第十楽章〈前編〉
「いい感じに片付いたね。…ちょっと予定よりかかっちゃったけど」
うん、たしかに中々いい出来だ。これならシュー兄さんもこれからろくに汚くなんて出来ないだろう。
「よしっ、じゃあフローラたちの方も確認に行こうかメトロ。そろそろ終わっただろうし」
「そうだね、行こうか」
服についた埃をぱんと腕で軽く払い落としながらキッチンのある方へ向かうと、そこには案の定かすてらを消費するフローラが存在していた。
「…………整理は順調そうだね」
「えぇ。こないだ、ついバーゲンで買いすぎてしまったのだけれど…おかげさまでなんとか片付いたわ。フォルテたちの方も終わった?」
「それはご苦労様…。うん、終わった…けど、ネリネは?」
ネリネなら、とフローラが少し遠くを指さす。その先には、電話をしているらしいネリネが見えた。
「はい、…はい。そうですか……そうですね!はい。了解しました。はい!では、また」
受話器を置いたネリネが可愛らしい薄桃色を揺らしながら駆け足気味でこちらにくる。
「ネリネ、片づけは終わった?…それと、電話は誰から?」
「ええと、はい!片づけの方は先ほど終わらせました!電話はですね、メルヴィンさんから…だったんですけど」
少々ネリネが表情を曇らせる。何か良くない知らせでもあったのだろうか。どうしたの、となんとなく柔らかめの声を目指して話す。
ネリネは少し寂しそうな顔をして、実は、と続けてくれた。
「実は、…今日レストランはいけないかもしれなくて。さっきメルヴィンさんからの連絡で、なるべく急いで中部地域に来てほしい、とのことでした。どうやら、………残りの教会が、危うい…みたいで」
「どういうこと…?」
ずっと先ほどまで黙っていたメトロがネリネに声を掛ける。
「ううんと、わたしも詳しくはきいていないのであれですが…。どうやら、シヴォルタ勢力とアルフィーネ勢力が中部地域にて激しいぶつかり合いを起こしてしまっているみたいです。…下手したら政府の本部のある方にまで突入しそうだ、と…」
驚きのあまり言葉を失くしてしまう。中部地域での衝突なんて、そんなことがあり得るのだろうか。政府の監視下ともいえる中部地域で…そんなの、よっぽどのことがない限りはありえないと思っていた。…いや、
「よっぽどのことが起きている…?」
つい声に出してしまっていた。いけない、こういう時こそ僕は副指揮官らしくあらねば。
「ネリネ、何か持ってくるように言われたものは?すぐに用意をして出発しよう。今の時間ならまだ汽車にも間に合うはずだ」
中部地域での暴動…さらには、政府本部にまで突入しそうだということは、おそらく。
…彼らの、民衆の狙いは『あのオルゴール』であるはずなのを僕はどこかで理解した。