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第一楽章


汽車に揺られている。

蒸気機関車特有の轟音、隣や向かいの話声が絶え間を作らずにBGMのようにただ流れていく。非現実から逃げ出してきたように幸福の充満した小さな空間が、様々なことに疲れた身体を少しずつ眠気の中に放り込んでいく。やはり寝不足らしい。しかし降りる駅が次に控えているという中、今ここで寝てしまえば確実に乗り過ごしてしまうだろう。

そんな訳でどうにか目を覚まそうとおもむろに窓の先を見やると、街を練り歩きながら演奏する音楽家たちの姿がちらほらと見つけられた。その光景に少なからず安堵する。この街はまだ平穏を保っているようであった。とはいえ本来、この国_ヴィートロイメントという_は過度に音楽が栄えているせいかそのような光景を見かけるのはいたって日常のことだった。日常のはずだった。けれども今現在、この国は二つに割れて争いを始めてしまったがために世辞にも平和とは呼べない状況となっていた。

シヴォルタとアルフィーネ。

この二つの組織間の戦争が大規模なものとなり、国ぐるみでの戦争となってしまったのである。戦争の発端は、数年前から突如国中で様々な災害が急増しだしたことだった。災害と一括りにはされているが、種は本当に多様だった。自然災害、殺人、誘拐などまあ本当に様々だ。当然多くの被害者や犠牲者が出た。とうとう増えに増えた被害者遺族たちは「神メジアは私たちを見放した。これは神による報復、呪いだ。これ以上の災害が起こる前に神を宿しオルゴールを壊せ」などと神への冒涜ともとれる主張を謳い始め、様々な運動を起こし始めた。テロやデモ、メジア信者への奇襲。そんな反メジアの人間たちの中から能力所持者を集め形成された組織が「アルフィーネ」。アルフィーネは国宝である神の力が宿る「オルゴール」を壊し、国中の神への信仰を絶とうとした。そこでメジア信者たちがアルフィーネのそのような動きを止めるべく、反アルフィーネとして形成された能力者組織が「シヴォルタ」。アルフィーネに比べれば圧倒的平和主義な組織である。

とはいえお互いにお互いを滅するべくして立ち上げられた二組織なので戦争の終結はまだ見えそうにもない。そのせいか以前まで「ドミナント」という政府が所持している能力者組織も戦争を止めようとしていたものの、今は戦争を傍観する中立的な立場となってしまっている。というのもこの戦争が政府の手で負いきれない状況になってしまったために、オルゴールの存在をどうするかはこの二組織の争いの結果で決定すると公式に発表しているのだ。俺自身、それはそれでどうなのか…という疑念もあるがまあここまで状況が悪化してしまっては仕方のないことだろう。

何にせよ自分たちが望むのは国の平和だ。今日だって、街はずれにある小さな集落のアルフィーネによる被害状況調査に向かっているのだ。窓からの光景を眺める限り、今の時点での被害はあまり無さそうだが念のため集落中を回って確認しなくてはならない。

この仕事が平和に繋がる一歩となるかもしれないなら、どんなに小さなことであっても俺は尽力するつもりだ。

この国の平和のためにも、拠点で待つシヴォルタの大切な仲間たちのためにも。


いつの間にか醒めていた頭でそんなことを考えながら、メトロ・ブラーヴは汽車を後にした。
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