第七楽章
「ほんと、すごい人の数だね!」
「だから嫌だったのに…」
どうやら、この地区で毎年開催されている催し物らしかった。戦時中とはいえ、ここばかりはなんだか幸せに満ちた空間のように感じる。あと美味しそう。
「あ、ねぇあれ!おんぷまんじゅう!好きなんだよね…買ってくる!」
「子どもかよ…。早く戻ってきてよね」
「はいはい、了解しましたよっと」
なんだか聞き捨てならないことを言われたような気はしたが、ここは食べ物のおいしさに免じて聞き捨てておくことにした。
おんぷまんじゅう以外にもいくつか食べ物を買ってから少年の元に戻ろう。
美味しいものがあれば生意気な子も黙る、ってね!うん、おいしい。
「おーい、いっぱい買ってきたよー!一緒に食べ…、んん?」
戻ろうとすると、少年の周りには少年と同じくらいの子供が数人。友達、だろうか。
「お前何しに来たんだよ、金も何もないくせに」
「残飯漁りでもするのか?うわ、きたねー!」
「はは、まじ面白いんだけど」
少し離れた所でもきこえる、とがった声。なるほどな。私は、少年の元に足を進めた。
「ね、君たちはこの子のお友達?」
少年の周りにいる数人が答えた。少年は黙っている。
「そんな訳ないだろ、あんな疫病神信じてるシヴォルタは俺の友達になんてなれっこないね!」
「そうそう!ていうかお前何?まさかこいつの友達?」
「なに、またシヴォルタなわけ?」
少年は依然黙っている。
「いいえ、私はシヴォルタでもアルフィーネでもない。けど、うん。私はこの子の友達やよ」
なるべく、毅然とした態度で、はっきりと、答える。
「うっわ。中途半端なやつかよ!今どきそういうのかっこ悪いっての!」
「こんな奴と友達とか、ありえないんですけど…」
「バカ、同情してあげてんだよ」
全く、最近の子供って小声が下手くそなのかな。だんまりしてるこの少年もだけどさ。
「んもう、そんなこと言わんの!君たちはきっとアルフィーネ勢力の子なんやろけどさ、あんまりそんなん言わんほうがいいよ。なんていうか、うまく言えないけど」
全員、言葉を発さない。なんだ、多分だけどこの子たちだって悪い子じゃないんじゃない?
「…ほら、いつか全員でまた仲良くなれた時、気まずくなっちゃうでしょ?」
沈黙。…の後で、それを破ったのは数人のうちの誰か。
「…んだよ、説教かよ。うっぜー」
「せ、説教!?そんなつもりやなかったんけど!」
「あーーーー!」
私が素っ頓狂な声をあげた所で、数人のうちの別の誰かがこれまた素っ頓狂な声をあげる。
「な、なんだよ急にでけぇ声出して」
「こ、こいつ!この女!政府の奴だ!前に新聞で見たんだ、政府組織ドミナントに15歳の新人が入った、って…」
あ、あらら?
「おいお前、せ、政府ってこれ以上下手なこと言ったら、逮捕とか…」
「な、ちょっと早く言えって!ふざけんなよ!」
なんか、いかにも残念な感じのモブみたいな退場の仕方をして彼らはどこかにぱらぱらと逃げて行った。
へへ、私ってちょっと有名人…なのかも?