rit.
静かな事務室の中。私がたてる物音だけが、ただ、響く。
自室から持ち出したのはとりあえず替えの衣服、お菓子、あと何かしら必要かもしれないもの。そして今いる事務室。ここから持ち出すべきものは手帳、ペンケース、あと…あとは特にない。置いて行ってしまえ。ただ、一つだけ書き残してからいこう。しばらくは戻らないという旨を示したメモ書きを、少しだけものが減った私のデスクの上にのせておく。まあ、あの人たちがこれを見るかどうかはわからない。不要な人間のデスクなんて興味はないだろうから。
泣き腫らした瞼が重たくて、もう目を開けていることすら気怠かった。出来ることなら全てを忘れるまで眠っていたかった。
私という存在を、そうしている間だけでも忘れてしまいたかった。
もっとも、どれだけ眠っても忘れることなんて出来そうにないんだけれど。それに、寝ている暇なんてないのだ。早いところ、私はここを出なくてはならない。
事務室を施錠し、鍵を元あった場所へと返す。
窓から見えた外は暗い、当然だ。
小さな三つ編みすらを解いてしまった頭にフードを被る。こうして顔を隠すのは、自分のことを知っている人からも逃げてしまいたいっていう、せめてもの抵抗。
深夜。私が全てを知った日の、夜。
私はこの場所を出て行く。