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第二楽章


「あれ、フローラさんじゃありませんか!…おや、これはこれはシヴォルタの皆さんでお茶会ですか?楽しそうで何よりです!」
午前中が終わりを告げる少し前、そう言ってひょこりとカフェに顔を出したのはドミナントのセレナータさんだった。

「セ、レナさん…!久しぶり、ね…こんにちは」
フローラに続いて俺らも彼女に挨拶をする。
「セレナさんこんにちは、よかったら相席でもどうぞー!」
そう言ってネリネが自身の隣の椅子をぽんぽんと叩いて彼女を自分の隣に座るよう促す。
「やった、ではお言葉に甘えるとしますね…!」
少し嬉しそうに笑い、彼女はゆっくりと椅子に腰掛ける。
「セレナさんも第五教会の見張りに?」
フォルテの問いにセレナータさんははて、と首を傾げた。
「第五教会の見張り…、ですか?いや、私はそう言う訳ではないのですが…。といいますとね、私指揮官を探してたんですよ、うちの。ここのカフェ指揮官好きなようでしたのでいらしてないかなあ、と」

少々違和感に苛まれた。まるで第五教会の件に関してセレナータさんは知らないかのような口ぶりだ。
「…というか、なぜ第五教会の見張りを?何かあったのです?」
この違和感に対して向かいに座るフォルテとネリネも疑念に駆られたような表情を浮かべる。フローラは…変わらずカステラを頬張っている。
「あの、セレナさん。つかぬことをお伺いしますが…、第五教会の件については何も聞いていないのですか?たとえば、その…そちらの指揮官さんから、とか」
「いえ、何も…。やはり第五教会に何かあるのですか?」
不思議そうなセレナータさんにフォルテは続ける。
「昨晩、そちらの指揮官さんとソープちゃ…ソプラノさんが僕らの拠点に訪ねてきたんです。そこで彼女たちから頼まれたことが…今日一日の第五教会の見張り、でした」

フォルテは昨日アリアさんに頼まれたことに関する内容を少々砕きながら説明した。するとセレナさんは少々眠たそうな目を丸くしながら納得したような表情を作って
「初耳ですね…。でも、これで少し合点がいったような気がします。うちの指揮官、昨晩から見当たらなくて…。ソプラノさんはここ二日休暇なので見当たらなくて当然なんですけど、指揮官が連絡もなしに遅刻なんて滅多なことなので。それで、彼女の捜索のようなことをしていたんです。ですが第五教会の件を伝えるためにシヴォルタ拠点に向かっていたのならいくらか行先もわかりそうだし、今朝の無断不在の理由も掴めそうですね…」
と語った。そして彼女がありがとうございます、と続けようとしたその時だった。

「ここに居たんですねえヴィーゲンリート構成員?」
突如として聞こえた、殺気立ったその声にセレナータさんは恐る恐る振り返る。
「つ、ツィスティアさんじゃあありませんか……はは、こんなところで会うなんて!ぐ、偶然ですねぇ…ひょっとしたらこれが運命の出会いいいいたたたたたた!?!?!?!!?!?暴力反対!暴力は断固反対ですよー!?!?!?!?」
「勝手に俺を置いて逃げ出した挙句カフェで優雅にティータイムしてやがる奴の台詞とは思えませんねえどうなんですかヴィーゲンリート構成員」
そう言いながらドミナントの副指揮官、ツィスティアさんはセレナータさんの長髪をぐいぐいと引っ張り続ける。痛そうだからそろそろ許したげて。
「うう、すみませんってば……すべてにおいて謝るのでとりあえず手離して、痛いですってぇ、うぐぐ………ったぁ!?」
ツィスティアさんがセレナータさんの髪から一思いにパッと手を離したせいか、勢い余って彼女はテーブルに頭を衝突させた。つくづくツイていない人だ。

「で?指揮官の居場所は掴めたのか、ヴィーゲンリート構成員?」
「あ、それなんですけどね、副指揮官。どうやら昨晩、指揮官はソプラノさんと共にシヴォルタ拠点へ出向いておられたそうです」
「シヴォルタ拠点?」
疑いと驚きの混じった表情をしているツィスティアさんにセレナータさんは先ほどまで話していた内容を伝えた。すると、ツィスティアさんは少し不服そうな声色で言った。
「俺らに止められる前に行動に出たって訳か。」
俺は彼の発言に補足するように口を開く。
「おそらく、中立であるドミナントの立場上今回のシヴォルタへの依頼は本来タブー…って事で合ってますよね?」
「あぁそうだ。中立を宣言している以上、過度に両者の争いに干渉しすぎるのはあまりよろしくない。」
やはり俺がにらんだ通りだった。俺も昨晩、その旨を尋ねようとしてソプラノさんに止められてしまった。
「指揮官は少々平和主義が過ぎる。…もう少し中立機関の指揮官らしくあってほしいものだが」
ツィスティアさんはやれやれと言わんばかりにため息をつく。

平和主義すぎてダメ、か。純粋に平和を望む気持ちを否定されるのは一体どんな気分なのだろうか。いやきっと、きっと彼は平和への欲を否定するわけではないんだろうな。ただ立場上それを表に出すことが問題になるという話なんだ。
「フローラ、何か変わったことはあった?」
「いいえ、特に変化は見られない、わね…」
カステラを食しながらもしっかりと見張りをしてくれていたフローラに尋ねた。まあ、変化が見られなくても当然か…。昨晩聞いた情報ではどうやらアルフィーネの奇襲は今からあと二時間後程度の時刻とのことだった。先はまだ長いようだ。
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