第七楽章
「ごめんね、冷めちゃった!あ、でも冷めても美味しいね」
「……」
「いや、でもやっぱりあったかい方が美味しいよね~」
「……」
「う………」
圧倒的に気まずいな~………。こんな状況じゃ私も食べにくいじゃない…。
私たちは今、お祭りの広場からは少し離れた広場のようなところのベンチに座っていた。
「………あんた、ちゃんと政府の人間なんだね、本当に」
「む~!?ちゃんとって何よ、やっぱり信じてなかったんじゃない~!」
だんまりが終わったと思ったらま~た生意気ですか!怒るよ!?
…とは言ったものの。少年はまたすぐに静かになってしまった。ようやくおんぷまんじゅうは食べ始めてくれたけど。
「……今日、最初に会った時、どうして泣いてたの」
「…別に、泣いてないって言ってるでしょ」
「強がらんくていいから!…まったく、もう」
本当に生意気なんだから。
「おれ、家族居ないんだ」
少年の話は、あまりにも唐突に、そして静かに始まった。
「両親は、戦争始まる前に疫病にかかって死んじゃった。でも、おれにはお姉ちゃんが、いた。
すごく、神様を信じていた。
お姉ちゃんが信じてたから、おれも、信じてるふりしてた。別に、神がいるとかいないとか、そういうのはどうでもいい。
ただ、お姉ちゃんが、信じてたから。お姉ちゃんは、だんだん壊されていく教会をすごく悲しそうに見ていた。だから、今のうちにまだある教会の全てで祈りをささげたい、って言って。
お姉ちゃんとおれで、二人でたくさんの教会を巡った。
それで、こないだ北部の教会に行ったんだ。でも、その教会、おれらがお祈りしている間にさ、壊されちゃった。
お姉ちゃんも、教会も。粉々になっちゃった。ぜんぶ」
「おれは、無傷だったのに」
頬を、たくさんの涙が撫でていく。
「………おれ、もう、もうわかんないよ!お姉ちゃんは、お姉ちゃんはどれだけ神が悪いように言われても神を信じてた!
でも、でもお姉ちゃんじゃなくて、おれが、おれだけが助かった!!なんで!?神はどうしてお姉ちゃんを護ってくれなかったの!!
おれがどれだけ怪我をしたって、良かったのに…!!
お姉ちゃんじゃなくて、おれが、おれが死んじゃえばよかったのに…!!!」
「そんなこと、言っちゃダメだよ」
私の声は、思いのほかぐずぐずで、情けなかった。
それでも、思いを紡ぐ。
「…君は、生きていなくちゃ、いけない」
「っう、ぐ、…なん、なんであんたが泣いてるんだよぉ…」
そっと、少年のことを抱きしめる。
中間で揺れている彼は、しっかりと、まだ誰かが支えなくてはならない。
今だけは私が、その『誰か』になれていたら、なんて。