第二楽章
額から汗が落ちた。緊迫したこの状況を少しずつ整頓しながら意識を集中させる。どういうことだ?怒りを抑えつけて冷静になろうとした。もう奴らは既に爆弾の類を仕掛けていた、とでもいうのだろうか。とにもかくにも、今は一刻も早く現状を打破しなければ。まあ、事実上もう手遅れではあるんだけどね。やられっぱなしはそりゃもう、頭にくるし。殺しちゃっていいかな。
「なんでこんなことになってるんだよ、全く…」
差しに差しまくった嫌気をその辺に吐き捨てた。ことの発端というのは昨日の夜にさかのぼる。
「第五教会の見張り?」
シュー兄さんは少し驚いたような表情で彼女に訊き返す。はい、とドミナント指揮官__の割には若いように見えるが__らしい彼女、アリアさんは応える。
「どうやら明日、アルフィーネが第五教会を破壊しに出向くという話を耳にしまして…。第五教会のある地区はこの国でも特に人口が多い場所です。なるべく被害を抑えたいんです、私としては」
なのでお願いできませんか、と彼女は少し困ったような声色で言う。
「ええと、でもそういうお願いって、中立を宣言しているドミナントの立場としてはあんまりよくないのでは…」
「口を慎みなさい、メトロ・ブラーヴ!」
アリアさんの付き添いで来たらしいソープちゃんがメトロの発言を遮る。
「いえ、そう思うのも仕方ないですよね…えへへ、ごめんなさい。でも、それでも私は防げることであれば全力を尽くして…より早くこの国に平和が訪れるようにしたいなと、思って…」
シュー兄さんは考え込むような素振りをした後でふむ、と言ってアリアさんの方に向き直る。
「まあいいよ、うん。わざわざアリアと、えっと…チェーンの子。うん、そうそう君…が直接この拠点まで出向いてくれた訳だし!断る理由もないしな」
いいよな、とシュー兄さんは僕らに目線だけで問いかける。もちろんそこに選択肢などない。あのムカつくアルフィーネをぶちのめしてやるいい機会だ、僕自身も特に反対の意はなかった。
「本当ですか!…ありがとうございます、ではその件はシヴォルタの皆さんに任せますね!」
「私からも、感謝申し上げます」
二人は笑顔でそう告げ、明日の件の詳細を僕らに伝えた後でシヴォルタ拠点を後にした。