第七楽章
こちら側までくるとさすがに普段の服装のままでは寒いものだな、なんて思う。羽織るものでも持ってきていればよかったんだけど、生憎というところ。
私ソプラノは今ヴィートロイメント北部での仕事の帰り、汽車に乗るため駅に向かっているところだった。
北部。そう、つまりアルフィーネ勢力が多く暮らしている地域の方。とはいえ、よっぽど北って訳でもないけど。ドミナント拠点のある、国の中部より少し北に行ったくらいの場所。名前は確か、クオラス地区?とか言ってたっけ。
その今朝行った仕事というのは、とある人物の対応について。
とある人物というのは、国の中で中立の立場にいる政府に所属しているにも関わらずシヴォルタ側に加勢しようとした者…すなわち、俗っぽく言えば裏切者さんである。そしてその裏切者さんを能力にて拘束しとある地点まで連行するという役目を、この新米構成員ソプラノが受け持ったという訳だ。
結構反抗してたっけなぁ、あの人。あの後どうなったんだろう。私は連行の役目しかしなかったために、その後のことについては一切触れられなかった。神のみぞ知る、ってところかな。
しかしやっぱり、仕事の中でも今回のようないかにも政府!みたいなものを任されるとどうにも、こう、私の能力ってあまりいいものではないよな、と思ってしまう。つい考えてしまうのだ。
私に与えられた特別、指揮。
1人の対象を自在に操ることを可能とするこの能力は、政府側として考えたらとても汎用性が高いし、非常に大きな力ともなりうるんだろう。以前、指揮官からもそのことに関してお褒めの言葉をいただいたのだ。
貴女はとても優れている、彼女はそう言っていた。
そう、たしかにこの能力はとても優れているのだ。優れている、のだけど。
どうしても、この私の能力は誰かの人生を大きく左右してしまいかねない。良い方にも、悪い方にも。
今朝みた裏切者さんの表情は、すごく苦しそうで、今にも狂ってしまいそうなくらいだった。
あの人には、あの人の人生があったはずなのに。
これで、このままで、いいのかな。
いや、でも、役に立てているなら。これで政府に、ドミナントに私がいる意味があるというのなら。
きっと、それでいいんだよね。
なんて考えながらしばらく長く歩くとそこは、
「ここ、どこ…?」
これから乗る予定だった汽車の駅とは全く違う場所だった。