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第九楽章



「特に変わった、こと…?いや、無いと思いますよ。強いて言えば…うーん、最近能力を使う仕事が増えた…ってこととか。その程度です」

……思わず息を呑んでしまった。
間が空いてしまわぬよう、慌てて精一杯落ち着き払った声を絞り出す。
「……そうか。じゃあ本当に他に何も変わりはないんだな?」
「はい。…でも、そうだな。前より疲れやすくなった気がします。これはただ最近睡眠不足なせいもあるかと思うんですけどね?最近の仕事中、頭痛が特に酷くて…。今日なんかも、夕方頃が特に」
「それはいかんな。君のような若者は夜に早く寝ないと身長も伸びんぞ?さらに、頭痛のおまけつきだしな」
「うう、うるさいですよ!?…でも、その通りですね。気を付けます」
「あぁ、そうしなさい。…では今日はもう寝たらどうだ、私的な話に付き合わせてしまってすまないな。感謝するよ。……あぁ、それと」
「はい、なんでしょう…?」

最適な言葉を、丁寧に、選ぶ。少しだけ間を作り言葉を出す。

「何かあったら、うちの拠点にいつでも遊びに来るといい。歓迎するからな」

どこかおどけて、丸みを帯びた間が生まれる。

「…はい!その時はぜひ!」

そして会話を終える。最後の言葉の意味を彼女が正しく受け取ってくれたかはわからないが、まぁどのみち言葉通りの意味でしかない。

しかし、まずいことになった。
どうやら、彼から聞いたことが現実味を帯びてきているらしかった。

「あ、指揮官!」

受話器を置くなり声を掛けてきたのはレヴィだった。なんだ、といつも通りに返す。


「残りの教会、あと二つになったみたいっすよ」

危うく心臓が止まってしまうところだった。全く、これだから計画性のない奴らは。「詳しく頼むよ」とだけ言う。

「破壊されたのは第十二教会。大きなオルガンで有名な所っす。時間…は、今日の陽が落ちる少し前くらいっすかね。アルフィーネ勢力が火砲などにより攻撃、崩壊…てな感じっす」
「…そうか。いつも情報収集助かってるよ。あぁそうだレヴィ、明日出掛ける話はもう聞いたか?」
「へへっそんなに言われたらレヴィちゃん照れるっすよ!んー…あぁ!あの中部のレストランに行く話っすか!?もう今から楽しみで!」
「それはよかった。ペトラによれば、雑誌で紹介されるほどの有名な食事処らしいからな。楽しみにしていてくれ」
はーいっす、と緩い返事を後にして自室に戻る。

シヴォルタの彼から聞いた、どうにも芳しくないあの話。

自分なりに様々な点での考察を張り巡らせるものの、確固たるものは依然不明瞭なままだった。でもおそらく、何かが起きようとしている。

「……ドミナント、一体何を考えている…?」

それだけはきっと、確かだった。

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