第七楽章
「なんだか表情が芳しくありませんね」
背後からの声に驚いて振り返る。
「…セレナさん。もう遅いですけど、まだ仕事ですか?」
「ラルシェさんの方こそ」
うまくごまかそうにも、この人に対してそういう技は出来ないらしかった。
「人は、誰しも過去に囚われて動けなくなってしまうものです。…あまり、気に病まないでくださいね」
まるで、透かされたような気分になる。
「セレナさん、コーヒーは切らしてしまっていて。ホットミルクでよければ、どうぞ」
「これはこれは、ありがとうございます」
「ホットミルクを飲むとよく眠れるらしいのですけど」
彼女の表情は、白に闇がよく映える。
「今夜は眠れそうです?」
「えぇ、きっと今夜も眠れやしない」
夜の帳は、音もたてずに崩れて落ちた。