第四楽章
「っえ…?」
透明な圧力のような何かに気圧され、うまく声が出ない。彼は変わらずにこにことしている。掴めない、何も。
「だってさー、目に見えないのに、触れもしないのにどうして好きになれるの?不思議だな~って思ってたんだよね!あっもしかして、案外顔とかも知らない方が自分の想像の中の好みの姿で固定しておけるからそっちの方がいい~とか?」
何、どういうこと。馬鹿にしている、のかしら。
声を出せないまま、自身の頬がよくわからない怒りで紅潮していくのが分かった。依然へらへらとしている顔をきっと睨みつけた。
「………って言ったら怒るかなーって思ったんだけど、予想通りだったね。君いっつも無表情だからさ、怒ってるところ見てみたかったんだぁ。怒った顔も可愛いね?」
そういってたのしそうに、悪戯に笑う。
「は、あ…!?」
本当に意味が分からない。敵組織相手に何を言っているんだ、彼は。
「あ、照れた?ふふ、カミサマなんかよりも僕の方がよっぽど君と仲良くできると思うよ!なんて、ね」
そう言って真意の汲み取れない笑みを浮かべた後で、彼は檻の隙から挑発的に鎖に繋がれた手を私の方に伸ばす。
「そういえばキレーな髪してるよね、君って」
その手が私の長髪に触れる。自分の中にある何かが波立った。ひやりと汗が浮かぶ。
「も、もうやめて…っ!っか、からかわない、で…!!」
衝動的に、後ろに勢いよく後ずさる。
もう、頭がぼやぼやとして落ち着かない。…仕方ないけど、仕切り直し。一度上に戻って頭を冷やそう。鉄製の階段を駆け上りながら最後に叫ぶ。
「そこで、お、おとなしく、してるといい、わ…!!!」
彼が退屈そうに、ええ…と漏らした声だけが地下にしばらくこだましていた。