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第四楽章



「うわーーーーーーーッセレナさん!?!?!?!?!?」


ドミナント拠点に私の声はよく響き渡った。


「違うんですソプラノさん!!!これには訳が…ッッ!」
「この状況に訳も何もあるかよ!!うわ臭っ……」
「うっ、臭いは心にきますねツィスティア副指揮官~!?!?」
「うるさい、あと汚い」
「酷い!?!?!?」

ただ今ちょっとドミナント新米構成員ソプラノ、混乱しています。


事態はというと、数分前にさかのぼる。

簡潔に何があったかを説明すると、まあセレナさんが明日出す燃えるゴミをまとめようとしたら何か一悶着(というには大事件すぎるのだけれど…)あったらしく、セレナさんは今現在頭から大量のゴミを被っている…という感じだ。

そして謎の物音に驚いた私とツィスティアさんが駆けつけて今に至る。

「とりあえず片付けるぞ、このままじゃ埒が明かない」
「す、すみませんて……」
そういってしばらくすると、ツィスティアさんは箒と塵取りを用具庫から持ってきた。あ、じゃあ私は雑巾がけでもしようかな。

そういう肉体労働こそ新米の仕事、って感じもするし!

「私、雑巾とバケツもってきますね!」
「ああ、助かる」
副指揮官の短い返事を受け取りつつ、用具庫に向かって駆け出す。このドミナント拠点である建物の内装を全て覚えるにはそこそこの時間を要したものの、最近はもう1人でもなんとか拠点内を動き回れるようになった。



……はずだったんだけど。

「あれれ~~おかしいな…」

用具庫はたしかにこっちの廊下の突き当りらへんだったと思うんだけれど、どうにもそれらしき部屋は見当たらない。こ、困ったな。新米としてはここでさっと雑巾を持って駆けつけて床を綺麗にして、先輩方のお役に立つべきなんだけど…。どうにもこうにも、目的の用具庫に着けなくてはそれすらかなわない。

突き当りまで来たはいいものの、そこにあったのはあからさまに用具庫のものではなさそうな部屋のドア。しかもなんだかとても綺麗で洒落たデザインだ。ふむ、美しい。どうやら鍵は掛かっていないようだったので、その重たそうな扉をそっと押してみるとぎいぎい音を鳴らしながらそれはゆっくりと開いた。

「うーん、何の部屋なん…?」

扉を開けて見るとそこでは、たくさんの棚とその中にびっしりと詰め込まれた本たちがひっそりと息をしていた。まるで、図書館のような部屋。古い紙とインク独特の匂いがする。

私が入っていい部屋なのかどうかも怪しかったので、おそるおそる足を踏み入れる。どうやらここにある本たちは全部かなり古いものらしい。おまけに少し埃臭いような…。
この国に関する資料や文献が仕舞われている部屋なのだろうか。少し気になって、適当に本棚から一冊本を手に取ろうとして本棚に手を伸ばす。

「ソプラノ、用具庫はそっちじゃないぞ」

突如として聞こえたその声に驚いて思わずうわ、と声をあげてしまう。なんとなく悪いことをしていた気分になり、冷や汗が滲む。

「つ、ツィスティアさん…!すみません、なんかまた迷っちゃったみたいで、へへ…」
「まったく…無駄に遅いと思ったらやっぱり迷ってたのか。用具庫はこことは真逆の位置だぞ」

「すみません……」

ツィスティアさんは半ば呆れたような表情ではあ、とため息をついた。


「お前がさっき入ろうとした部屋は特別資料室だ。本来ならちゃんと施錠もしてソプラノあたりの構成員は入れないようにしてあるはずなんだが……」
「あ、そうなんですね…じゃあ先ほど鍵が開いてたのは…?」
「………ヴィーゲンリートの閉め忘れだ」
「あ…」

どうやら、セレナさんは特別資料室の掃除や片付けなど整理整頓をしていたらしい。そして特別資料室からゴミ袋を運んでいる最中に派手に転んであんな惨状を作りだしたらしかった。そして、すぐ閉めに戻る予定だった鍵もそのまま開きっぱなしだった…と。なるほど。とてもセレナさんらしい。

「まったくいつもこれだから困ったもんだ…。あぁほら、そこから真っすぐ進むと用具庫だ。素早く頼むぞ」

「はい!ソプラノ、承知いたしました!」


先輩二人の和気あいあいに殺伐としたにぎやかな会話を背に、私は再び駆け出した。

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