第六楽章
「全く、いつの間に大雨なんて降ってきてたんだ…?」
アルフィーネの指揮官の人がそう呟いたのが耳に届いた。
たしかに、と思う。一週間ほど続くとされていた晴天は、この大雨によって断ち切られてしまった。この国の予報はびっくりするくらい正確で、凄腕の気象予報士の集団が毎日の予報を出していると聞いたことがある。僕も、この国の天気予報が外れることはないとどこかで信じていたのだけれど。
聖堂は、大雨による近隣の山々からの土砂崩れによって大きく損壊してしまった。綺麗な場所だったんだけどな。まあでも、古い建造物だとは聞いていたし仕方ない、か。さすがに損壊の激しい聖堂に居続ける訳にもいかないので、僕らは一時的に聖堂から近い位置にある政府所有のラウンジのような場所で雨宿りをしていた。
さっきフォルテから聞いた話だと、土砂はちょうどアリアさんとソプラノちゃんの座っていた後ろ辺りから入り込んできたところをフォルテが土砂の時間を止めたことにより二人とも間一髪で助かったらしい。話を聞きながらなんだかはらはらしたものの、優秀が過ぎるなと感じた。さすがはフォルテだ。
当のフォルテはというと、例の二人にぺこぺこと頭を下げられている。
「本当にありがとうございました!感謝いたします、フォルテさん!!」
「ソープちゃんもアリアさんも、そんなに言わなくていいって…」
「へへ、本当に助かりましたぁ…。それにしたって、いつこんな雨が降ってきたんですかね。予報では、しばらくは完全に晴れって聞いてましたけど…」
アリアさんがそういうと、フォルテは少し表情が強張ったように見えた。
「まあ、予報が外れるときだってたまにはあるんじゃないんですか?…ほら、人間だし間違いくらい」
「神の仕業なんじゃない」
アルフィーネ副指揮官のメロディアちゃんが口を挟むことでフォルテは形相を変えた。
「おかしいと思うでしょ?いつだって天気予報を当ててきた人が、突然こんなに大きなミス。僕もさっき色々と調べてみたけど、やっぱり今日この時間にこれだけの豪雨になるなんて異常だ」
彼女は淡々と、でもどこか感情の色の強い声で言った。
「本当に理由のつけ方が盲目的だよね、お前らって。人間なんだしミスの一つや二つくらいあってもおかしくなんてない、気象予報士を過信しすぎだ。こじつけ的なんだよ。大体お前なんかが調べた情報の真偽もわかったもんじゃない」
「言ってくれるじゃん。何、過信しすぎ?過信って君らシヴォルタの専売特許だと思ってたんだけど」
「はああーーーーーーーーーい二人ともそこまでーーーーッッ!」
ソプラノちゃんがそう言った所で二人は強制的に彼女の手で引きはがされる。
「もうっ、メロディアちゃんそんなにつっかからんの!ここの皆が助かったんだから、それで良しとすればいいでしょ?フォルテさんも!」
「ソープが言うなら引いてあげる…」
「…ふん、アルフィーネってば本当に強情だね」
なんだか微笑ましいな、なんて思ってしまった。そうか、そういえばソプラノちゃんとメロディアちゃん、仲がいいんだったっけ。それにしたって包容力というべきか、ソプラノちゃんには何か特別なオーラでもあるのかと思うほどだ。彼女の言葉により一気に場が和んだように感じる。
神の仕業、か。
『神様は、いる…んですよね』
先日、ネリネに言われた言葉を反芻した。
神様。神様かあ。ネリネはあんな風に無邪気だけど、どこか鋭いような気がしている。きっと、僕が質問の答えを結果として濁してしまったのもバレてしまっているんだろう。いや本当に気のせいかもしれないけどね。
いるかどうかは、正直今はまだわからない。けど、きっと居た方がこの世界は幸福だ。どちらも、神は居るものという前提で話が進んでいる。ただ、信じてみたいだけっていうのもあるけど、そうなんだろうなと思う。
ごめんねネリネ、僕はまだ解答を知らないままだ。だから、見つける。
この戦いだって、全部が全部、無駄な訳じゃないはずだ。
気付いたら雨はあがっていて、雲の合間から澄んだ蒼が覗いている。