第四楽章
鉄製の階段を下りる足音がこつこつとうるさく鳴る。あまり立ち入ったことのない地下の空間は埃臭く、なんだか薄暗くて気味が悪い。まさに人質を閉じ込めるための牢獄、とでも言った感じだ。
「…あ、誰か来たの?ねぇ僕そろそろ帰りたいからさ、これ外してよ!」
囚われの青年のどこかあどけない声が、じゃらじゃらと鎖の揺れる音と共に地下で反響する。
声の主は、アルフィーネのペトラ・ディアガルウ。正直、苦手だ。フォルテは私が一番彼と歳が近いから話しやすいだろうなどという簡潔な理由で私を彼の一時的な看守に任命したが、実際私は人と話すことが得意ではないうえに彼のことが少し苦手なのだ。とはいえフォルテはアルフィーネを前にすると冷静さを保てなくなる節があるし、メトロの疲労もピークに達していたようだし、あの流れで私以外に適役は居なかったのだろう。仕方ない、シューツェが戻ってくるまでの辛抱。
とりあえず課せられた仕事はこなさなければ。
「……意識は、戻ったのね。…体調に変わりは、ない?」
彼の入れられている檻の前まで行く。台本通りに、淡々と、声を掛ける。
「あれー、僕の要望は無視なの?まあいっか。体調は普通だよ!超元気!でもさこれ、この枷。すうっごく痛いんだ。外してほしいんだけど」
そう言われ、彼の手足につけられた枷を見やる。…おかしいわ。シューツェは、彼に対して特に痛めつけるつもりも傷をつけるつもりもないと言っていたのだけれど。シューツェはその手のことで私たちに嘘は吐かないし、見た感じでもあの枷は特に痛そうにも見えない。
「…ただ外してもらいたくて、でまかせでも吐いているの?それは痛くなんてない、はずなのだけど」
うう、語尾がどうしてもしぼんでしまう。小さく視線をあげて檻の中を見ると、彼は思いのほかきょとんとしていた。
「そっか、これ痛くないんだね。お姉ちゃんとかヴァンくんがこういうのは痛い~って前言ってた様な気がしてたんだけどなぁ。なーんだ、僕の勘違いか!」
「……は?」
会話がまるで噛みあわない。彼は困り果てるこちらなどお構いなしにへらへらと笑っている。本当に苦手、だわ。…まあでもとりあえず、シューツェに頼まれている質問をしなければ。深呼吸して心を落ち着かせる。ふう…。
「訊きたい、ことがあるの。…答えてもらうわ」
少し口調を強める。目の前の彼は楽しそうになあに、とだけ答える。
「まず、一つ目。…あなたたちアルフィーネの…指揮官がこの国に望むものは、何」
彼はええー、と不服そうな声を漏らす。この質問に何か不満でもあるのだろうか。
「なんだろうね。あの人なんだかんだで平和主義っぽいところあるし、国の平和とかなんじゃないの。……僕もよくわかんないけど」
小さめの手帳にメモをとる。平和…か。結局どちらの組織も望む終着点は大して変わらない、ということなのだろうか。
ほんの少し望む平和の形が違うだけで、こんなにも国が、歪んでいる。
自分と違うものを持った人を、嫌うか好くかでこんなにも変わっていく。
私自身嫌われたし、嫌った。
でも、争いは好まないな。できることなら、平和でいて。
「ね、カステラちゃん。僕からも質問、いいかな」
え、と思わず声が出る。迂闊にも戸惑いを表に出してしまう。まさかむこうから質問をされるだなんて思っても見なかった。苦手の感情が膨らむ。彼のはつらつとした声が地下牢によく響く。
「なんでさ、君は目に見えないカミサマがすきなの?」
「…あ、誰か来たの?ねぇ僕そろそろ帰りたいからさ、これ外してよ!」
囚われの青年のどこかあどけない声が、じゃらじゃらと鎖の揺れる音と共に地下で反響する。
声の主は、アルフィーネのペトラ・ディアガルウ。正直、苦手だ。フォルテは私が一番彼と歳が近いから話しやすいだろうなどという簡潔な理由で私を彼の一時的な看守に任命したが、実際私は人と話すことが得意ではないうえに彼のことが少し苦手なのだ。とはいえフォルテはアルフィーネを前にすると冷静さを保てなくなる節があるし、メトロの疲労もピークに達していたようだし、あの流れで私以外に適役は居なかったのだろう。仕方ない、シューツェが戻ってくるまでの辛抱。
とりあえず課せられた仕事はこなさなければ。
「……意識は、戻ったのね。…体調に変わりは、ない?」
彼の入れられている檻の前まで行く。台本通りに、淡々と、声を掛ける。
「あれー、僕の要望は無視なの?まあいっか。体調は普通だよ!超元気!でもさこれ、この枷。すうっごく痛いんだ。外してほしいんだけど」
そう言われ、彼の手足につけられた枷を見やる。…おかしいわ。シューツェは、彼に対して特に痛めつけるつもりも傷をつけるつもりもないと言っていたのだけれど。シューツェはその手のことで私たちに嘘は吐かないし、見た感じでもあの枷は特に痛そうにも見えない。
「…ただ外してもらいたくて、でまかせでも吐いているの?それは痛くなんてない、はずなのだけど」
うう、語尾がどうしてもしぼんでしまう。小さく視線をあげて檻の中を見ると、彼は思いのほかきょとんとしていた。
「そっか、これ痛くないんだね。お姉ちゃんとかヴァンくんがこういうのは痛い~って前言ってた様な気がしてたんだけどなぁ。なーんだ、僕の勘違いか!」
「……は?」
会話がまるで噛みあわない。彼は困り果てるこちらなどお構いなしにへらへらと笑っている。本当に苦手、だわ。…まあでもとりあえず、シューツェに頼まれている質問をしなければ。深呼吸して心を落ち着かせる。ふう…。
「訊きたい、ことがあるの。…答えてもらうわ」
少し口調を強める。目の前の彼は楽しそうになあに、とだけ答える。
「まず、一つ目。…あなたたちアルフィーネの…指揮官がこの国に望むものは、何」
彼はええー、と不服そうな声を漏らす。この質問に何か不満でもあるのだろうか。
「なんだろうね。あの人なんだかんだで平和主義っぽいところあるし、国の平和とかなんじゃないの。……僕もよくわかんないけど」
小さめの手帳にメモをとる。平和…か。結局どちらの組織も望む終着点は大して変わらない、ということなのだろうか。
ほんの少し望む平和の形が違うだけで、こんなにも国が、歪んでいる。
自分と違うものを持った人を、嫌うか好くかでこんなにも変わっていく。
私自身嫌われたし、嫌った。
でも、争いは好まないな。できることなら、平和でいて。
「ね、カステラちゃん。僕からも質問、いいかな」
え、と思わず声が出る。迂闊にも戸惑いを表に出してしまう。まさかむこうから質問をされるだなんて思っても見なかった。苦手の感情が膨らむ。彼のはつらつとした声が地下牢によく響く。
「なんでさ、君は目に見えないカミサマがすきなの?」