第二楽章
朝。気持ちよく晴れている朝だ。今日は第五教会の見張りをするために第五教会から一番近いカフェにシヴォルタメンバー何人かで身をひそめるということになった。
何人かと言っても、事実上メルさん以外の全員がここにいる。とはいえシューさんとフローラは今回非戦闘員だ。フローラが能力を使って教会やその周囲の見張りをして、怪しい動きが見受けられたらフォルテとネリネと俺の三人で現場に出動。シューさんは周囲への避難誘導に入る。…とまあこんな感じの動きになる。当然だが、もし俺らが出動することがないのなら、その方が断然いい。なんならそうであってほしいくらいだ。
「もしここの教会がアルフィーネに壊されちゃったら、残りの教会の数ってもう結構少ないんですよね…」
ネリネが少し寂しそうに口を開く。
この国にはたしか全部で10個ほどの教会がある。全て神メジアを称えて作られた教会で、それぞれ番号で区別されている。もちろんアルフィーネがそれを黙って放っておくわけがないので、既にいくつかの教会がアルフィーネやその肯定派らによって破壊されている。今回の第五教会の件もおそらくその一環だ。きっと国中の教会を破壊して回るつもりなのだろう。
「そうだろうね…そのためにも、俺らで防ごう。せっかくドミナントの人から情報をもらえたんだし」
「そうだよ、僕らでなんとかしよう、…絶対にね!」
俺とフォルテがそう答えるとネリネはそうですね、と小さく微笑んだ。
元来俺は能力も能力なので戦闘要員といった感じでもないのだけど、今回は対アルフィーネなのでフォルテと最年少のネリネ二人では危険かもしれない、というメルさんの考えで俺も表に出て補佐的な戦闘員を担当することになった。
「そういえばメトロ、昨日シュー兄さんに言われてた書類ってもう終わったの?」
「あ、いや…さすがに昨日の今日でそれは無理だよ。今からアルフィーネ待機時間のうちにまとめあげるつもりなんだ」
フォルテの問いに答える。まあもし奇襲が案外早く始まってしまえばおそらく終わらないだろうけど。
「そっか、それもそうだね。なんか手伝うことがあったら遠慮しないで言ってよ」
「あっフォルテさんずるい、私も手伝いますよ~センパイ!」
「ありがとう、助かるよ。けど、今は大丈夫そうかな、結構すぐ終わるかも」
フォルテはそっか、と言ってついさっき届いた紅茶を口にした。
本当に頼りになる副指揮官だ。アルフィーネに対する敵意は凄まじいものだがそれすらも頼もしく思えてしまう。俺ももっとしっかりしなくては、と少し背伸びをして頼んでみたブラックコーヒーをぐいと飲むが、あまりの苦さに思わずむせてしまいそうになる。見かねたフォルテがコーヒーよりも苦い笑みを浮かべながらミルクをこちらに指ではじいて寄越す。…面目ない。こんな様子ではまた馬鹿にされてしまいそうだ。もっと様々な点で強くならなければ。
待機場所をカフェに選んだのはフローラだった。俺は距離的に教会から最も近いレストランなんかでもよかったんだけど、そこはフローラが一歩も譲らなかった。案の定大好物を嗜んでいるらしい当の本人が顔を輝かせながら口を開く。
「ここのカフェ、カステラがおいしいのよ、とても!」
まあ見張り場所がカフェになったのもこういう理由である。