このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第十三楽章「pianissimo」


やはり、眠ったところで夢に見てしまうのである。
アロンジェ=ラルシェは、書庫で本を手に取りながら考えていた。

身体は言うほどでもないが、気持ちとしては疲労が溜まっているのが自分でもわかっていたので、言われるがまま横になっていた。だが、気がかりなことがあるとなかなかうまく眠れはしないものである。あんまり昔の夢ばかり見るので、どうしたものかと何度か寝返りを打ってみたが、どうにも眠くはならないので再び眠りにつくのは無理だと悟った。だから、このように起きだしているという訳だ。


さて、眠れないほどの気がかりがあるならば解決するまでである。そう考えた俺は、いい策はないかと書庫の本を手あたり次第読み流していた。議題は、長年の亀裂を修復し、かつ今後の良好な関係を約束する方法である。つまるところ、気まずい幼馴染二人を仲良くさせたいのだ。正直組織の外に存在する俺の心配事と言えばそれくらいで、そこさえ丸く収まってくれれば夜だって心置きなく眠れるはずなのだ。

そういう訳なので、二人のために何か俺にできることはないかと考えているのである。自分の所属する組織の立場を考えれば、シヴォルタのメトくんとアルフィーネのメロちゃんの亀裂はそのままにしておいた方がいいのかもしれない。だが、俺はドミナントである前に二人の幼馴染だ。やっぱり、二人には仲良くしていてもらいたい。叶うなら、昔みたいに三人で楽しく話せたらなとも思う。

ただ、俺は、戻れないけれど。気持ちは十分にあるが、戻るに戻れないところまで既に来てしまっているのだ。だからこそ今しかない。今ここでアクションを起こさなければ、俺はもう二度と二人に幼馴染としてかかわることなど許されなくなってしまうから。それはとても悲しいし、俺だって心からそれを望んでいるわけじゃない。でも、仕方がないのだ。今更泣いて足掻くつもりも毛頭ない。


俺はひとまず筆を執ることにした。手紙を書くのである。内容は、今度会って話したいと、ただそれだけ。出来るなら三人だけがいいなぁ。そうだな、せっかくの機会なのだから他の人には知られないように追伸をしておこう。伝書鳩に、祈るような気持ちで手紙を託す。約束の日時と場所、二人は来てくれるだろうか。分からないけれど、きっと来てくれると信じていよう。


「よろしくお願いしますね、鳩さん」

鳩は、朝焼けに目を細めながら飛び立っていく。さて、俺もみんなで朝の挨拶でもしにいこうか。窓を閉め、俺は書庫を後にした。

窓辺には一輪のエーデルワイスが揺れている。

2/3ページ
スキ