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第六楽章



「詳しい概要は?」

アリアは、心底嬉しそうに笑った。
「善は急げ、と言いますし…日程は明後日にしようと思います。時間はそうですね、午前十時に開始……場所は政府所有の小さめの聖堂がありますし、そこで。参加者はドミナント含め各組織の指揮官、副指揮官。といった具合で宜しかったですか?…あ、でもドミナントはその日副指揮官は参加できないので代理を連れていきますね」

政府所有の聖堂…というと、この国には一つしかないか。おそらく、ドミナントの拠点でもあるここから近場の、ステンドグラスが綺麗なところだ。以前、俺も何かの時に行ったことがあるような気がする。たしかにあそこなら会議をするにはちょうどいい感じだ。
ただ、一つだけ心配というか気がかりなことならあった。

「ああ、大丈夫だと思う。…ただ、俺らにはあんたら同様特異的な能力がある。いや能力に限らず、いざとなったら手を出す奴も出てくるかもしれない。その辺の対策は?あぁでも、別に何かしらの得策があるんならいいんだ。ほら、ドミナントもその手の攻撃を受けかねないと思ってな」
アリアは「ああそれなら!」と言って笑う。どうやら策はあるらしい。


「うちには、優秀な指揮者がいますから」


過ったのは、ラベンダー色の少女。なるほど、たしかに。彼女の能力なら俺らを制御する程度なら容易いのかもしれない。

「ほら、私の能力でこう、武器やら能力やら使おうとする瞬間を察知して…ってやれば絶対安心!」
「うん、なるほど。それなら安心だな」
とても安心。うん、安心安全だ。さすがは政府組織。安心。




…いや安心なはず、だったんだけどね。
うん、誰もしゃべらないね。俺沈黙ってなんか空気ピリピリしててこわい。

なんて思考を巡らせていると、アリアはわざとらしくごほんと咳払いをした。うん。その意気だ、重い空気に負けず喋ろうアリア。


…えっ?咳払いしただけ?いやいや待って。本当に待って。なんかもう沈黙大会みたいになっちゃってるんだけど。ほらアルフィーネの子髪いじり始めちゃったし。完全に飽きちゃってるよこれ。いやスタッガルドなんてちょっと寝てない?えっ寝てない??いやこれ俺が喋ればこの状況打破できるとかいうあれかな。うん、やってみるか。助け船。そうこれ助け船な。

「………………あの…アリアさん…?」
「はい、なんでしょう?」

……………んっ?

「いやなんでしょう~じゃなくってね。会議。会議しないの?次の議題は?」
「えっ…まだ最初の議題についてが終わってませんよね……?ほら、いかに被害を小さくできるか、みたいな」
「へっ?ああ、うん。…そうだったな……ごめん…」

いやあの議題終わってなかったのかよ!!!俺はてっきり柔らかい意見しか出てこなかったしもう終わったものだと思ってた!!

……思い込みってよくねぇな。痛感した。


「……もうめんどくさいよ、トランプとかで僕らの勝敗決めちゃわない?」
「はあ!?ふざけんなよ、いい訳ないだろ!」
「フォルテ、落ち着いて…」
俺に続いて口を開いたアルフィーネの少女に対して激昂するフォルテを宥めるメルヴィン。うむ、泥沼な会議と化している。その後も同じような会話が少しだけ続いた。



その流れを切ったのは、他でもないアリアだった。


「…やはり、貴方たちは力で解決することしかできないのでしょうか」



沈黙。さっきとは違うそれに、俺は少しだけ嫌な感覚を覚えた。


「この国だって、前はもっと平和で平等で、誰もが楽しんで生きているような平和なところだった。…でも今は、どう?お互いの勢力を潰し合って、嘆いて、また潰し合う。…嘆かわしいことです。」

沈黙は続く。

「よく、思うんです。貴方がたそれぞれによる被害届を読む、その度に。本当に悲しいの。今のままじゃこの国にいる全員に完璧な幸福は訪れない!確かに私は二組織の間に居る中立の存在です。だからこそ、何もしないんじゃなくて国全体を、みんなを、平和に導きたい!…どうかお願いです。早く、一刻も早く、この国を平和にする方法をもう一度よく考えてみてほしいんです」



天井の高い聖堂に、アリアの澄んだ声はよく響いた。


ひょっとして、アリアの目的は会議なんかじゃなく、最初から、

「危ないっ!!!!!!」


アルフィーネの二つ結びの少女の半ば悲鳴に近い声と共に、何かが崩れた。


崩れようとした。

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