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第一楽章

カノンの兄やほかの乗客はメルさんによって既に全員救出されていた。
結果として、怪我人こそ出たものの全員の命を救うことは出来た。

「うう、ごめんなさい、ごめんなさい…」
体調が落ち着いてからカノンはずっとそればかりを繰り返し、泣きじゃくっている。

「俺も、ごめん。…その、本当に。ただ、その… もう、こんなことは絶対にしないでほしいな。俺らが、…絶対平和にして見せるから。だから、それまでは待っててほしいな」

どうか、自らの命を手放すようなことは二度としないでほしい。そんな意を込めて優しく語りかける。彼女は依然泣きながら何度も頷いた。

「ごめんなさい、ありがとう」

カノンはそういって微笑んだ。その笑顔を見て俺らは三人で安堵する。

シヴォルタなのにアルフィーネ肯定派の少女を助けたことを、副指揮官の彼女は怒るだろうか。そんなことを考えながら俺たちは拠点への帰路に就いた。



「ちょっとメトロ、今日だけで怪我しすぎじゃない?どんだけ火傷してるんだよ…」

手当てをしてくれている帽子をかぶった彼女の怒気の混じった声にあはは、と目逸らし気味に笑い返す。今日の小規模汽車爆破テロの消火作業の際にいくつか火傷を負ってしまったのだ。

「でも、みんなのこと、救えたのならすごいわ。…無茶は、だめだけれど」

フローラはカステラを頬張りながらそう言って微笑んだ。

「そういえば、今日助けた子から何かの鍵を貰ったんだよね。ほら、これ」
「わ、綺麗!」

ネリネが目を輝かせて言う。帰り際にカノンから、落し物で拾ったという鍵を貰ったのだ。落とし主を見つけるようにお願いされたのだけど、さすがに今日中に落とし主を見つけることはできずに持ち帰ってしまったのだ。

「見つかるといいね、持ち主の人」
メルさんがそういい、俺もはいと返す。ひとまずその鍵はポケットにしまっておくことにした。こんど仕事で今日と同じあたりに行くときにでも訊ねてみよう。


新作のカステラや帽子がどうだとか、今日見かけた子が可愛かっただとか、そんな他愛もない話をしているとシューさんがパン、と手を叩き視線を集める。

「はいはい、じゃあとりあえず今日の被害状況調査の資料は明日までにはまとめておいてくれよー、期限厳守な」

「あし、明日!?」

シューさん期限短くない!?さすがに無理があるのでは、と冷や汗をかきながらシューさんを見やるとにひ、と笑ってジョークだよなどという。笑い声が皆の口からこぼれ出る。


全くもって嫌なジョークだ、と一人で苦笑いをする。本当に家族みたいなここが本当に大切だ。いつまでも、こんな風に平和であれたらいいのに。

そんな中、突如としてアジトのドアが開く音がした。
視線がドアに集中する。

「こんばんは!ちょっとお願い、…いいですか?」

気の良さそうな青髪の彼女は、そう言ってにこりと微笑んだ。




鍵を閉め忘れたのは…___________多分俺だ。

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