第七楽章
嘘でしょ!?確かに地図を見ながら歩いて居たはずなんだけど!
そう思い再び地図に目を落とす。………ん?
「いや、なんで地図逆さまになってるん!?」
いけない。思わずボリューム大で声に出してしまった。人通りのない道なのでセーフ、セーフだ。
「ありえない…いつの間に地図逆にしちゃってたんだろう…」
自分の情けなさにため息すら出る。しかし落胆してばかりいても埒が明かない。この後実は私用の約束があるのだ。そう、急ぐ必要がある。とりあえず誰か探して道を訊こう、そうしよう。
といって歩き出したはいいものの、どうにも人がいない。うーん、この辺にはあまり人が住んでいない、とか…?
まだまだ国の地方的な事情に関しては知識が薄いゆえに何もわからない。北部について、今度メロディアちゃんと会った時にでも訊いてみようかな。
街並みをなんとなしに眺めると、やはりアルフィーネ勢力の多い北部とはいえ様々なところに音楽の要素を感じる装飾やデザインが見受けられた。
本当にこの国はほんの少し前までは誰もが音楽やメジア神を愛し崇めていたんだろうな、なんて思ってしまう。きっと、いつかまた(前のようにとまでは言わないけれど)音楽による不幸ではなく、幸福が溢れることを願うばかりだ。
なんて思いながら街並みを眺めていると、建物の陰で誰かが動いたような気がした。
「みみみ道、訊かなきゃ!」
慌ててその誰かの後を追って走り出す。すると、すぐに先ほどの人影であろう後姿を見つけた。見た限りでは子供…少年といった感じだろうか。
「あ、ねぇ!そこ!そこの君!」
呼びかけてみると、その子は一瞬だけこちらをちらりと振り返る。そして、走る。…えっ?
「ちょ、ちょっと!君!待って!止まって止まって!」
何!?私、ひょっとして逃げられてる!?いけない、不審者だと思われてるのかも。
「大丈夫!私、怪しい人じゃないからー!うぐぐ、ねぇ、待ってよ…!」
やば、疲れてきた。息が切れてきたところで、なんとかその子の手を掴むことができた。
「なん、だよ!離せ…っ!」
「いやあの!道を訊ねたくて!そう!道に迷っちゃったっていう、か…」
と、ここまで言いかけて私はようやく気が付く。
「君、…泣いてたの……?」