第十二楽章「tenuto」〈後編〉
星の光も薄まるころ、私はひとり人気のない街を歩いていた。ぬるい風はどうにも気持ち悪く、元々明るくもない気分がより一層影を増していく。さて、指揮官であるということを理由にアルフィーネ代表として夜中に仮拠点を出発し本拠地へと(むろん必要なものを持ち出すためである)向かい始めたはいいものの。…さすがに中部から北部までずっと徒歩で行くというのは、老いぼれの脚への負担も尋常ではない。帰りは汽車を使おう。運行しているかは分からないが。
さて、疑るべきは何か。政府か?国民か?…はたまた、やはりドミナントなのか。いや、なのか…ではなくそうなのだろう。考えるまでもない。茶番のような思考に嫌気すら差す。
しかしそうだとして、一体私たちに何を望んでいる?どんな目的で、どれほどまでのことに手を回していたのだろう。マイナとかいう存在との関係は?大体、今まであんなに友好的だったというのに一体何のつもりなのだろうか。メロディアの親友だというあの子だってドミナントじゃないか。……純粋に笑みを浮かべる様子は、とてもそんな風には見えなかったが。
何かを企んでいるらしい__…それ以外は何も知りえる範疇ではない。情報不足のこの状況は、私たち二組織の中でいったいどこまでの不安感を渦巻かせれば気が済むというのだろう。無知は罪だと言いたい訳ではないが、チームを率いる身としては私自身が不安を抱えているという事実が何よりも不安なのである。きっとまだまだ落とし穴がそこら中に仕掛けられている。
気を抜くわけにはいかない。冷静に、静謐を望め。それすら保てないようでは指揮官なんて務まるものか。
さて、どれほど歩いただろうか。ようやく見慣れた道へと出てきたことに少しばかり安堵する。どうやらそろそろ夜明けも近いらしく、空は淡く染まっている。星は、もう見えない。
変わらず人気のない道はどこまでも閑静で、だからこそ、人は目立つ。その姿を捉えた時、私は自分の目を疑わざるを得なかった。だって、君は。
「何故、ここに」
「…スタッガルド、さ…ん……?」
大きな赤い瞳は暗い中でも分かる程に泣き腫らされていて、黒いフードから覗くラベンダー色は私の姿に驚いてかふわりと揺れる。
「…あ、の、私、えと…」
全てに対し混乱しきったかのような表情。零していくように言葉を紡ぐ少女の目には以前のように煌めいたものなど皆無で、ただそれだけが、全てを語るようだった。