第十一楽章「pregando」〈前編〉
さて、ようやく全てが整った。
からからと笑いながら目の前を見つめる。
あぁ。手に取るようにわかるよ、さぞつらいだろう。
今まで信じていたものを全て無にかえされて、何にもなくなって!
だって君が信じていたものなんてそもそも無かったんだ。
そこには何も無いよ。無いんだ。
あの子の周りの音は消えてなくなって、でもその音は最初から無くて。
まるで幻聴だね、可哀想なくらいだ。
もちろん、今さら返したげるつもりはない。
優秀で、従順で、聡明で、利口な、駒。
まさしくその通りだ。
指揮棒を失った君にはきっともう何もないんだろうね。
愛しいほどに可哀想だ。
切れてしまったピアノ線はそれはもうぐちゃぐちゃで、修復の余地はない。
あとは終わらせていくだけだ。
全てを壊せ、再構築しろ。
あの音が響く隙間を、この音が響くための演奏会を。
そしてこの旋律で、首を、絞める。
全てを呪い、そして殺すのだ。