい肩書と言えるだろう。…だが実情はどうだ?僕は非常に中途半端な人間だ。愚かにも幼い時の信仰心を捨てきれず、それなのに神を嫌う振りをして暮らしている。挙句の果てには副指揮官だなどという。そりゃ、憎んでいるような気がするのもまた、事実ではあるけれど。それにしたってこの国において、このアルフィーネに身を置く立場としてこんなにも愚かなことなどないのではないか。自分でもそう分かっている。…分かっているはずなのに、感情も何もかもコントロールできた試しがない。自分の中に存在する恐怖に負けて、ひたすら攻撃をすることしかできない。

弱いのだ、僕は。ずっと昔から。


……なんて、そんな風に少し遠い視点から自分を見れるようになったのは進歩なんだろうか。どうにもあの最後の教会がドミナントによって破壊されてからというものの妙に冷静で、随分と思考が冷えているような気がする。ずっと張られていた糸がつんと切られたような、そんな感覚。それまではまるで何かに操られているようだったなと今は少しそう思う。

神を信じないと言うのも、嫌うのも、そしてそれらがほとんど真実ではないことも、すべて僕自身の問題。随分と勝手な感情で戻れないところまで来てしまった。僕だけの都合で、幼馴染二人を身勝手に傷つけたままにしてしまった。そんなの痛いほどわかっていたから、自分の中で整理がついたその時は、ごめんと一言謝れたらなどと甘えたことを思っていた。むろん許してほしいとは思わないが。…それなのに世界はこのざまである。幼馴染の一人が所属する組織がどうやら敵となり、逆に敵対していたもう一人は便宜上味方となってしまった。それもすごく唐突に。そんなわけで、僕の気持ちはあっけなく激流に飲み込まれてしまったという訳だ。こんなの、あまりにも酷だよねぇ。必死に立場上の振る舞いを取り繕ってはいるけれど、正直上手くやれてる自信はない。この状況下だし、僕以外もだいぶ調子を狂わされてる人しかないようだからあんまり気づかれてはいないかもしれないけれど。

僕だって辟易していたんだ、自分のことには。馬鹿みたいにそれっぽく表面を固めて、濁して、それで何になるというんだろう。ずっとそんなことを思っていた。このアルフィーネ所属という立場を利用して、過去の自分もろとも全てを否定しようとしていた。なかったことにしたかった。でもさ、そんなことって出来るはずがないんだよ。メロディアちゃんはお利口だからとっくにそんなことわかっていたんだ、どこかでは。でももう僕だって副指揮官という立場を担っているし、今さらこれまで僕が作り上げてきた虚構からの逃げ道などどこにもない。自業自得、最悪だ。本当にどうしたらいいか分からないんだ、参っちゃうよね。向き合わなければならないこと、立場のこと、いろんな要因が絡まっちゃって解けない。その中に僕は居る。どうしたらいいのか、どうしたいのか。何も見えない虚構の中で、ひとり胡坐をかいている。

「ほんと、やんなっちゃうよねぇ……」

一人だけのこの空間はすぐに僕の声を飲み込む。どこからともなく零れたため息を、顔と一緒に膝へぐりぐりと押し付けた。そのまましばらくそうしていると、かたと音が鳴り人の気配が近づいてくる。

ゆっくりと顔を上げれば、そこにはレヴィが居た。
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